斎藤知事「大暴露」PR会社を巡る3つの意味不明…認識の齟齬はなぜか?SNS主体性で食い違い「足を引っ張りやがって」「県民舐めてる」の声も

 兵庫県知事選で返り咲きを果たした斎藤元彦知事の選挙戦をめぐり、PR会社(兵庫県西宮市)の社長がSNSでアピールした「実績」が公職選挙法に違反しているのではないかと話題になっている。PR会社側が主体的に運用戦略立案などを担っていれば買収、無償であっても寄付を禁じた公選法に触れる恐れがあると指摘されているのだ。これを巡りXなどでは、斎藤知事の支持者から「斎藤さんの足を引っ張りやがって何を考えてんねや」「兵庫県民を舐めてるでしょ」という辛辣な批判があがった。斎藤氏サイドはポスター制作費などに70万円超を支払ったというが、その他の支援活動は社長個人のボランティアだったと強調する。経済アナリストの佐藤健太氏は「双方の見解は大きく異なり、あまりに不可解な『3つのナゾ』が浮かび上がる」と指摘する。

目次

またしてもメディアによる「フルボッコ」状態に

 パワハラ疑惑や「おねだり体質」などで猛批判を浴び、兵庫県議会の調査特別委員会(百条委員会)で追及され、知事不信任決議を議決されたばかりの斎藤氏。失職後の出直し知事選で予想外の再選を果たすことに成功したかと思ったら、今度は選挙戦での女性社長による「支援」が問題視され、またしてもメディアによる「フルボッコ」状態に遭っている。

 SNS戦略で新聞やテレビといった「オールドメディア」に勝利した、もはや選挙はSNSの時代―。11月17日投開票の知事選直後はこうした評価が見られ、斎藤氏による「新党結成」もあり得るといった流れが起きつつあった。だが、PR会社の女性社長がSNS上で「広報全般を任された」と誇ったことで事態は一変している。

1つ目のナゾ「なぜボランティアだったのか」

 連日のように弁護士らがテレビ出演しては、女性社長の活動は買収や寄付を禁じた公選法に抵触する恐れがあると指摘しているのだ。法令上のゴールは捜査当局の動向や裁判に委ねられるとして、筆者は現時点で斎藤氏と女性社長の見解の相違に「3つのナゾ」を感じている。

 1つ目のナゾは、「なぜボランティアだったのか」という点だ。斎藤氏の代理人弁護士は11月27日に記者会見を開き、これまでの経緯を次のように説明した。9月下旬に斎藤氏は支援者から女性社長を紹介され、同29日にはPR会社の事務所を訪問した。ポスター・チラシ制作、SNS運用などが話題となり。翌日以降にそのプランと見積書が届いた。斎藤氏側はポスター制作費などに71万5000円を支払ったという。

社長個人によるボランティアだったというのはナゾではないか

 内訳は「メインビジュアル企画・制作」10万円、「チラシデザイン制作」15万円、「ポスター・デザイン制作」5万円、「公約スライド制作」30万円、「選挙公報デザイン制作」5万円といったもので、契約書はなく「口頭契約」だったとしている。ポスター制作費などの70万円超は妥当としても、昔ならばともかく、今の時代に契約書も交わすことなく“渦中の人物”とビジネスすることは理解に苦しむ。しかも、SNSを活用した戦略的広報を会社の事業としながら、選挙戦では社長個人によるボランティアだったというのはナゾすぎる。

 9月末にPR会社の事務所を訪問した際、SNS運用などの話もあったというのであれば、翌日以降に届いた「プランと見積書」にはSNS戦略に関する費用がいくらなのか盛り込まれていたのではないか。現時点でその内容と費用は不明だが、斎藤氏サイドの説明通りとすれば、PR会社が担う場合は費用が発生するものの、社長個人がやればボランティアということになる。短期間で信頼関係を築き、「ポスター制作」などの70万円超だけで社長の支援を受けることに成功した斎藤氏は、よほどのやり手なのだろう。

 ただ、仮にそうだったとしてもナゾは残る。このPR会社は、広島や高知などでSNSを活用したプロモーションや運用支援などを担っている「PRのプロ」だ。ポスターの制作に特化した会社ではなく、SNS運用業務で実績がある。この女性社長はブログに「広報全般を任された」「仕事」などと記しており、仮にビジネスとしてSNS戦略全般を請け負うことになれば最低でも数百万円は必要だったのではないか。

なぜ選挙カーの上に乗り、SNS配信をしていたのか

 斎藤知事の説明通り社長個人のボランティアだったとすると、2つ目のナゾが浮かぶ。それは女性社長をなぜ「特別扱い」していたのかという点だ。斎藤氏は2021年の知事選で初当選し、女性社長はその後に県の地方創生戦略委員などを務めている。会議などで会う顔見知りだったのかもしれないが、この女性社長は選挙戦で自ら選挙カーの上に乗り、SNS配信をしていたことが話題になっている。

 ポスター制作費などに70万円超を支払い、あとは「ボランティア」でやってもらっていたとしても、ボランティアの1人にすぎない女性社長だけがなぜ選挙カーの上に乗ることを許されていたのか。

SNSの運用体制のナゾ

 斎藤氏や陣営として「特別扱い」していた理由がナゾだ。SNS運用業務で実績があり、戦略的広報の重要性を説いてきた女性社長にどのような期待をしていたのか。社長は「仕事」、斎藤氏側は「ボランティア」とする認識のズレはどこから生じたのか。なぜ女性社長はビジネスとしてではなく、個人でやる道を選んだのか。食い違う双方の見解の差はあまりにナゾだ。

 3つ目のナゾは、「SNSの運用体制」だ。斎藤氏は「公選法に違反する可能性はないと認識している」と繰り返し、選挙戦におけるSNS運用は「斎藤陣営が主体となって運営した」と語っている。業者が主体的なPR活動を担っていれば法令に抵触する恐れがあるため、その一線は斎藤氏サイドにとって防衛ラインと言える。

 ただ、女性社長は「少数精鋭のチームで協力しながら運用」とし、新聞やテレビといったオールドメディアによる批判に屈することなく、支援した斎藤氏が再選を果たせたことを誇っている。この「チーム」というものがどのような形態を指すのか本人の説明がないためナゾなのだが、社長の主張が事実ならば「運用」はしていたことになってしまう。

 これに対し、斎藤知事の代理人である弁護士は「事実と、全く事実ではない部分が記載されている。そういう意味では『盛っている』と認識している」と説明。斎藤氏も女性社長が投稿したブログ内容について「事前に見ても、聞いてもいない」「若干の戸惑いはある」と語っている。投稿内容の確認連絡もなかったという。

 そうすると、選挙カーの上に乗ってSNS配信する「特別扱い」はしていたが、斎藤氏は勝手に「盛られた」ということになる。女性社長は「ボランティア」として必死に配信していたものの、「おまえ、なに適当なこと言ってんの?」といわれているわけだ。

再び「オールドメディア」からの追及をかわせるのか

 もちろん、知事選で再選した斎藤氏のキャラクターや政策、思想信条などを評価して熱烈に応援する人は少なくなかっただろう。他の選挙においても仕事を忘れて熱烈に応援する人も多い。ただ、この女性社長が経営する会社は「PRのプロ」だ。選挙戦においてSNS戦略などのPRを会社のビジネスとしてではなく、個人の立場で同じことをしていたのであればナゾでしかない。

 知事選で返り咲きを果たした斎藤氏は、再び「オールドメディア」からの追及をかわしていくことはできるのか、それともピンチに陥るのか。次々とマイナスイメージにつながる話題を招いていく斎藤氏の言動こそが最大のナゾである。

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この記事の著者
佐藤健太

ライフプランのFP相談サービス『マネーセージ』(https://moneysage.jp)執行役員(CMO)。心理カウンセラー・デジタル×教育アナリスト。社会問題から政治・経済まで幅広いテーマでソーシャルリスニングも用いた分析を行い、各種コンサルティングも担う。様々なメディアでコラムニストとしても活躍している

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