ついに始まった倒産連鎖…日本が危ない、14年上半期以来の高水準!オワコン化している2業界と次に危ない6業界「日銀リップサービスを信じるな!」

2024年8月5日の日経平均株価は4451円安で、1987年10月20日の3836円を暴落幅で超え過去最大、暴落率でも史上2番目となった。株価はその後、一定まで戻してきたものの、予断を許さない状況だ。
株式評論家の木戸次郎氏は「利上げの流れは止まらず、特定の業界では倒産連鎖が加速するだろう」と指摘するーー。みんかぶプレミアム特集「一人勝ち投資術」第1回。
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MBO予想が見事に的中
さて、今回は冒頭にご報告を一つしておきたい。みんかぶマガジンを購読されている方は、私がこのコラムにおいて東証スタンダード:6362の石井鐵工所についてMBOの最有力候補として前回も前々回もその前も再三再四、書き続けたことをよくご存じの事と思うが、その石井鐵工所が8月8日になんと1株あたり8364円での公開買い付け、MBOを発表した。
2800円~2900円だった株価を考えれば、時価の約3倍にも及ぶ株価での買い付けに多くの株主は歓喜したであろうと思う。おそらく、長きに渡る証券史上でみてもプレミアム3倍というのは間違いなくベスト3に入るほどのインパクトであろう。
石井鐵工所についてはシンガポールのバサンタ・マスターファンドが約2年に渡って同社に資本政策の重要性やアクティビストのスウォーミングの危険性などについてのエンゲージメントを粘り強く行った結果、100年企業の石井鐵工所サイドも本格的に資本政策の見直しに乗り出し、株主を一掃するという結果に至ったことが今回の歴史的MBO劇に繋がったのだと思う。
この秋に親子上場解消が大きなテーマとなる会社
因みに暫し時間はかかるかもしれないが、バサンタ・マスターファンドは現在、親子上場解消に向けた取り組みで東洋水産の連結子会社である東証スタンダード:2806のユタカフーズについても精力的にエンゲージメント活動を約2年にわたって展開しており、今後の動きが注目されるであろう。
特に親会社の東洋水産は時価総額1兆円を超える巨大企業であるにもかかわらず、投資会社のグローバル・グロース・パートナーズ・マネジメント(NHGGP)に約4%も株式を取得されたこと自体もショックであろうし、何よりNHGGPが提出した「資本コストや株価を意識した取り組みなど」の株主提案に賛成率が48.66%もあったことは東洋水産にしてみれば震撼したほどの出来事だったといえよう。
特別決議だったので今回は否決されたものの、外国人株主比率が42%を超えている同社にはこうした問題を早急に解決することが求められるであろう。無論、他業種でも親子上場解消は間違いなく急ピッチで進むことは確実だ。この秋は親子上場解消が大きなテーマとなってくると予想している。
日銀副総裁のリップサービスに踊らされている市場…トランプ当選なら円高
さて、本題に入ろうと思う。今回は秋口より本格的に利上げに舵を切った日銀と景気後退で利下げが現実的になってきた米国FRBについて、日本経済や家計がどんな影響を受けるかについてお話していきたいと思う。
先月の31日の会見で日銀の植田総裁が年内のさらなる追加利上げの可能性に言及したことやアメリカの景気減速への懸念から、円相場は今月5日には1ドル=141円台まで急速に円高が進行。株式市場はブラックマンデーをしのぐ大暴落を経験し、日経平均は31156円まで急降下した。しかし、火消しに回った日銀の内田副総裁が講演で「金融資本市場が不安定な状況で利上げすることはない」と発言したことが安心感が広がり、結果的には日経平均は5000円以上戻し、為替も15日時点には1ドル=147円台まで円安が進んだ。
日銀副総裁の発言がここまで為替市場や株式市場に影響を与えたことは過去を遡ってもあまり記憶にない。要するに多くの投資家が日銀副総裁のリップサービスであろう希望的観測を受け入れ、マスターベーションのように戻しているのが現状だと思うのだ。しかし、潮流は日銀が利上げに舵を切った時点で大きく変わっているのだ。それに、今さら米国も利下げのタイミングをこれ以上延ばせば、米国自体が深刻なスタグフレーションに陥ってしまうのは明白だ。
11月5日の米国大統領選挙で、万一、トランプが大統領に選ばれれば、クレイジーな奇策のオンパレードに全く予測はつかなくなるが、確実に円高が進むことだけは間違いないであろう。
対外的には「円安日本」=「好景気」に見えていた
まず、日本の経済を語るうえで物価についてフォーカスして考えたい。物価というのは経済活動が活発になるほど市中に資金が多く流通するので必然的に上がりやすくなるものだ。
つまり、購買意欲が活発になるのだが、逆に経済活動が低迷してくると、節約などで市中に出回る資金量が極端に減りだすので、物が売れなくなり、その結果、物価は安くなるものである。ところが、コロナ禍以降の日本はお世辞にも経済活動が活発であったとはいえない状況下であるにもかかわらず、円安に原材料費の急騰やウクライナ情勢の緊迫化によるエネルギー価格の上昇で物価は世界的にこれまでにないスピードで上昇してきている。
前回も書かせていただいたが、日本は自動車や半導体などの一部の輸出産業が好調ならば、それだけで経済指数を押し上げるだけのインパクトを持っている。だから円安は彼らにとっては最大のフォローの風であったに違いない。実際に輸出産業の好調さだけで税収も過去最高を記録するほどだった。対外的には円安日本は好景気に見えたはずだ。
2024年上半期の倒産件数は4887件で、2014年上半期以来の高水準
ところが内需を支えてきた外食産業や中小零細企業は原材料やエネルギー、人件費の高騰にコロナ禍以降はずっと喘いできており、退場せざるを得なくなった企業は数多くあった。
実際に、帝国データバンクの調査によると、2024年上半期の倒産件数は4887件(前年同期比22.0%増)で、2年連続で前年同期を上回り、2014年上半期(5073件)以来10年ぶりの高水準となった。コロナ禍での倒産件数は既に軽々と超えており、今のペースでいけば、2011年の東日本大震災時や2008年のリーマンショックを超えてくる可能性すら否定できない。
だから、極端な円安の恩恵を全面に受けた字面だけ好調な輸出産業による経済指標の数字は、勝ち組・負け組の二極化を生んだだけで、多体感的に言えば間違いなく景気などよくないのだ。
中小企業や消費者にとって、円高は大歓迎な理由
ただ、これから円安特需はどんどんなくなってくるので、円安にかまけて競争力自体も低下している輸出産業は、本格的に国際競争力をつけていかなければ、それこそ韓国や中国の企業に足元を掬われることになるかもしれない。
一方、円高が進めばすすむほど原材料やエネルギー代は抑えられる。抑えられた経費は今後、実質的には全く上がっていなかった人件費に回せる、すなわち価格転嫁が機能してくるのである。
正直、中小零細企業や家計にとっては円高への移行は大歓迎なのである。無論、海外旅行者も増えるであろう。