た、大変なことに…激レア「ゴールデン大谷人形」ほしさにロスが大混乱、報道ヘリ出動!アメリカ人が狂喜乱舞するワケ

 8月28日、ドジャースの大谷翔平選手はホームのオリオールズ戦で1本塁打、2盗塁と活躍し、チームに勝利を導いた。この日は大谷選手の愛犬「デコピン」が始球式に登場したが、それ以外にも大変なことがドジャースタジアムで起きていた。大谷選手の限定ボブルヘッドドール(首振り人形)の配布を巡り、報道ヘリが出動するほどの混雑を見せたのだ。何がそんなにアメリカ人を狂わせるのか。どうしてこのボブルヘッドドールをみんな欲しがるのか。自身もドールを手に入れた、地元ロサンゼルスで20年以上広告代理店「MIW」を営む岩瀬昌美氏が解説するーー。

目次

野球人気が弱まるアメリカでも、野球に熱狂してしまう日

 自分中心主義で世界に迎合しないアメリカでも、ヨーロッパ発祥のオリンピック期間中はオリンピックに沸きます。それもそのはずで、オリンピックとアメリカの放映権は切っても切れない関係であり、米NBCユニバーサルは2032年大会までの放送権を76億5000万ドル(約1兆1000億円)で獲得しています。そんなオリンピックというお祭りが終わり、こちらアメリカでも再び野球のニュースがチラホラ出てくるようになりました。

 過去にもみんかぶで書きましたが、アメリカでの野球人気は落ちています。2021年のワシントン・ポストの調査では「あなたの好きなスポーツはなんですか?」という質問で野球と答えた成人は11%。1位のアメフトの34%には遠く及びません。30歳以下に限定するとさらに悲惨で、1位アメフト24%、2位バスケ17%、3位その他12%、4位サッカー10%そして5位に野球で7%でした。アメリカ在住のタレント野沢直子さんが日本の情報バラエティー番組で「アメリカって、バスケとアメフトなわけよ」「野球ってそこに比べると、ちょっと地味なスポーツっていう印象がある」「野球好きな人は野球見る」と解説し、ネットでは話題になっていましたが、野沢さんの認識は間違っていません。

 ではなぜこの時期に野球の話題が増えるかというと、NFL(アメフト)とNBA(バスケ)のシーズン前だからです。そんな中でここロサンゼルスで先日大きな話題になったのが、地元の野球チーム、ドジャースの大谷翔平選手の「ボブルヘッドドール」(首振り人形)です。アメリカ人はこの首振り人形に並々ならぬ情熱を捧げます。私にも理解できない部分はあるんですが、とくに球場などで来場者に限定ドールが配布される日には、観客が殺到します。企業もスポンサーになったりと大盛り上がりになるのです。

大谷の首振り人形の価値が暴騰している

 ではそのもらったものをどうするかというと、オフィスの自分の机や家に飾ったり、中には転売したりする人もいます。でも、一部の熱狂的コレクター以外は「無料だからほしい」だけな気がしています。インチキして複数もらおうとしている人もよく見かけます。近藤麻理恵さんの『人生がときめく片づけの魔法』はここアメリカでも話題になりましたが、まだまだ日本に比べれば本質的にはいらないものも欲しがる文化なのでしょう。ちなみに私は箱のまま大切にとっておいて重要クライアントへの手土産に使っています。

 話は大谷のボブルヘッドドールに戻ります。大谷のボブルヘッドドールはエンジェルス時代を含めて何度も配布されてきましたが、年々その人気は高まっており、とくにドジャースに移籍してからはその価値が暴騰したと感じています。

 実は今年5月にも大谷の首振り人形を配布する日があり、私もその試合に行きました。その日のプレイボールは午後7時10分で、私の家から球場まで車で1時間。それでも、球場はダウンタウンの近くで道も細いので、余裕をもって午後4時に家を出ました。が、球場周辺は信じられないほど混雑しており、最終的に駐車場に停められたのが試合開始直前の午後7時。急いでドールを貰いに行ったらスタッフからは「6時にはもうなくなっていたよ」と言われ、落胆しました。

「ゴールデン・オータニ・ボブルヘッド」だと……!?

 あまりにも悔しかった……。そんな中で再びドジャースが大谷の首振り人形を配布する日がきました。しかも今回の首振り人形は、大谷が愛犬「デコピン」を抱っこしているものです。

 ボブルヘッドは配布数は4万個。ドジャースタジアムの定員は5万6000人ということで、満員の場合は70%の人しかもらえないのです。その上、配布日8月28日の一番安いチケットはロサンジェルスタイムズによると131ドル(1万9000円)、翌29日は同じチームとの対戦なのに最安は36ドル(5200円)……。配布日のチケット代が凄まじくインフレしていることから、大変多くの人がスタジアムに押し寄せることが想定されます。

 ちなみに試合の前から大谷の首振り人形は250ドル(3万6000円)の転売価格がつけられていました。その上、なぜか金色バージョンの「ゴールデン・オータニ・ボブルヘッド」も数量限定でランダムに配られるといいます。ABCによると金色バージョンは全体5%の2000個ほどだったそうです。

ドジャースは「スポンサーの予算」のせいにしているが…

 これは大変なことになる……。そう察知した私は前回の反省から、午後1時に家を出発しました。

 なんとかスタジアム周辺に到着した午後2時、上空にはメディアの報道ヘリが何台も飛んでいました。前述の通り他のスポーツニュースが薄いので、スタジアム周辺のあまりの混雑っぷりを空撮しにきたのですね。そして選手も球場に入れないというハプニングもあり、通常よりも数時間早く駐車場がオープンしました。

 そんなこんなで、今回は念願の大谷首振り人形を手に入れられました。そして私はなんと、金色バージョンを引き当てました。我が家には一緒に来場した家族がもらった通常バージョンとあわせて2種類の大谷Xデコピンドールが飾ってあります。

 ただあまりの混雑っぷりに一言文句を言わせてほしい。「何故来場者全員でなく4万個しか配布しないのか」。球団のスタン・カステン社長は地元メディアに対して「スポンサーによっては全員分配布する予算がない」などと話しています。ちなみに今回のスポンサーは「ダイソー」。本当なのでしょうか……。予算の詳細は知り得ませんが、広告代理店経営者である自分の過去の経験からして、同じ予算内であと1万個くらい、別に球団はつくれるように思えるんです……。

 ちなみにカステン社長は「早く球場着た方が道はすいているし、球場でショッピングも楽しめる。私たちはファンにハッピーになってもらいたい。(配布数に)制限があり、遅く来たらもらえないことには理解を示してくれると思う」としています。

もう少し東洋人・日本人をリスペクトしたらどうなんだ

 私にはあえて数量を限定して混雑を演出しているように思えてしまいます。あまりの混雑はケガ人や病人を出すこともあるので、球団はやり方を再考するべきのように思います。ただでさえ混雑するダウンタウン近くにあるドジャースタジアムです。現状のやり方はマーケティング観点からみても球団のイメージダウンにつながっているように感じます。マーケターとしてではなく、1ファンとしても球団のやり方に大きな疑問を感じます。

 そして今回私は、優先駐車場チケットを活用しました。それを利用するためにはMLBアプリを入手する必要があり、イヤイヤアプリをダウンロードした次第です。そこで、会員登録者に送られる「ウエルカム・メール」を読んでびっくりしました。メールのヘッダー画像にはMLB球団に所属する6選手の写真が使用されていましたが、大谷はいません。ドジャースの選手はいますが、ムーキー・ベッツです。

 日本人の多くは連日のように大谷報道に接しているので意外に思われるかもしれませんが、市場調査・分析会社「YouGov」によると、大谷翔平のFame(知名度)は52%で、野球選手の中では12位という結果です。ベッツは知名度58%の3位で、ヘッダー画像中央にいるニューヨーク・ヤンキースのアーロンは2位の58%。大谷どころか東洋人が一人もいない画像にアメリカらしさを覚えてしまいました。もう少し、日本人やアジア選手をリスペクトしていいのでは……。

日本人としては何とも歯がゆい

 さて、無駄に早く球場入りさせられプレイボール前は退屈していましたが、試合自体は素晴らしいものでした。名犬「デコピン」による始球式は可愛らしかったですし、何より大谷選手は1本塁打、2盗塁の活躍で史上2人目となる「42-42」を達成しました。そしてドジャースが勝利しました。

 地元で広告代理店を営むものとして、球場にはマーケティング観点からよく訪れています。この日のドジャースのスタジアムは日本のスポンサーが半分近くでした。全日空、ダイソー、レクサス、ヤクルト、コーセーなどなど。ちなみにわが社も先日、ドジャースタジアムにて全農の和牛プロモーションのお手伝いをさせていただきました。

 もし大谷がいなかったらこの日本のスポンサーはゼロな訳で、改めて大谷翔平がドジャースにもたらした広告価値に驚かされます。実際昨年は日本のクライアンントはゼロでしたからね。それが、今や球場正面でいなば食品「チュール」のサンプルを配っているわけです。

 とはいえ、先ほどのベッツの話もそうですが、ここロサンゼルスでは日本ほど大谷フィーバーは起きていません。やっぱり知名度ではベッツに負けます。地元日本人としては何とも歯がゆいです。

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この記事の著者
岩瀬昌美

ロサンジェルスで日本企業の海外進出のサポートを行うマルチカルチュラル広告代理店「MIW Marketing and Consulting Group, Inc」 CEO/PRESIDENT。今年で創業20周年を迎える。在米30年。名古屋出身。カリフォルニア大学サンディエゴ校で学芸修士、カリフォルニア州立大学ロングビーチ校で経営学修士を取得。2017年 できるアメリカ人11の「仕事の習慣」 日経プレミアシリーズ 日本経済新聞出版社より出版。 2019年Shoku-Iku USA (非営利団体)設立。2012年より米国にて子ども向けクッキングクラスや記事の執筆で食育プロジェクトを推進。

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