新千円札に隠された南海トラフのタイミング…陰謀論はなぜ生まれ、どうして広まり、信じてしまうのかーー経済誌元編集長が解説

「世界は誰かに操られている」「日々の出来事は誰かが牛耳っている」政治的・社会的な出来事などについて、背後に大きな力が働いているとする「陰謀論」を信じる人は、世界中に大勢いる。アメリカのトランプ前大統領が銃撃された事件後も、ねつ造や自作自演、または演出されたものだと主張する人がSNSでは見られた。経済誌プレジデントの元編集長で作家の小倉健一氏が、そんな陰謀論について思うところを語るーー。

目次

陰謀論は経済誌の売れ筋特集でもある

 みんな陰謀論が大好きーーかくいう私もその一人だ。特に、お札にまつわる陰謀めいた話は、テーブルトーク、雑談のネタにうってつけだと思う。雑談というと軽く扱われがちだが、実は、経済誌の一大売れ筋特集でもある。コロナのワクチンがどうのとか、日本政府は実は乗っ取られているから、などという、ちょっとガチ系のものは引かれるが「お札に実は秘められたメッセージがある」というのは、雑談のネタとしてぴったりであろう。

 とはいえ、相手にしてみると真剣にそのことを信じている可能性もあるので、あまり初めからバカにした態度はとらず、誠実に話を聞いてみている。信じない人は「陰謀論、陰謀論」といって相手にしないが、よくわからない動機で物事が動くことや人事が決定されることは、日常茶飯事ではないだろうか。

 例えば、首相官邸で首相を支える補佐官や秘書官などの裏方が、大学なら慶應義塾大学だったり、高校だったら開成高校やら、麻布高校やら、武蔵高校の出身者やらで固められているということはよくある。在学時は言葉を交わしたこともない高校の先輩・後輩を大事にするという人事はまったくもって合理性を欠いたものだが、何か特別なものを感じる人も多いのだろう。

 本人たちは意識していないのだろうが、特に面識もない同士が、同じ学校の卒業生というだけで形成されるグループは、秘密結社そのものであると言える。このようなグループは、表向きはただの同窓会やネットワークと見えるが、内部では特定の利益を共有し、外部に知られない情報や影響力を行使することがある。さらに、内部の結束力と排他的な性質から、外部者にはアクセスできない特権や機会が存在することが多い。これらの特徴は、まさに秘密結社と呼ぶにふさわしいものである。

政治家がドル札を取り出し陰謀論を展開

 世界がすべて合理的に動いているというのは大きな思い違いであるのだから、日頃から陰謀論に触れて、非合理な現実に慣れるためのワクチンぐらいに考えておくのが人間社会を渡り歩くコツなのであろう。ちなみに、筆者は武蔵出身だが、同じく武蔵出身で、岸田文雄首相の腹心である木原誠二官房副長官が規制緩和にかなり後ろ向きであると知り、忖度なく批判した。すると「木原を知っている」と言う先輩から「あまり木原を叩いてやるな」と有難いアドバイスをいただいた。武蔵はバンカラで、群れないのが美風(シンボルとして疑り深いヤギを校内に飼っている)であったはずなのに、本当にダメな先輩たちだと思う。まあ、そんなことはどうでもいい。

 お札にまつわる陰謀論について初めて触れたのは、自民党の政治家のスタッフをしていたときだ。政治家と晩御飯を食べているときに、その政治家がおもむろに一ドル札を取り出すと、「このピラミッドとその頂点にある目には恐ろしい陰謀が隠されている」のだと真顔で言うのだ。

 それからしばらくして、プレジデントという経済メディアで編集をすることになり、今では西和賀町で町議になった唐仁原俊博さんを書き手として、山口へ取材で一緒に出張に行ったときのことだ。

 取材先の人がインタビューを終えると、「東京の人はご存知だと思いますが…」と千円札(野口英世の肖像画)を取り出すと「野口英世の顔を半分のところで縦に折ってください」「右と左でまったく別人なんですよ」「左は野口英世です。右は明らかに違う。何らかのメッセージを読み解いてほしい」と教えてくれたことがあった。 

 他にもその千円札は裏側に「富士山」が描かれているがそれを光にあてて透かすと、ちょうど富士山の頂上付近に野口英世の「目」が重なる。これは「一ドル札と一緒で、ピラミッドとその頂点に『全能の目』(Eye of Providence)と考えて間違いないです」と不敵に笑うのだった。

「すごいですね」と答えていた唐仁原さんが本気ですごいと思ったのか――それはわかるよしもないが、非常に印象に残る体験であった。

 陰謀論で調べてみると、昔から存在し、それをまた研究した論文があったことがわかる。人間社会では近代化の過程で消えていったはずの、霊的なもの、目に見えないものに対する恐れのようなものがあるのだろうか。

アメリカ人の半数以上が「CIAがジョン・F・ケネディ大統領を殺した」

 例えば、アメリカ人の約60%は、CIAがジョン・F・ケネディ大統領を殺したと信じ続けており、2016年にイギリスで行われた欧州連合(EU)加盟の是非を問う国民投票では、「離脱」に投票しようとする人の約46%が、投票は不正に行われると信じていた。こうした国民の持つ陰謀論について、『陰謀論を理解する』(2019年、カレン・M・ダグラスら)はこう解説する。

<「陰謀」とは実際に起こった出来事やその因果関係を指すが、「陰謀論」は、その陰謀が本当にあったかどうかは分からないという疑いのことを指す。例えば、アメリカでは約60%の人々がCIAがケネディ大統領を暗殺したと信じている。例えば、2001年に起きた9/11テロ攻撃について、ブッシュ政権やサウジアラビア政府、大企業、金融業界、ユダヤ人が関与しているという陰謀論がある。また、気候変動についても、科学者、共産主義者、国連、民主党、政府、石油産業などが陰謀を企てているという主張が存在する>

 では、人はなぜ陰謀論を信じてしまうかについては、少し古い研究だが『陰謀論を信じる』(1994年、テッド・ゲーツェル)という論文があり、この中でアメリカのニュージャージー州の住民を対象に、10の陰謀論について真実かどうかを尋ねている。その結果、いくつかの陰謀説を信じる人もいれば、まったく信じない人もいることがわかった。そして、研究は<陰謀論は自己完結型の信念システムの一部である>という結論に至る。

一つの陰謀論を信じる人は、他の陰謀論も信じやすくなる

 論文の中身を端折って紹介しているので、ちょっと何を言っているのかわかりにくいかもしれないが、この「自己完結型の信念システム」というのは、陰謀論が互いに関連し合い、互いを支え合うネットワークのように広がっていくというものだ。つまり、一つの陰謀論を信じる人は、他の陰謀論も信じやすくなるということだ。

 さらに、ある陰謀論を信じる人は、その陰謀論に証拠がないとされる場合、別の陰謀論を持ち出して、その証拠のなさを説明しようとすることが多い。例えば「この陰謀論が証明されていないのは、さらに大きな陰謀が隠されているからだ」といった具合だ。このように、陰謀論はお互いを補強し合う傾向があるという。この論文を読むと、陰謀論にハマった人がなかなか抜けられない理由がわかるような気がする。こちらが矛盾を指摘したり、否定的なニュアンスで答えたところで、相手の「信念」はあまり揺らがないということになる。

新千円札から「ある陰謀」を発見した

 さて、新千円札(北里柴三郎)に話題を移そう。私は陰謀論者とのこれまでの対話を踏まえて、論理を飲み込み、この新千円札と対峙することにした。するとある陰謀を「発見」した(本当にバカみたいな注釈をわざわざつけるが、ここから先はジョークだ)。

 鍵となるのは、裏に描かれた『富嶽三十六景』だ。富士山と荒波とそこに浮かぶ船が描かれている。日本銀行の説明によれば、<表面には、破傷風血清療法の確立、ペスト菌の発見のほか、伝染病研究所、北里研究所を創立し後進の育成にも尽力した北里柴三郎(きたさと・しばさぶろう)。裏面には、江戸時代の浮世絵師・葛飾北斎の代表作で知名度も高く、世界の芸術家に影響を与えた「富嶽三十六景(神奈川沖浪裏)」を描いています>という。

 太平洋側でここまで大きな波がやってくる事態は一つしかない。これは間違いなく、南海トラフ地震を暗示している。これは南海トラフ地震の訪れを私たち日本人に警告しているわけだ。あとはいつ南海トラフが訪れるのかを新千円札から読みとけば良い。富獄三十六景、そして北里柴三郎(さぶろう)…何故に、新千円札は、「3」「6」を表裏2面にもわたって強調するのだろうか。しかも、裏面の1000という文字が二個並んでおり、これらを足せば「2036年」ということになる。

あなたが陰謀論者なら当然知っていると思うが

 ここでいったん別の話をする。あなたが陰謀論者なら当然知っていると思うが、新幹線の開業と大地震は奇妙な一致を見せてきた。

 1964年には東海道新幹線の開業と新潟地震、2011年の東日本大震災では九州新幹線、2016年熊本地震では北海道新幹線、そして、2024年能登地震では北陸新幹線が開業している。

 JR東海は、当初、リニア中央新幹線の工事を2027年に開業する計画であったが、当時の静岡県知事・川勝平太氏がリニア工事の着工を延々と妨害し続けたせいで、開業はそのまま後ろ倒しの結果となってしまった。今では、JR東海は、<静岡県が県内の着工を認めていないため34年以降にずれ込む見通し>としている。政府は、2037年になるのではないかと想定しているが、進捗次第で2034〜2037年ということになりそうだ。

 南海トラフ地震が起き、東海道新幹線が止まってしまえば、東京名古屋大阪という日本経済の大動脈が寸断されてしまう危険があり、そのリスクを回避するためというのがリニア計画の目的の一つであった。リニアは走行区間のほとんどを地中の岩盤を通るため、地震にはものすごく強い設計になっている。

陰謀論を必死で否定しても相手は耳を傾けない

 南海トラフ地震の発災に、リニアが間に合うのか。間に合わないのか。日本に闇の政府(ディープステート)の魔の手が迫っている。

 これが私が知り得た「新千円札に隠された陰謀論の全貌」である。

 と、まあ、それっぽくつくってみたが、出来栄えはどうだったであろうか。陰謀論とは距離を置きつつも、必死で否定したところで相手は耳を傾けはしない。クスリと笑える雑談の小ネタにするぐらいがちょうどいいということであろう。

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