堀江貴文「日本は経営者の世代交代が起こり、これから経済成長フェーズに入る」期待を込める2つの分野「一つは半導体、もう一つは…」
円安が止まらない。4月29日の外国為替市場で一時、1ドル160円まで値下がりし、日本中を驚愕させた。この未曾有の円安の要因として、国力の低下を指摘する識者もいるが、果たして本当なのか。
それに対して、楽観的な意見を唱えるのが、実業家の堀江貴文氏だ。「日本はこれから、経営者の世代交代が進んで、イノベーションが起こりやすくなります。一部の分野では、世界をリードする産業も生まれるでしょう」という。いったい、どういうことなのか。みんかぶマガジン編集部員が堀江氏を直撃したーー。みんかぶプレミアム特集「クライシス円安」第6回。
目次
堀江貴文が考える円安の要因は金利差…日本経済はこれから成長していくフェーズに入った
ーー円安が止まりませんが、その要因としてどんなことが考えられるでしょうか。
堀江貴文
今の円安はシンプルに金利差が要因です。金利差って、意外とバカにならないですよ。日本がなかなかインフレになっていかないので、みんながドルベースで資産を買っている、ということじゃないでしょうか。
ーーなるほど。一部では、「日本の国力が低下しているからではないか」という意見も出ていますが、どうでしょう。
堀江貴文
それはないと思いますね。むしろ、これから日本経済は成長していきますよ。日経平均株価もようやくバブル時の高値を超えて、4万円を突破したじゃないですか。それはシンプルに、日本経済の成長が期待されているからです。
これから日本経済が成長していく最大の要因は、経営者たちの世代交代です。特に、団塊の世代が経営から抜けていくのが大きいですね。
日本の歴史を紐解いていくと、大きく経済成長したタイミングって、支配層の世代交代が起きたときなんですよね。戦後、大きく日本経済が復興していったのも、戦中世代がGHQによる財閥解体や公職追放などがあって、無理やり世代交代させられた面が要因としては大きかったわけです。そこで既得権益を持った大資本が退場した結果、若い世代がどんどんチャレンジして、新しい成長企業、成長産業が生まれていきました。
それと同じことが今、起きつつあります。いわゆるJTCと呼ばれるような伝統的な日本の大企業でも、団塊の世代にあたるサラリーマン経営者が退きつつあります。あるいは、そうした大企業がイノベーションのジレンマ(※)に陥っています。天下り先の確保など、既存の利権を追求するばかりで、新しいビジネスを生み出せません。そうしている間に、新しい企業がイノベーションを起こして、実際に一部の大企業は退場しつつあります。
(※)イノベーションのジレンマ…既存事業の改善を重ねていても、新しく革新的な技術やイノベーションを生み出しにくいこと。伝統的な大企業ほど既存事業が稼ぎ頭なので、なかなか革新的な新規事業にリソースを割けず、結果として、革新的な分野に一点集中しているスタートアップなどに負けてしまうことが往々にしてある。例えば、Googleは検索エンジンの分野で圧倒的な王者だったが、次世代技術の生成AI・ChatGPTを生み出せず、実際にChatGPTを生み出したのは新興スタートアップのOpenAI社だった。
サラリーマン社長がダメな理由。テレビ局も、野球界も、サラリーマン社長がダメにした
ーーサラリーマン社長は、なぜダメなのでしょうか。
堀江貴文
サラリーマン経営者は、結局のところ雇われなので、自分の給与や地位を考えて、大局的な判断ができません。一方で、オーナー経営者は、自分が企業を所有している上に、金持ちなので、多少の批判にさらされても、耐え続けることができます。そうした違いが、判断力の差にもつながります。
サラリーマン経営者がダメである典型的な例は、日本のメディア業界にも多いです。
一例として、放送局ってまさにそうですよね。サラリーマン経営者が支配しているので、イノベーションを生み出すどころか、潰してしまっています。
衛星放送はすごいイノベーションで、衛星放送を使えば、民間放送会社がサブスクビジネスを始めることもできました。でも、日本では地上波放送局のサラリーマン経営者たちが、自らの既得権益を守るために、新興の衛生放送局がサブスクビジネスを始めるきっかけを、徐々にプレッシャーをかけていくことで潰してしまったわけです。
サブスク型のビジネスで稼ぐ放送局があれば、コンテンツも多様化でき、視聴者にとってもメリットが大きいんです。
アメリカのメジャーリーグ(MLB)は確かに人気ですが、他のアメリカのスポーツリーグであるNFL(アメフト)やNBA(バスケ)などと比較すると、ビジネスとしての規模は小さいです。実は、NPB(日本の野球)とMLBで、そんなに球場への来場者数は変わりません。
それでも、大谷翔平選手は、あれだけの年俸をもらえるわけじゃないですか。その一つの理由として、放映権をサブスク事業者に売っているから、というのが大きいんです。特に、プレーオフやワールドシリーズの放映権は高値で売れます。
日本の民放の放送事業者だと、広告が稼げるか、という観点で判断するので、こうしたプレーオフやワールドシリーズなどの放映権は、なかなか購入できません。しかし、サブスク事業者であれば、LTV(※)で判断できるので、高値であってもサブスク契約者を増やすために放映権を購入する、という決断ができます。
日本の野球をみても、パ・リーグの放映権は一本化できている一方で、セ・リーグはまだ一本化すらできておらず、だから放映権をまとめて売ることすらできていない状況です。「パ・リーグTV」はあっても、「セ・リーグTV」はないですよね。本当は、セ・リーグも放映権を一本化して、日本シリーズの放映権をサブスク事業者に高値で売るべきなんです。
これも、日本の野球オーナーたちにサラリーマン経営者が多いことの弊害です。僕が球団を買収しようとしたときも、渡辺恒雄さんというサラリーマン経営者は、球団を減らそうとしましたよね。本当は、球団を増やすべきだったんです。メジャーリーグは今も球団数を増やそうとしているのに、日本の野球界は既得権益に縛られていて、それができません。
(※)LTV…顧客生涯価値(ライフタイムバリュー)。ユーザーがサブスク型のサービスを契約終了するまでに得られる総利益のこと。LTVを考えることで、サブスク事業者はより長いスパンでの投資行動を実施することができる。