ブレクジットは世紀の誤り?英国に広がる後悔の念。輸出も伸びず…EU再加盟を望む声

英国がEUから離脱(ブレグジット)して間もなく5年になる。期待された効果は得られず、経済の低迷や貧困が広がり、国民からは後悔する声も上がっている。政治も混迷を極め、EU離脱を強硬に主張した新興の右派勢力が躍進し、昨年は14年ぶりに政権交代が起こる事態となった。一体、英国はどこに向かうのか。日経新聞の編集委員である小平龍四郎氏が解説するーー。
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英国のモノの輸出は5年で0.3%しか伸びていない
英国は2016年の国民投票で欧州連合(EU)からの離脱「ブレクジット」を決め、20年1月末に実施した。それから5年。英国社会にはブレクジットへの後悔の念が静かに広がり、スターマー首相は「リセット」を掲げEUとの関係改善に動く。米国でトランプ大統領が誕生し、ウクライナや中東、台湾などで地政学リスクが高まるなか、欧州地域の結束と安定はきわめて重要だ。英国とEUは新時代の建設的な関係を築けるだろうか。
英調査会社ユーガブの1月下旬の調べによれば、ブレクジットが「間違いだった」との回答が全体55%、「正しかった」とする33%を大幅に上回った。EU再加盟を望む声も増えている。離脱後の英国経済が期待に反して低迷していることが背景にある。
2019年から現在までに英国のモノの輸出は年率で0.3%しか伸びていない。これはOECD(経済開発協力機構)加盟国の平均4.2%を大幅に下回る。輸出の4割を占めるEU向けは手続きが煩雑になり、約2万の中小事業者はEU向け輸出を完全にやめてしまったという。EUからの輸入のコストも上がったため生活費が上昇、市民は不満を強める結果となった。中期的にブレクジットは英国の輸出を22%減少させ、輸入を14%減らす要因になるとの試算もある。また、経済成長率を5%下押しする要因になるとの指摘もある。
近年インドやアフリカ諸国から移民が増加
一方、ブレクジットの機運をもり立てた移民問題は、ポーランドなど中東欧からの移民は抑制できたものの、かわってインドやアフリカ諸国からの移民が増えた。結果として「移民が労働者の職を奪っている」という不満はあまり解消されていない。
昨年7月の総選挙で14年ぶりの政権交代を実現した労働党のスターマー首相は、EUと関係の「リセット」を掲げ、関係改善の機会を探っていた。今年2月5日には非公式のEU首脳会議の晩さん会に招待を受けて出席。欧州各国のリーダーたちと主にウクライナ支援を含む防衛問題について議論を交わした。