大卒就職率98.1%、初任給40万円超も…なぜ氷河期世代は全く報われないのか「社会・政治、全てから取り残され無気力に」

「103万円の壁」の引き上げを掲げ昨年の衆院選で大勝した国民民主党だが、次の重点政策として、氷河期世代向けの支援策を打ち出した。厚生労働省が発表する「大学等卒業者の就職状況」によると、2024年の内定率は98%だ。初任給を上げる企業が続出しており、時事通信の「初任給引き上げ、30万円台続々 人材獲得競争が激化 大手企業」と言う記事によると、「東京海上日動火災保険が来年4月、転勤と転居を伴う場合の大卒で最大約41に増やす」という。
ちなみに氷河期世代、2003年の内定率は55.1%だった。他の世代と比べて雇用機会に恵まれなかった彼らは、非正規や低賃金での労働を余儀なくされた。自身も氷河期世代当事者であり、人気ネット論客のポンデベッキオ氏は「日本社会や政治に対する氷河期世代の怒りは大きい」と話すーー。
目次
トランプ政権2期目が誕生した理由をあらためて
2024年、あの男がアメリカに帰ってきた。4年前の大統領選挙で敗れたドナルド・トランプがアメリカの大統領の座に返り咲いたのである。
止まらないインフレ、増え続ける不法移民、どんどん息苦しさを増すポリティカル・コレクトネス、失われた「古き良きアメリカ」……。
それらに疑問を抱く多くの国民たちが、偉大なアメリカを再び取り戻すために、もう一度トランプにアメリカを託したのである。
とりわけ熱狂的にトランプ大統領を支持しているのが、発展するアメリカから取り残された人々、ラストベルトを代表とした製造業が衰退した地域に住む貧しい白人たちだ。
街の中核産業であった製造業を国外に奪われたせいで稼げる仕事がほとんどなく、街には薬物が蔓延し中毒者たちが次々と命を落とす。本来であれば労働者の党であった民主党が彼らを救ってくれるはずであったが、彼らは今やテック企業や金融業界への投資に熱心で、古くから党を支持してきた白人労働者たちの困窮を無視し続けてきた。
そんな現状に絶望していた白人労働者たちが、一票の力で『街に雇用を取り戻す!』と約束するトランプを大統領へ押し上げたのである。
日本における氷河期世代≒トランプを支持するアメリカの白人労働者たち…団塊の世代との終わらない戦い
そんなアメリカの困窮する白人中年たちと重なる存在が日本にもある。それが氷河期世代だ。
氷河期世代はラストベルトの白人たちと同様に、経済や社会のパラダイムシフトによって苦しめられてきた人々だ。
日本という国は、戦後から高度経済成長期にかけてほとんど落ち目になることなく成長し続けていた。その恩恵を最も受けてきたのが団塊の世代だ。団塊の世代は常に数の力で政治的イニシアティブを握り、社会をコントロールしてきた。
氷河期世代が20代の頃は団塊の世代の雇用を守るために就職氷河期に晒され、働きだせば「お前の代わりはいくらでもいる」と脅されブラック労働を強要された。就職氷河期とブラック労働によって多くのロスジェネたちが脱落し、先に待っていたのは抜け出せないフリーター、派遣社員という非正規雇用の沼であった。なんとか正社員の椅子を確保した氷河期世代は高齢者となった団塊の世代を支えるために、給与から多くの社会保障費を天引きされ続けている。平成の失われた30年の間、氷河期世代は常に悲鳴を上げてきたが、政治も社会もどこまでも彼らに冷淡であった。
氷河期世代が社会への怒りを抱いていたにもかかわらず、無気力になってしまった理由
平成後期から令和にかけてようやく、アベノミクスによる久方ぶりの好景気、コンプライアンス意識の向上による労働環境の改善、少子化による人手不足を背景とした給与の上昇という好循環が生まれた。しかし、これらはすべて氷河期世代が通り過ぎた後に起きたことであり、彼らはその恩恵を受けることができなかった。氷河期世代は政治だけではなく、社会の変革からも取り残されてしまった世代なのだ。
若いうちは「まだ若いからなんとかなるよ」と言われ、アラフィフになったら「もう手遅れだから」と言われ、氷河期世代は政治や社会から徹底的に無視され続けてきた。
この植え付けられた「学習性無力感」こそが、氷河期世代、特に困窮層が政治から距離を置く最大の理由となっていると筆者はみている。長すぎた10年間の就職氷河期と、その後の失われた30年は、氷河期世代から政治に参加して社会を変えることへの熱を完全に奪ってしまったのである。