政府・日銀大騒動に竹中平蔵「私が政府の一員だった時にはありえない」日経平均「じわじわ下落」を示唆…とくに影響が大きい2つの業種
日経平均、為替相場、ともに大きく動いている。8月5日、日経平均株価の終値は4400円を超えるかつてない急落となったが、8月13西にはその「過去最大の暴落」前の水準である3万6000円台を取り戻した。このあと相場はどう動くのか。経済学者の竹中平蔵氏は「じわじわ、じわじわと下落し、上値が重くなる」可能性を指摘するーー。
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じわじわ、じわじわと下落
今、金融相場はとても不安定な状況にあります。為替、株価、両方ともです。
株価が急激に上がり始めたのは2023年の春です。当時日経平均株価が2万8000円台だったところから、わけもわからず上がりだし、4万円を突破しました。ただ日本国内には日経平均が上がる決定的な要因などなかったのですね。要するに先日まで4万円代の株価は「オーバーシュート」(相場が過剰に反応して、行き過ぎた動きとなること)だったと思っています。まともな経営者、経済関係者であればこの株価には大きな違和感を覚えていたはずです。実態に裏付けられた株価ではなかったからこそ、ある程度の株価下落があったとしても不思議ではない状況です。そこまで一気にはいかないと個人的には思っていますが、じわじわ、じわじわと下落し、上値が重くなるかもしれません。
オーバーシュートした株価については本来、緩やかに正常値に戻していくのが一番いいのですが、何かショックがあると暴落します。今回日経平均の一時的な暴落については、アメリカの雇用統計がショックの一つになりました。米労働省が発表した7月の雇用統計によると非農業部門の就業者数は市場予想を下回り、失業率は4.3%に上昇しました。賃金の伸びも鈍化し、アメリカ経済の減速が示唆された形です。これによりアメリカ経済に対する悲観論が生まれました。つまりこれから「不況に突入するのではないか」という懸念です。
もう一つのショック要因はアメリカでの利下げに対する懸念です。米連邦公開市場委員会(FOMC)のパウエル議長は記者会見で「9月の利下げ開始もありうる」と明言しています。アメリカの利下げが実施されれば、それは為替に影響し、日経平均を構成する多くのグローバル企業の業績に響きます。この2つのショック要因が同時に起き、日経平均は8月5日、1987年のブラックマンデーの翌日を上回る過去最大の下げ幅を記録しました。日本の株価は基本的に米国の経済・株価に連動しているのです。
植田和男日銀総裁の発言に微妙な変化
さて日本の金利の引き上げについて、植田和男日銀総裁の発言に微妙な変化があったことにみなさんは気づきましたか。今まで2%のインフレ目標の達成には2つの要因があると言っていました。1つ目は「海外輸入物価がどうなるか」。2つ目は「賃金と物価の好循環が実現するか」でした。しかし、先日の会見ではこの第2の要因について発言しておりませんでした。これは「為替を意識した利上げ」だったことを示唆しています。
これまでの植田総裁と市場の対話を巡っては、必ずしもうまくいっていたとは言えませんでした。「金融緩和を当面続ける」というような誤ったメッセージが市場には浸透していたように感じます。それが故に円は1ドル160円まで下がったわけで、その分を「取り返す」という意味で日銀は政策金利を0.25%に引き上げたとみられます。ただ結果論として、タイミングはよくありませんでした。
アメリカが不況になる、だから金利が下がるという不安に対して、逆に日本は金利を上げたので、金利格差が縮まり、円が上がったのです。その円も、購買力平価(日米の購買力が等しくなるような為替レート)でいえば1ドル110円程度に対して、実際には1ドル160円だったので、それを戻そうとする圧力が非常に強かったとも見られます。
私が政府の一員であったころには考えられない
更に機関投資家などの間も一般化されたプログラミングされた自動トレードシステムも株価下落を加速させたとも言われています。自動トレードでは株価が下がれば自動で損切りするので、人間の投資家とは少々違う動きをします。また、今まで日本株を買っていた海外のファンド、とくに中小規模のファンドの運営状況が悪くなり「株を買えない」という状況にあったことも影響しているでしょう。
いずれにせよ、今回の件で私が気になっているのは、日銀の利上げ前日に日経新聞にそのことが報道されたことです。政策決定会合で金利をどうするかということが堂々と紙面に載るのはおかしな話であり、「市場との対話」とはこういうことではないはずです。また利上げ後、岸田文雄総理や茂木敏充幹事長が日銀の決定をポジティブにとらえる発言にしていました。これは政府と日銀が一体となってやったこということでしょうし、日銀のリークも政府が関与しているのでしょう。私が政府の一員であった時には考えられないことです。
植田和男日銀総裁の発言に微妙な変化
今、政府と日銀が直接話し合う機会というのはものすごく増えています。でも本来、日銀とは政府から独立した立場にあります。このことは株価変動とは直接的に関係ないかもしれませんが、私は大変憂慮しています。