「また慶應SFCか」話題のPR会社社長「お嬢って呼ばれる」に強烈な違和感…卒業生「自分は『頑張ってるマウント』を取り合う世界」

 兵庫県知事の斎藤元彦氏(47)の選挙違反疑惑を招いたPR会社「merchu」の代表・折田楓氏が話題だ。特に、折田氏の学歴に注目が集まっており、一部SNSでは折田氏が「いかにも慶應SFCっぽい人だ」と揶揄されているという。慶應大卒のみんかぶ編集長の鈴木聖也が書くーー。

目次

折田楓氏の出身校・慶應SFCが話題に

 SFCの略称で知られる慶應義塾湘南藤沢キャンパスがかつてなく話題だ。何を隠そう、あの兵庫県知事選の「選挙戦略」を大暴露したPR会社「merchu」の代表・折田楓氏の出身キャンパスだ。

 そもそもだが慶應にSFC学部といったものは存在していない。SFCには総合政策学部、環境情報学部、看護医療学部の3つの学部がある。あくまで、SFCは「Shonan Fujisawa Campus(湘南藤沢キャンパス)」、つまりキャンパス名を指す呼称だ。

慶應文系学部卒の思い出のキャンパスといえば

 慶應では医学部含め理系も文系も一般教養は横浜市港北区にある「日吉キャンパス」で学び、その後文系学部は東京都港区「三田キャンパス」、医学部は新宿区「信濃町キャンパス」、理工学部は日吉キャンパスのすぐ近くにある「矢上キャンパス」へと移動する。

 慶應といえば国の重要文化財にも指定されている「旧図書館」や「演説館」がある三田キャンパスがたしかに有名なのだが、上記の通り三田には基本的には文系学部生しか通わないことから日吉キャンパスにこそOB(塾員)たちが共有できる思い出がある。

 実際、オフィス街の三田・信濃町に比べても日吉の街は学生街特有の雰囲気があり、体育会部活に所属している学生向けに「ご飯食べ放題」の店も多い。

 ちなみに三田にも「ご飯食べ放題」の店はあるにはあったのだが、筆者らが日吉のノリでご飯3杯、4杯とおかわりしていったらだんだん店の雰囲気が悪くなっていったことを覚えている。次の日、店の前を通ったら「ご飯おかわり1杯まで」と新しい張り紙が貼られており、オフィス街ではやってはいけない行為を学んだ。就活予備校などと揶揄される慶應だが、キャンパスが変わることで自然と就職活動に向けた準備が始まるのだ。

年に一度、慶應大の卒業生が集まる大同窓会の異様な熱気

 実は年に一度、10月に開催される慶應大卒業生の大同窓会「連合三田会」も三田ではなく、日吉で行われる。

 大同窓会の場所は三田ではなく、日吉こそふさわしいのだ。そしてその日はOBが経営する酒蔵の日本酒をキャンパスの中庭で浴びるように飲む。お酒欲しさにウロウロしている現役の応援指導部員(応援団員)を捕まえ、応援歌「若き血」の指揮を降らせる。その翌週あたりには秋の早慶戦(野球)が控えており、ここで仲間たちと肩を組み応援歌を一緒にうたって、今一度慶應スピリットを高める。

2023夏の甲子園で慶應高校を応援する大学OB・OGがバッシング

 この母校愛溢れる話を聞いて慶應と関係ない人はどう思うだろうか。「気持ち悪い」ではないだろうか。

 内輪ノリとは部外者からしたら不快なものだ。だからこそ、2023年夏の甲子園で慶應義塾高校が優勝した際、スタンドで大盛り上がりしていたOBたちにイラっとした人が多かったのだろう。

 そもそも慶應の応援は「神宮球場のノリ」でもある。慶應高校の応援指導部員はそれを高校野球に移植しているわけだが、異質感がでてしまったのだろう。神奈川県大会では受け入れられていても甲子園になるとまたちょっと違う。

 例えば高校野球では打者ごとに吹奏楽団がポップス曲を演奏したり、ヒットが出たら「ヒットファンファーレ」を流したりする。しかし六大学野球の応援では打者ごとに応援の流れを止めることは基本的にはなく、戦況に応じて曲調の違うオリジナル曲を中断せずに続けて流していき、盛り上がりを意図的に演出する。大学によってピンチを迎えている相手投手の不安を煽るような曲調の応援歌もある。

 高校の応援指導部員が一生懸命頑張っているのは事実だし、そのことを批判するべきではないのだが、世間は異質なもの、とくにやたらと目立つ異質さは排除する傾向にある。そういった「意図的な盛り上がり演出」を高校野球ファンがみれば「うざい」「気持ち悪い」と感じてしまうのは、まぁ理解できる。聞いたこともない曲が、まるで観客を洗脳するかのようにずっと鳴りやまない……コワイ!と(だが当然、だから大学野球応援は面白いとはまってしまう人もたくさんいる)。

SFCはそもそも、慶應の他のキャンパスから物理的に遠すぎる

 さて話はSFCに戻る。なぜこんな話をしたかというと、そういった「慶應っぽさ」「慶應ノリ」みたいなものからSFCはちょっと離れている。

 そもそも、物理的にもかなり離れている。SFCに行くには、相鉄線の湘南台駅かJRの辻堂駅からバスに乗り15~25分かかる。どちらの駅も神奈川県藤沢市にあり、都心から50分くらいはかかってしまうが、そのあとにバスに乗るというのも心理的ハードルがある。

 ちなみに相鉄線と東急目黒線が直通運転を開始し、湘南台・日吉・三田が1本の路線で最近つながった。これには「三田会(慶應のOB組織)の仕業だ」などという陰謀論を流すOBもいる。ちなみに2008年、目黒線が延伸して日吉と三田が1本でつながったときも同じ陰謀を語るOBがいた。

「慶應生」と「SFC生」心理的にも離れている

 そうした他キャンパスからの物理的な距離だけではなく、心の距離も離れている。先ほど医学部含む文系理系学部は日吉キャンパスで一般教養を学ぶと記載したが、実はSFCの総合政策学部、環境情報学部、看護医療学部は日吉で一切勉強しない。看護医療学部は3年次に信濃町キャンパスにうつるが、他の二つは最初から最後までSFCだ。それこそ日吉にいくのは入学式と卒業式だけだったりする。SFCにいけば福沢諭吉の銅像はあるのだが、やっぱり同じ大学でもどこか違う大学という気がしてしまう。ちなみにSFCの設置よりもあとに、共立薬科大学との合併で誕生した薬学部も1年生の時に日吉へ通う。

 卒業生からしてみても敢えてSFCだけを隔離しているようにも思えるのだが、その理由の一つにはSFCには他学部にあるような必修の一般教養科目がなく、他の学部の学生たちはその一般教養科目を日吉で受講している。

 SFC以外の筆者を含む慶應生たちはかつて、日吉で必修科目の単位を取得すると同時に、とんかつ店「とんみた」でハムカツのジューシーさを学び、カレーハウス「リオ」の体育会カレー(大盛ライスを大皿の真ん中に配置し両サイドにはカレーとハヤシ、そしてトンカツと生卵のトッピング付き)で腹を一杯にした(いずれのお店も閉店してしまったのは寂しい限りである)。当然SFCにもそういった独特の文化はあるのだろうが、どうしてもSFC以外の慶應生と共有しにくい。

 そういった理由から大学のカラーがSFCとその他のキャンパスでは違う。どっちが良い、悪いというわけではなく、共有できる思い出が少ない。ちなみに日吉で活動するサークルや体育会の部活動に参加するSFC生もいる。とくに体育会に所属している学生はその活動の忙しさから日吉近辺に下宿するケースを多々みる。そしてSFCへの物理的遠さから通学が億劫になり、留年してしまう者も……。

SFCっぽさとはなんなんだろう

 そんな中で、冒頭の通り、とあるSFCの卒業生が話題になった。PR会社「merchu」の代表・折田楓氏だ。NEWSポストセブンなど複数のメディアが折田氏が「SFC卒」であると報じている。日刊SPAが配信した「『また慶應SFCか』話題のPR会社社長も…なぜ似たような人物が生まれる?元SFC生が語る内実」という記事も大きな反響をネットでは呼んでいた。しかし私は「SFCっぽさとはなんなんだろう」とふと思った。

 いい意味でも悪い意味でも自由な学生が多かったイメージはある。都会の喧騒から離れ、キャンパスでひたすら研究・やりたいことに打ち込む人もいた。日吉まで体育会の部活動に通う人たちはむしろその他の学部の学生よりもエネルギッシュに思えた。私の周りにはそんなSFC生が多かった。埼玉の自宅からSFCに通い、ほぼ毎日日吉で部活動に励む女性の同級生は4年間それをやり通した。「慶應ボーイ」に”育ちの良さ”みたいな、どこか”都会の余裕さ”といった印象があるのであれば、SFC生にはそれとは違うガッツがあったように感じる。自分で未来を切り開こうとしている力強さだ。

なぜ折田氏は“SFCっぽい”と言われるのか

 その一方で、自由を謳歌しすぎて生活が堕落してしまう学生もいた。まぁたしかに、どこの大学にも一定数そういう人がいるのは事実だが……。

 とあるSFCの卒業生に聞いてみた。「なぜ折田氏は『SFCっぽい』と言われるのか」と。

「SFCの挨拶って『最近何やってるの?』なの。これ言われると、自分が最近頑張ってるってことを言わなきゃいけない。負けた気になるから。彼女はそれがずっと抜けてないのかなって思った。みんな東大の卒業生を実力で超えられないから、東大に勝ったふりをしたがる」

折田氏「お嬢って呼ばれることが多い」

 さて、折田氏を巡る一連の出来事について、一つだけ大きな違和感がある。それは、彼女が過去にネット上にアップしていたショート動画だ。Xなどでは話題になっていた動画なので視聴した読者もいると思うが、折田氏は「お嬢って呼ばれることが多い」と語っていた。

 私もネットコンテンツに関する仕事をしているので、ある程度オーバーに表現しないとネットでは見向きもされないというのは理解している。しかしSFCの印象と「お嬢さま」の印象があまりマッチしない。しかしSFCの印象と「お嬢さま」の印象があまりマッチしない。

 たしかに、学部なんて「お嬢様だから」といって入れるわけではなく、試験の結果によって決まるのだからSFCにお嬢様がいてもおかしくない。実際に、お嬢様もいるのだろう。しかし、慶應の「真のお嬢様」がいくのはSFCではない気がしている。

真のお嬢様が一番多い慶應の学部はどこなのか

 真のお嬢様がいくのは多分「文学部」だ。それも慶應義塾女子高校からの内部進学で。

 まず慶應女子に入学できている時点で相当頭がいい。その上で敢えて文学部を選ぶような学生だ。上昇志向、効率重視な慶應生に人気の学部は経済学部や法学部だ。就職活動にも強い印象がある。慶應の内部生は高校時代の成績順に上から行きたい学部を選べる仕組みなので、人気学部から内部生の進学枠は埋まっていく傾向がある。

 実学を学び就活を有利に進めたいという気持ちはなく、文学部で三田文学といった芸術に触れ感性を高めたい、精神的に豊かな人生を歩みたい、そんな心の余裕を持った学生だ。その心の余裕は実家の太さとも大きく紐づいているのかもしれない。

 一方で別の慶應OBはSFCの富裕層についてこう指摘もする。

「AOや英語という、金の力でなんとかなるタイプの試験なので、クラシックスタイルの富裕層が多い幼稚舎を始めとする内部校とはまた違う『豪族タイプ』の金持ちの子供が多いのでは」

 そういう意味で、擁護するつもりはないのだが、ベンチャー企業の社長として兵庫県知事選での“成果”をすぐに次の仕事へと結びつけようとする攻めすぎた折田氏のプロモーションは、SFC特有のハングリー精神に由来するものなのかもしれない。当然、法令意識や社会人としてのモラルはもうちょっと持ち合わせておくべきだったとは思うが。

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この記事の著者
鈴木聖也

みんかぶ編集長。1988年前橋市生まれ、慶應義塾大学法学部卒。共同通信社記者、プレジデント社編集者・デスクを経て2022年より現職。2019年雑誌ジャーナリズム大賞デジタル賞受賞。著書に『最近のウェブ、広告で読みにくくないですか?』(星海社)

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