国民は待っていた「石破茂総理待望論」!宰相の座をつかむ2つのシナリオ…国会議員評「雪なだれ」へ

 パリ五輪の閉幕に合わせるかのように岸田文雄首相が自らの政権閉幕宣言をした。事実上の首相選びとなる自民党総裁選の“号砲”が鳴り、立候補予定者は一斉に動き出す。岸田氏からバトンを受け取り、自民党再生の先頭に立つのは誰なのか。永田町事情に通じる経済アナリストの佐藤健太氏は「どの調査を見ても人気が最も高いのは石破茂元幹事長だ。旧態依然とした派閥の論理や長老・ベテラン議員による『談合』で石破氏以外が選ばれることになれば、政権交代は遠くないだろう」と見るーー。

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メディアの世論調査で「最も首相に近い男」

「責任を果たしたい。それなりの覚悟をしている」。台湾を訪問中の石破元幹事長は8月14日、岸田首相が9月に実施される自民党総裁選に不出馬を表明したことについて「国民に党として責任を取ったと見せるのは立派な判断だ」と語り、自らの出馬に向けて同僚議員への働きかけを本格化させる考えを示した。

 最近の自民党総裁選は「夏と言えば花火、スイカ、甲子園」と言うように、石破氏の動向と切り離せないものだ。メディアの世論調査で「最も首相に近い男」は過去4度挑戦し、トップリーダーに就くための準備を重ねてきた。

 その男に政治家人生最大のチャンスが到来している。石破氏が国民の人気がありながら敗北を続けてきたのは、自民党の「派閥の論理」が総裁選で大きく作用してきたからだ。民主党からの政権奪還直前に実施された2012年9月の総裁選では、1回目の投票でトップの199票を獲得して2位の安倍晋三元首相に58票差をつけた。特に地方票では165票を集め、ダブルスコアをつけられた安倍氏サイドを慌てさせたものだ。

国民から人気はあっても仲間の人望は薄い

 だが過半数には届かず、国会議員のみによる2回目の投票では自民党最大派閥に属する安倍氏に敗れている。この時は、石破氏が最も首相の座に近づいた瞬間と言える。ただ、その後の総裁選では「安倍1強時代」の到来により、思うように立候補に必要な推薦人20人を集めることにも苦労してきた。「石破氏はもう終わったのか」。永田町では政権批判コメントを集める新聞社やテレビ局には重宝されても、総裁選では「勝てない男」との評が定着した。

 ただ、今度の総裁選は従来とは異なる意味を持つ。自民党派閥の政治資金パーティーをめぐる裏金問題を受けて岸田首相(現総裁)は自らが率いてきた「岸田派」(宏池会)の解消を表明。さらに最大派閥「安倍派」(清和政策研究会)や「二階派」(志帥会)なども解散を余儀なくされた。

石破氏が宰相の座をつかむシナリオとしては、2つ

 こうした「政治とカネ」問題への風当たりは強く、自民党は全国各地の選挙で敗北が相次いでいる。派閥が力を失い、内閣支持率が超低空飛行を続ける中で実施される次期総裁選は石破氏にとって好機でしかない。物価上昇に国民があえぐ状況で増税プランや社会保険料アップを決め、次々と不祥事が飛び出す自民党政治は国民感覚との距離が生じてきた。その中で国民人気ナンバーワンの石破氏が求められるのは必然とも言える。

 石破氏が宰相の座をつかむシナリオとしては、2つ考えられる。1つ目は、国民的な人気を背景に自力で「石破旋風」を巻き起こし、1回目の投票で過半数の支持を獲得するシナリオだ。共同通信社が7月に実施した世論調査によれば、次の総裁にふさわしい人物として石破氏は28.4%でトップだった。2位は小泉進次郎元環境相(12.7%)、3位は高市早苗経済安全保障相(10.4%)で他を圧倒していることがわかる。

 最近の石破氏がこれまでと違うのは、自民党支持層からの人気も集めていることにある。石破氏は自民支持層でも29.1%の期待を集め、保守層からの人気が高い高市氏(12.9%)や小泉氏(12.8%)らを上回っている。この点は総裁選で有利に働くとみられる大きな変化だ。総裁選は地方票の動向が結果を左右する。

今回の総裁選のタイミングは、石破氏に最高の追い風

 かつて派閥の影響力が強い地域は「永田町の論理」が反映されてきたが、今は派閥そのものが衰退した。すると、世論調査の結果が直結しやすい環境に変わったと言える。地方票が一気に石破氏に傾くことがあれば、国会議員票にも少なからず好影響を与えるだろう。今回の総裁選のタイミングは、石破氏に最高の追い風となっている。

 もう1つのシナリオは、多数の立候補者が現れた時のものだ。2012年総裁選の決選投票で敗れた石破氏は「地方票はとれても、国会議員票は少ない」と言われた。群れることを嫌い、党長老やベテラン議員にこびない石破氏は妬まれることも多く、同僚議員から慕われているとは言い難い。

 だが、今回は決選投票で「組める相手」が存在する。それは小泉元環境相であり、河野太郎デジタル相だ。3人は「小石河連合」と言われ、以前の総裁選に河野氏が出馬した際に支援する枠組みを形成した。

国会議員票が雪崩を打つ可能性は十分

 小泉、河野両氏ともに今度は立候補に意欲を示しているが、仮に「小石河」の3人が全員出馬することになれば、1回目の投票で最も多くの票を獲得した人物に決選投票では力を集中させることができる。かつての枠組みは決して無駄ではなかったのだ。

 石破氏が勝利する場合に最大のキーマンとなるのは、菅義偉前首相だ。石破氏と菅氏は2012年の総裁選で安倍氏が勝利した後、「石破幹事長―菅幹事長代行」という組み合わせで仕事した関係にある。安倍政権発足後は「石破幹事長―菅官房長官」で2年近く政権や党の運営を担った。

 今回は小泉氏を推すとみられている菅氏だが、「文藝春秋」8月号では「石破茂さんは期待できる経験豊富なリーダーのお一人だと思います。真正直な人柄で、簡単には主張を変えないところも強みです」と評価しており、7月初めに石破氏と直接会談している。選挙巧者として知られ、無派閥議員からの信頼も厚い菅氏が決選投票で石破氏サイドにつくことになれば、国会議員票が雪崩を打つ可能性は十分あるだろう。

 ただ、石破氏には懸念も残る。それは安倍系や麻生系の議員から嫌われていることだ。石破氏は幹事長に起用された後、安倍氏からの入閣要請に難色を示したとされる。安倍系議員には「恩義を感じない人物」と映り、その敵意に似た感情は安倍氏亡き今も残っている。

 麻生太郎副総裁は2008年に自らの内閣で石破氏を農林水産相に抜擢したものの、内閣支持率が下落していくと与謝野馨財務相とともに「麻生おろし」に加担したことを忘れてはいない。麻生派はいまだ存続しており、「石破氏だけは絶対に許せない」という声も根強い。

 とはいえ、下手をすれば下野もあり得る自民党の状況を考えれば、恨みや妬みでリーダーを選ぶだけの余裕はない。石破氏に対するバチバチの闘いを挑めば、それが国民にゴタゴタと映って政権交代を許す結果につながりかねないからだ。安倍系や麻生系の議員が抱く複雑な感情とは対照的に、野党時代は谷垣禎一総裁の下で政調会長として汗をかき、衆院予算委員会の野党筆頭理事に就いて民主党政権を徹底追及した石破氏を評価する向きもある。

 「政治とカネ」問題が自民党を直撃し、より厳しい政治資金規正法改正が待ったなしの状況においては、1988年に発覚したリクルート事件を受けて政治改革の必要性を訴え続けた石破氏の“登板”は時代の要請のようにも映る。

長らく「無冠の帝王」と呼ばれてきた石破

 石破氏は8月に上梓した「保守政治家―わが政策、わが天命」(講談社)で、師と仰ぐ田中角栄元首相の「総理大臣だけは努力したからなれるものではない。それは天命だ」との言葉を引用しながら、「天命が下った時に能力が足りないという言い訳は許されない」と正直な思いを吐露している。

 長らく「無冠の帝王」と呼ばれてきた石破氏は、5度目の挑戦でトップリーダーの座をつかむことができるのか。自ら語っていた「私なんかが首相になれる時というのは、自民党がどうにもならない時だ」という言葉は、ついに到来したように見える。

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この記事の著者
佐藤健太

ライフプランのFP相談サービス『マネーセージ』(https://moneysage.jp)執行役員(CMO)。心理カウンセラー・デジタル×教育アナリスト。社会問題から政治・経済まで幅広いテーマでソーシャルリスニングも用いた分析を行い、各種コンサルティングも担う。様々なメディアでコラムニストとしても活躍している

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