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斎藤知事の行動を「パワハラの定義にあてはまる」と判定したファクトチェック団体への疑問…経済誌元編集長が指摘する2つの課題

(c) AdobeStock

 SNSなどで拡散されるデマや誤情報を検証する「ファクトチェック」団体。その存在は大いに歓迎するべきではあるが、読者から疑問が投げかけられることもある。経済誌プレジデントの元編集長で作家の小倉健一氏がファクトチェックの課題を解説するーー。

目次

「パワハラの定義にあてはまる行動だ」

 日本ファクトチェックセンターはインターネット上の誤情報や偽情報対策として設立されたものの、その活動には課題も指摘されている。ネット上では公正性に疑問を持つ声が出ている。

 例えば兵庫県知事選挙を巡って昨年11月、日本ファクトチェックセンターは斎藤知事の行為を「パワハラの定義にあてはまる行動だ」と判定に記載していた。

「兵庫県議会の不信任決議で失職した斎藤前知事はパワハラはしていないといった言説が拡散したが、根拠不明。県職員へのアンケートでは実際に目撃などで知っている人が140件、間接的に聞いて知っているという回答も含めると回答の4割を超える。本人も「厳しい叱責」「机を叩いた」ことなどを認めており、「必要な指導だと思っていた」と述べているが、パワハラの定義にあてはまる行動だ」(日本ファクトチェックセンター「斎藤前兵庫県知事はパワハラしていない? 職員アンケート回答の4割で見聞き、本人は厳しい叱責など認めて『必要な指導』【ファクトチェック】(修正あり)」)

 しかし兵庫県はその後、同年12月に「パワハラがあったとの確証までは得られなかった」と明らかにしている。ではなぜ日本ファクトチェックセンターは「パワハラの定義にあてはまる行動だ」としたのか。記事の中ではパワハラの定義について以下のように述べている。

「パワハラについて、厚生労働省は『パワーハラスメントの定義について』で3つの要素を定義している。『優越的な地位に基づいて行われること』『業務の適正範囲を超えて行われること』『身体的若しくは精神的な苦痛を与えること、若しくは就業環境を害すること』だ。また、『精神的な攻撃』として『大勢の前で叱責する』『ものを机に叩きつけるなど威圧的な態度をとる』などをあげている」

大きな課題が2つあると考えている

 だが、その「精神的な攻撃」について、当該の厚生労働省資料では「これらの行為が全てパワーハラスメントに当たることを示すものではないことに留意が必要」と注釈がついている。たしかに斎藤知事は百条委員会に対して、「厳しい叱責をしたことや付箋を投げた、机を叩いた」などといった行為を認めているが、それがただちに「パワハラの定義にあてはまる行動だ」と断定できるものなのだろうか。当然、今後新たな証拠の出現などから斎藤知事によるパワハラがあったと認定されることはあるのかもしれないが、昨年11月の段階でのこの判定にはSNS上で疑問の声があがった。 

 プレジデントオンラインが12月30日に配信した「斎藤知事のパワハラを断定、立花孝志氏のマスコミ叩きに便乗…デマを指摘する『ファクトチェック団体』の欠陥」という記事でも、楊井人文弁護士のコメントとして次のように指摘している。

「斎藤知事の行為を『パワハラの定義に当てはまる行為だ』と断言した記事には、大きな問題がある」

「いつからJFCはパワハラ認定機関になったのか」

 特定の言説が選択的に扱われているのではないかという懸念も存在する。活動の広がりについても、短期間で多くの記事を配信した実績があるが、その実効性については疑問が残る。巨額の資金が投入されながらも、チェックの量や質が期待に応えていないとの批判があり、費用対効果に関する問題すら浮き彫りとなっている。

 以上は現状のネットからの評価を紹介したものだが、筆者もこの日本ファクトチェックセンターの活動には、大きな課題が2つあると考えている。

プラットフォーム使用が陰謀論信念に与える影響

 1つは、陰謀論やネット上の誤情報の発信源を根本的に勘違いしているという疑念だ。どういうことかというと、この記事を今、スマホやパソコンで読んでいる人は、「文字」を読んでいるわけだ。あまりYouTubeなどの動画サイトでは政治ネタを見ない人間にとっては、文字メディアの偏向や陰謀論の発生が気になるところであろうが、文字、動画、などを含めたデジタル全体を見渡したときに、XやYahoo!ニュースでは、陰謀論や誤情報が広がりにくい性質を持っていることが知られている。

 これはYouTubeが普及するにつれ、ファクトチェック界隈では常識として知られるところではあるが、例えば、2021年にミュンヘン工科大学などが発表した「プラットフォームの問題なの?」(Does the Platform Matter? Social Media and COVID-19 Conspiracy Theory Beliefs in 17 Countries)は、COVID-19パンデミック中にソーシャルメディアが陰謀論信念の広がりにどのような影響を与えたかを、17カ国(ヨーロッパを中心に、アメリカ、イスラエルを含む)で調査したものである。論文に示されたプラットフォーム使用が陰謀論信念に与える影響は、以下の通りだった。

• Twitter(X): 使用すると陰謀論信念が平均3~4%減少。

• YouTube: 使用すると信念が2~3%増加。

 Xの持つ特徴して「オープンなネットワーク構造」と「事実検証の早さ」が挙げられると指摘されている。これにより、陰謀論が広まりにくくなり、減っていく現象が見受けられる。

「主戦場」はむしろ、YouTubeなどの動画メディアなのでは

 そして、Youtubeだ。YouTubeの利用者は、陰謀論的信念を増やしてしまう可能性がある。他にも論文「ユーチューブにおける陰謀論と地球平面説(フラットアース)動画」(Conspiracy Theories and Flat Earth Videos on YouTube、2019年)にも以下のことが指摘されている。

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この記事の著者
小倉健一

1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。国会議員秘書を経てプレジデント社へ入社、プレジデント編集部配属。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長就任(2020年1月)。2021年7月に独立。現在に至る。 Twitter :@ogurapunk、CONTACT : https://k-ogura.jp/contact

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