「フランス人よ、恥を知れ!」”最悪の大会”に各国疑問…セーヌ川レース、カナダ「10回嘔吐」、ポルトガル「2人胃腸感染症」、ベルギー「水質問題は?」
パリ五輪が終わった。開幕前、五輪に及ぶ日本国内の経済効果は2500億円にも上るとの試算がでていた。日本も多くのメダルを獲得した一方で、この大会についてはどこかスッキリしない気分の国民も多いのではないだろうか。例えば、疑惑の判定の数々に憤っている人もいるだろう。ほかにも、トライアスロン競技でのセーヌ川の水質問題についても大きな議論を巻き起こしている。出場選手の中には嘔吐したり、体調不良を訴えたりする選手が相次いだ。例えばポルトガルオリンピック委員会はトライアスロンの混合リレーに出場した男女の2選手が胃腸感染症を発症したことを発表している。ギリシャの日刊紙『Ethnos』は「フランス人よ、恥を知れ! われわれはここ数十年で最悪の五輪を見せられている」などと声を荒げた。一体何が問題だったのか。経済誌プレジデントの元編集長で、作家の小倉健一氏が解説するーー。
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嘔吐し、体調不良を訴えた選手には同情を禁じ得ない
パリ五輪では、日本人選手の活躍、悔しい審判のジャッジなどさまざまなことが起きたが、一番印象に残っているものは何かと問われたら、パリの中心部を通り、街のシンボルとも言える「セーヌ川」での大惨事と答えるかもしれない。ここで泳がされ嘔吐し、体調不良を訴えた選手には同情を禁じ得ない。「セーヌの水質はきれいとは言えないけど、それでもこれまでよりもずっとマシになった」「他の選手も条件は同じ」だからとドブ川へのダイブを強要された訳である。
パリでは大雨が降ると、排水がセーヌ川へと流れ込むため、川の中に含まれる大腸菌などの細菌の量が増加する。この影響で川の水質が悪化し、健康に悪影響を及ぼす危険性が高まってしまった。
<下水道整備ではいま、雨水と生活排水の配管を分離する「分流式」が主流だが、パリには雨水と生活排水が混ざり合う「合流式」が多く残る。このため大雨が降って水位が上がると、排水が下水処理場にたどり着く前にセーヌ川に流れ込み、汚染の元凶になってきた。上流の河岸からの農薬流出、観光船の増加が水質悪化に拍車をかけた>(産経新聞、8月6日)
実は、セーヌ川での水泳は禁止されていた。何世紀もの間、この川は洗濯物の汚れ、人間の排泄物、中世の肉屋が投げ捨てた動物の部位などのゴミ捨て場だったのだ。19世紀には、工場や人間の廃水が直接セーヌ川に流されることが多かった。その禁止措置は1923年から続いており、理由はまさにこのような水質の悪さによる健康への危険があるためである。改めて述べるが、セーヌ川を汚染する大腸菌や腸球菌という細菌は、しばしば糞便(ふんべん)に由来する汚染物質と関連している。
「泳ぐなら海に行く、セーヌ川に泳ぐことには抵抗感」
これらの細菌が含まれている水を飲んだり、口に入れたりすると、体にさまざまな病気を引き起こすことがある。例えば、これらの細菌が体内に入ると、下痢を起こしたり、尿路感染症という病気になったりすることがある。尿路感染症は、おしっこをするときに痛みを感じたり、おしっこが濁ったりする病気である。また、肺炎という肺の病気や、敗血症という血液の中で細菌が増える病気になることもある。このように、大腸菌や腸球菌が含まれた水を飲むと、健康に大きな悪影響を及ぼす可能性がある。
2024年のオリンピック・パラリンピックを控えて、フランス政府は川の水質を改善するために15億ドル(約2000億円)という巨額の資金を投入した。この資金は川の水をきれいにするために使われたが、残念ながらその効果は期待を大きく下回るものとなっている。つまり、思ったほどの水質改善が見られず、健康被害が続出した訳だ。