まじで買えない…「コメが足りない」3の原因と今後の価格「なぜ新米は例年より高くなるのか、いくらになるのか」備蓄米は?

 コメの品薄状態が続いている。政府は新米が流通する9月に入れば流通不足は解消に向かうと強調してきたが、首都圏を中心とするスーパーではほとんど欠品で、やっとの思いで発見しても購入点数が制限される状況だ。「令和のコメ騒動」はなぜ起きたのか。そして、いつになったら解消されるのか。経済アナリストの佐藤健太氏は「新米が出回り始めればコメ不足は落ち着くかもしれないが、消費者には価格高騰の波が追い打ちをかけるだろう」と指摘するーー。

目次

「購入は1家族1点に限らせていただきます」

「購入は1家族1点に限らせていただきます」。8月中旬、首都圏の大手スーパーのコメ売り場には1枚の張り紙が出された。だが、そこに“主”の姿はもはやない。子供たちが夏休みに入るタイミングで表面化したコメの品薄状態は1カ月以上も続き、家庭の食事は変容を迫られている。

 「えー、またパンなの?お弁当はライスを入れてほしい」。9月から2学期が始まり、私立中学に息子を通わせる40代の母親は弁当づくりに苦悩する。子供の夏休み中はパスタや焼きそば、ピザなどでしのいだが、8月に大量に購入したはずの「パックご飯」はすでに底をついていたのだ。秋田県の友人から当面はしのげる分のコメを送ってもらうことができたが、「いつまで品薄状態が続くのか不安。コメ不足が解消されるまではコメ以外でやりくりせざるを得ない」とこぼす。

日本人の主食が姿を消した背景には、3つの要因

 日本人の主食が姿を消した背景には、3つの要因が考えられる。1つは、昨夏の猛暑などの影響でコメの供給量が低下していたことだ。農林水産省が昨年9月に発表した2023年米の検査結果によれば、最も評価が高い「1等米」の比率は新潟県で41%と前年に比べ24ポイント減少。愛知県(39.9%)や三重県(30.4%)などでも10ポイント以上低下している。

 最大の産地である新潟や秋田の作柄概況は「やや不良」で、10アールあたりの収穫量は661万トンで前年比9万1000トン減となった。加えて、国が主食用コメからの作付け転換を生産者に促してきた影響もある。予想収穫量は過去最低を更新し続けており、価格維持を目的に供給量そのものが減っているのだ。

外国人観光客によるコメ消費量の伸び

 2つ目は、需要サイドが旺盛だったことだ。近年、主食用コメの需要量は人口減少などを背景に年間10トン程度減少してきたが、今年は10年ぶりに需要が増加している。輸入価格の上昇に伴いパンや麺類の代わりにコメを購入する人が増えたことに加え、外国人観光客によるコメ消費量も伸びている。新米が出回る前の端境期に需要が増加すれば、バランスが一気に崩れる脆さを露呈したと言える。

 追い打ちをかけたのは、3つ目の「自然災害への備え」だ。政府は8月上旬に南海トラフ地震への注意を呼び掛ける「臨時情報」を発表し、防災意識が高い人を中心に買いだめの動きがみられた。台風の出現に備えた家庭もあっただろう。

 今年6月末時点の民間在庫は、出荷・販売段階で対前年差マイナス38万トンの115万トンだ。そこに自然災害に備えた需要の急拡大が起き、コメは各地の商品棚から姿を消したことになる。ただ、坂本哲志農水相は8月27日の記者会見で「新米の生育は順調。品薄状況は順次回復していくと見込んでいる」と説明。その上で「必要な量だけ買い求める落ち着いた購買行動をお願いしたい」と述べている。

薄状態で頭を抱えた人々には、さらなる追い打ちが

 大阪府の吉村洋文知事は備蓄米の放出を要請したが、坂本農水相は「民間流通が基本となっているコメの需給や価格に影響を与える恐れがある」「年間を通じて供給不足が見込まれる場合に備えて行うもの」と慎重な姿勢を示している。国による「減反」で需給バランスをとっている中、価格下落につながるようなことは避けたいのだろう。林芳正官房長官も「全体の需給としては逼迫した状況にはなく、十分な在庫量が確保されている」として冷静な行動を求めている。

 要は、9月には2024年産米が供給されるのでコメ不足は次第に解消されるというのだ。岸田文雄首相はコメの流通円滑化を指示し、農水省から卸売業者団体などに要請している。台風10号によって生産量に大きな影響が生じるような事態も想定されていないという。実際、早いところでは早場米の出荷が始まり、新米は少しずつ店頭に並び始めている。たしかに新米が本格的に出回れば品薄状態は解消に向かっていくだろう。

 ただ、品薄状態で頭を抱えた人々には、さらなる追い打ちが待ち構えている。新米の価格は例年より高くなるとみられているのだ。

なぜ新米価格は例年より高くなるのか

 共同通信が8月28日に配信した記事によれば、JAグループが生産者に仮払いする「概算金」は、前年に比べ2割以上の増額提示が相次いでいるという。概算金の水準は在庫や消費動向などを踏まえ、JAグループが銘柄ごとに決定し、出荷時に生産者に支払われる。出荷業者と卸売業者の間で取引する「相対取引価格」に影響するとみられ、家計の負担が増す可能性が高い。

 共同通信の記事では、JA全農にいがた(新潟市)が県内JAに提示した概算金は「一般コシヒカリ」の1等級で60キロ当たり1万7000円と前年比2割高だったという。JA全農とやま(富山市)もコシヒカリが約2割高の1万6000円で、鹿児島県では7月時点でコシヒカリに約5割高の1万9200円前後が提示された例もあった、としている。

 坂本農水相は9月末までに年間出荷数量の4割近くは出荷されるとの見通しを示した上で、店頭価格については「品薄状態なので平年よりも多少の割高感はある」と説明した。

 ただ、すでにスーパーなどの価格は1.5倍程度に膨らんでいるところがみられる。最大で2倍近いお金を払わなければ新米をゲットできないことが予想され、消費者には厳しい状況が待ち受ける。

 パックご飯で有名な「サトウのごはん」(サトウ食品)は12月2日出荷分から値上げすると発表。11~14%の引き上げ(希望小売価格)で、「マルちゃん」ブランド(東洋水産)も11月1日から値上げされる予定という。コメ不足の解消前後で買い占め騒動が起きれば、さらに価格が高騰する可能性もあるだろう。

 帝国データバンクが8月30日に発表した分析によれば、9月の飲食料品の値上げは1392品目に上る。氷菓類や冷凍食品などの値上げが目立ち、円安に伴う原材料高や人件費の増加などによって価格上昇の波が打ち寄せる。10月は3000品目近くの値上げが予想されており、今後も値上げラッシュに苦しむことになる。

 岸田首相は退陣を表明し、自民党では次のトップを決める総裁選が始まる。憲法改正や外交・安全保障政策を論じ合うのは良いが、並行して国民生活を和らげるための政策が聞こえてこないのは残念でならない。円安進行やウクライナ戦争から続く物価高騰に国民はいつまで耐えれば良いのか。その解は次期首相からも聞けそうにない。

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この記事の著者
佐藤健太

ライフプランのFP相談サービス『マネーセージ』(https://moneysage.jp)執行役員(CMO)。心理カウンセラー・デジタル×教育アナリスト。社会問題から政治・経済まで幅広いテーマでソーシャルリスニングも用いた分析を行い、各種コンサルティングも担う。様々なメディアでコラムニストとしても活躍している

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