【独自入手】明日決定の総合経済策の政府案 古い対策ばかり並ぶ「新しい資本主義」にアナリストら失望

岸田政権「経済対策の原案」を入手 「賃上げと経済構造の転換」の中身は?

前半:【独自入手】総合経済対策の政府案 現金給付なし、電気・ガス代対策も期待薄…失望売り加速の恐れ

 岸田文雄首相が10月末に策定する経済対策の原案を独自に入手した。急速な円安進行や物価高・資源高に国民が苦しむ中、注目される経済対策は「物価高騰への対応と賃上げの加速」「円安を活かした地域の『稼ぐ力』の回復・強化」「『新しい資本主義』の加速」「国民の安全・安心の確保」の4本柱だ。

 第2弾の本稿は「賃上げと経済構造の転換」について詳報する。

 今回の経済対策原案の特徴は、足元の物価高騰・円安対策を明記する一方で、「危機に強い経済構造への転換」をも明記している点だ。

 ロシアのウクライナ侵略に伴いエネルギー市場の混乱や国際的な供給不安に直面し、日本のエネルギー供給体制やエネルギー安全保障を強化する必要性が浮き彫りになった。加えて、エネルギー価格高騰と円安進行で輸入物価が上昇し、過去最大規模ともいわれる海外への所得流出が生じている。

 このため、経済対策においては「国際関係や国際商品市況の影響を過度に受けない経済構造へと転換すべく、エネルギーの安定確保とともに企業・家庭の省エネ対策の抜本強化や、ゼロエミッション電源の最大限の活用などにより、化石燃料の海外依存を引き下げ、危機に強いエネルギー供給体制を構築していく」と明記した。

 では、岸田政権は原子力政策を含めたエネルギー政策の具体案では、どのようなことを考えているのか。そのほか「危機に強い経済構造への転換」の政策パッケージに盛り込まれている、スタートアップ育成策やDX(デジタルトランスフォーメーション)推進といったトピックの中身とは?

 さらに、多くの人が気になる「賃上げ」を実現するための政策案についても、政策原案の中には明記されている。これらをお伝えしたい。

エネルギー政策の中身とは? 原発はどういう位置づけか

 まずはエネルギー政策の具体的な中身をご紹介しよう。岸田政権は燃料調達の強化を図るため、液化天然ガス(LNG)調達に対する国の関与を強化。アジア諸国との連携強化も進めつつ、余剰在庫の戦略的確保を支援する。

 省エネ対策の強化に向けては、企業・家庭の省エネ投資を「規制・支援の一体型」で促進する。中小企業の潜在的な投資需要を掘り起こすため、複数年にわたる投資計画に対応する形で今後3年間の集中的支援を行う方針だ。

 家庭においては、住宅の断熱性向上に向けた改修や高効率給湯器の導入などを支援する。

 原子力の活用については、十数基の原子力発電所の再稼働や次世代革新炉の開発・建設などについて専門家による議論を加速するとしている。

スタートアップ育成やDX推進…先端技術分野の政策は?

 また、スタートアップの育成は「日本経済のダイナミズムと成長を促し、社会的課題を解決する鍵」と位置づける。スタートアップの起業数を「5年で10倍増」にすることを視野に、5カ年計画を今年末に策定する。

 具体的には優れたIT人材を発掘・育成する取り組みの拡大や、起業を志す若手人材を「5年間1000人規模」で米シリコンバレーや東海岸へ派遣し、海外における起業家育成拠点の創設やアントレプレナーシップ(起業家精神)教育の強化、「1大学1IPO(新規株式公開)運動」の展開などを行う。

 DX推進については、2024年秋に健康保険証を廃止し、マイナンバーカードと一体化する政府方針のための環境整備や、運転免許証との一体化を加速するための取り組みも行い、マイナンバーカード取得を促進する。デジタル技術活用を阻んでいる「アナログ規制は2年で一掃する」とした。

 一方、国際情勢の変化を受けて企業がサプライチェーンの再構築を進める中、海外からは日本企業に対する供給力拡大への期待も高まっている。こうした状況を踏まえ、日米共同での次世代半導体製造の技術開発を推進する構えだ。

 同時に、先端半導体や従来型の半導体・関連部素材・半導体製造装置、蓄電池・関連部素材、クラウドといった重要な先端技術分野については、国際協調の下での供給サイドへの投資を拡大させ、安定的な供給体制を構築するという。

 そして、経済政策の4本柱の一つに据えた「円安を活かした地域の『稼ぐ力』の回復・強化」においては、訪日外国人旅行消費額の年間5兆円超達成を目指し、集中的な政策パッケージを推進する。

 大阪・関西万博が開催される25年をターゲットに、日本の観光を持続可能な形で復活させるため、新たな「観光立国推進基本計画」を22年度末までに策定する。

 また、国税収入の増額に伴い、地方公共団体が独自の地域活性化策を円滑に実施できるよう地方交付税を増額するとしている。

賃上げ政策では、企業支援策を大幅に拡充

 多くの人が気になる賃上げ政策については、「コストプッシュ型」で物価が上昇する中において、それをカバーする賃上げが重要であると言及。来春の賃金交渉は物価上昇率と同等またはそれを上回ることを目標に、中小企業や小規模事業者の生産性向上支援や価格転嫁の強力な推進を含め、賃上げ促進に全力を挙げるという。

 継続的な賃上げを促進するため、2022年度から拡充した賃上げ促進税制の活用促進や、賃上げ実施企業を政府調達において優遇することに加え、中堅・中小企業・小規模事業者における事業再構築・生産性向上と一体的に行う賃金の引き上げへの支援を大幅に拡充する。

 さらに、非正規雇用労働者の待遇改善を図るため、「同一労働・同一賃金」の順守を徹底する。加えて、最低賃金は景気や物価動向を踏まえ、地域間格差にも配慮しながら早期に「全国加重平均が1000円以上」となることを目指して取り組むとしている。

 中小企業が賃上げの原資を確保できるよう、労務費や原材料費などのコスト上昇分の適切な価格転嫁に向けた環境整備も進める。具体的には、公正取引委員会の執行体制を強化するとともに、価格転嫁を拒否している事業者に関しては独占禁止法に基づき企業名を公表する。

 また、独占禁止法や下請代金法で問題となる事案については、命令・警告・勧告など厳正な執行を行い、中小企業の価格交渉力強化に取り組む。

 公共事業については、資材価格の高騰を踏まえて適切な価格転嫁が進むよう促した上で、必要な事業量を確保。建設企業の適正な利潤の確保と労働者の賃上げにつなげていくという。

賃上げ、労働移動円滑化、人への投資…三位一体改革で好循環を醸成へ

 また、デジタル分野の新たなスキル獲得と成長分野への円滑な労働移動を進める観点からは、3年間に4000億円規模で実施している「人への投資」施策パッケージを5年間で1兆円へ拡充する。

 具体的には「企業間・産業間の労働移動の円滑化」に重点を置き、訓練後に非正規雇用を正規雇用に転換する企業や、賃上げを伴う転職・労働移動の実現に向けて、より高い賃金で新たに人を雇い入れる企業への支援拡充を行う。

 キャリアアップのための転職支援としては、リスキリング・転職までを「一気通貫」で支援する制度を新設する。地域金融機関による企業への人材マッチングに取り組むほか、副業を受け入れる企業への支援を新設する方針だ。

 働く人が自らの意思でリスキリングに取り組み、キャリア形成していくことを支援する企業への助成率を引き上げるなど、労働者のリスキリング支援を強化する。

 デジタル推進人材の育成については、26年度末までに230万人育成することを目指して強化するほか、若手研究者・留学生への支援を拡充する。

 また、年功賃金から日本に合った形での職務給への移行など、企業間・産業間での労働移動円滑化に向けた指針を来年6月までに取りまとめる。継続的な賃上げ促進、円滑な労働移動の支援、セーフティネットの再整備へ一体的に取り組む。

 このように、賃上げと労働移動の円滑化、人への投資という3つの課題の一体的改革を進め、賃上げが高いスキルの人材を惹きつけ、企業の生産性を向上させ、さらなる賃上げを生むという好循環を醸成していくことで「構造的な賃上げ」の実現を目指す。

古い政策ばかりが目立つ「新しい資本主義」の経済政策案

 岸田首相は自らが掲げた「新しい資本主義」に中身がないと批判されていることを踏まえ、賃上げ対策と日本経済を取り巻く構造転換に重きを置いた経済対策を策定している。

 ただ、経済アナリストの佐藤健太氏は「これらは、かなり前から指摘されてきたことであり、目新しいものがなく、古い政策ばかりが目立つ。首相がうたった『令和版所得倍増計画』は、いつの間にか個人が保有する金融資産を投資に回す形での『資産所得倍増プラン』に変化しており、どこまで国民や企業が『これで変わる』と信頼して動くかがポイントになるだろう」と見る。

 岸田政権発足から1年が過ぎ、内閣支持率が急落する中、首相と国民のコミュニケーション不足を指摘する声は根強い。果たして、この経済対策で日本は再興できるのだろうか。

この記事の著者
小倉健一

1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。国会議員秘書を経てプレジデント社へ入社、プレジデント編集部配属。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長就任(2020年1月)。2021年7月に独立。現在に至る。 Twitter :@ogurapunk、CONTACT : https://k-ogura.jp/contact/

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