“石丸支持者”とは一体何者なのかーー「若者」を理解できない蓮舫支持者…立民は生まれ変わらなければ存続危うい(三浦瑠麗)
7月7日投開票の都知事選は現職小池百合子氏の圧勝で終わった。しかし、永田町や世間を驚かせたのは得票数2位が蓮舫氏ではなく、元安芸高田市長の石丸伸二氏だったことだ。なぜ石丸氏が2位になったのか、誰が支持したのか。国際政治学者の三浦瑠麗氏が都知事選を振り返る。全2回に第1回目ーー。
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政界アウトサイダー…今回のような旋風は二回巻き起こすのは難しい
新顔で2位と健闘した都知事選以来、石丸伸二氏の話題が多い。新党を作るのではないかという期待や憶測も広がっているし、彼自身国政進出の可能性を排除していないことから、話題が集中するのは頷ける。彼の著書に鑑みるに、一見して抽象的な議論ができる頭の良い人という印象を受けるが、頭の良い人材は自民党に幾らでもいる。石丸氏に目立つ特徴はむしろ既得権批判であり、既存政治家批判だろう。エスタブリッシュメント批判は、アウトサイダーの特権である。安芸高田市という小さな自治体の市長しかやっていないことは、むしろこの点プラスに働きうる。街頭演説やオンライン動画を、シンプルな改革意思の表明にとどめたのも意図あってのことのようだ。おそらく、トランプのエスタブリッシュメント批判、オバマの「チェンジ!」のスローガン、メディアと対決する橋下徹スタイルなど、さまざまな政治家を研究したうえで戦略を立てているのだろう。
もちろん、今回のような旋風は二回巻き起こすのは難しい。新顔であればあるほど期待値が上がり、既知の候補は票を減らす(4位につけた田母神氏は今回得票を大幅に減らした)。だから、次は都知事選よりも前にやってくる他の選挙で、どうやってこの「資産」を使い電撃戦を行うかという話にならざるをえない。
しかし、筆者は石丸氏をよく知らないため分析の材料を欠くうえ、石丸氏本人について分析することは今回の選挙の分析に当たって本質ではないと思料する。というのも、日本の今後の民主主義を考える上では、石丸氏に投票した人々はいったいどのような人たちなのかという有権者分析こそが、肝となるからである。
若年層を理解できない大人たち
石丸氏がなぜここまで票を取ったのか理解できない、という声が、3位につけた蓮舫陣営を応援していた人たちから上がった。NHKの出口調査によれば、年代別にみて蓮舫氏が強かったのは70代。石丸氏は10代から20代の若年層をかなり取っており、小池氏を上回った。30代から40代では石丸氏と小池氏が拮抗、50代では小池氏が逆転し、60代から上だと蓮舫氏の存在感が石丸氏にとって代わる。投票率が低い若者が大挙して選挙に行くようになれば、むしろ蓮舫氏が不利になる構図である。都知事選と国政選挙とは同一線上で語れないが、国政選挙において都市部は本来野党の主戦場である。従来から投票率向上を呼び掛けて来た最大野党立憲民主党にとって、危惧すべき事態であるのは間違いないだろう。
候補者のメッセージの訴求力で、よく言われる接触メディアと並んで重要な点は、世代による「改革の夢」の原体験の違いである。蓮舫氏が強い70代は、平成の改革期に現役であった人たちであり、その時代の改革の夢のイメージのまま現在に至っている。「改革」という単語への認知度、意味内容は世代特有の体験によって異なる。「改革」が象徴する人物やイメージが世代によって全く異なることに留意しなければ、異なる世代がなぜ自分と違う投票行動をするのかが理解できないし、自陣営に投票してくれなかった人たちを一概に頭が悪い、騙されていると決めつけることになりかねない。蓮舫氏の掲げる「行財政改革」は若者に響かなかった。若者からすると、石丸氏の「一緒に変えていきましょう」というメッセージは初見であり、インパクトが強かったようだ。しかし、これは既存政治に食い込んでおらず彗星のように現れる新顔候補にもっとも有利な点である(オバマがそうだった)。
なお、最近指摘されることとして、若者は「革新」「保守」「改革」という言葉を聞いてイメージする意味内容が年長世代とかなり異なるという事実がある。共産党が「保守」だと思ってしまう人も多い。要は、世代によって政治の原体験が異なり、浸透している言葉もその解釈も異なるのだということを理解しなければならない。これらを踏まえ、メッセージングにさえ注意すれば、若者に意思を届けるのはそこまで難しいことではない。