米の価格を釣り上げているのは一体誰なのか…政府のコメ政策はもはや破綻!経済誌元編集長が指摘する備蓄米放出の乏しい効果

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 備蓄米がついに放出された。スーパーによっては税込みで5キロ5000円を超すような状況にもなっている。日本人の食事に欠かせない米の大騒動になぜ政府はここまで放置したのか。経済誌プレジデントの元編集長で作家の小倉健一氏が解説するーー。

目次

備蓄米放出したら本当に米の価格は下がるのか

 日経新聞電子版(3月7日)が<コメ価格、備蓄米放出で「先高観後退」 農家・卸に業界調査>との見出しで、「備蓄米の放出で値上がりは止まる」との見立てを紹介しているが、発表された資料(米取引関係者の判断に関する調査結果、令和7年2月分。公益社団法人米穀安定供給確保支援機構が発表)を確認する限り、筆者にはそのようには思えない。

 実際に、この記事のコメントととして、大泉一貫・宮城大学名誉教授が<結論は、政府の備蓄米放出で米価が下がることはない><業界の見通し通りになれば、政府のコメ政策は一歩づつ破綻に近づいていっているということになる>と指摘していて、筆者もこの点について、完全に同意するものである。いや、筆者はさらに「政府のコメ政策はもはや破綻している」と悲観的な評価をしている。以下、説明していこう。

 現在、米の価格が上がり続けている。政府は「備蓄米を放出すれば価格は下がる」と繰り返し説明しているが、それが本当に効果を持つのか、実態データを見ると疑問が残る。米穀安定供給確保支援機構(米穀機構)が発表した最新のデータでは、「コメの価格がこれ以上上がらないかもしれない」という見方が増えたが、「価格が下がる」という明確な兆しは見られていない。価格の上昇が止まるかもしれない、という程度の変化であり、「政府の施策で価格が下がる」という見方はデータ上で確認できない。

 米の値段が決まる大きな理由のひとつに、「どれくらいの人が米を食べるか(需要)」と「どれくらいの米が市場に出回るか(供給)」のバランスがある。このバランスが変わると、米の価格も上がったり下がったりする。米穀安定供給確保支援機構(米穀機構)は、このバランスを数値で表す「需給DI」という指標を出している。これは、米の売り手や関係者に「今、米の流れがスムーズかどうか」を聞いて作られたものだ。

 最新の調査では、現在の需給DIは89で、前の月より2ポイント上がった。

「米が一気に増えて価格が下がる」という話ではない

 この数字が高いほど、「市場に出回る米が少ない=米が足りていない」と考える人が多いことを意味する。つまり、今は米の供給が少なくなり、売り手が「米が足りない状態が続いている」と感じているということだ。

 次の3か月の見通しを示す需給DIは72で、前の月から10ポイント下がった。この数字だけ見ると、「米が増えて価格が下がる」と思うかもしれないが、そういう意味ではない。この場合の「72」は、「これ以上米が足りなくなることはないかもしれない」という程度の意味であり、「米が一気に増えて価格が下がる」という話ではない。

 政府は「備蓄米を放出すれば、米が市場に増えて流れがスムーズになり、価格が下がる」と説明している。しかし、実際のデータを見ると、価格DIや需給DIの数値が大きく下がる気配はない。市場の関係者が「今後、米の値段はどうなるか」と考えているかを示すデータがあるのに、「価格が下がる」との明確な兆候は見られない。これはつまり、政府がやっている備蓄米の放出が、米の値段を下げるほどの効果を持っていないということを示している。

「これ以上価格が上がらないかもしれない」程度

 米の在庫量を見ても、価格が下がるような動きは見られない。米を持っている人たち(生産者や卸売業者など)が、どれくらいの在庫を持っているかを示す「在庫量DI」のデータがある。生産者の在庫量DIは23、集出荷業者は26、卸売業者は31で、去年の同じ時期とほぼ同じ数字になっている。もし本当に備蓄米の放出が市場に大きな影響を与えているなら、市場に出回る米が増えて、在庫量DIが大きく増えるはずだ。しかし、実際にはそうなっていない。流通業者が「米がたくさんある」と感じるほどの変化は起きておらず、スーパーなどに並ぶ米の量も特に増えていないということだ。

 結局のところ、政府の「備蓄米を放出すれば価格が下がる」という話には、実際のデータが伴っていない。価格DIも、需給DIも、在庫量DIも、「米の価格が大きく下がる兆しはない」と示している。市場の関係者が考えていることも、「これ以上価格が上がらないかもしれない」程度で、「価格が下がる」と思っているわけではない。

「価格が下がる」という根拠は見当たらない

 コメの価格は、政府の思惑とは異なり、今後も上昇する可能性が高い。市場関係者のデータを見ると、「これ以上の値上がりはないかもしれない」という程度の変化が見られるが、「価格が下がる」という根拠は見当たらない。政府が目指す「備蓄米放出で市場価格を引き下げる」という政策は、現状ではほぼ効果を発揮していない。むしろ、市場の不透明感が強まり、流通業者が慎重な取引を進めることで市場の動きが鈍くなっている可能性もある。

 政府の米政策が失敗していることは、業界の見通しを見ても明らかだ。市場の実態を正しく分析せず、表面的な指標の変化だけで「価格が下がる」と説明することは誤りだ。今回のデータが示しているのは、「価格の上昇は一旦落ち着くかもしれないが、下がるわけではない」という事実だ。政府が想定している「備蓄米放出で価格が下がる」というシナリオは、現時点では実現する見込みがない。市場の実態を無視した政策では、長期的に見て価格の安定化を図ることは難しい。今後もコメ価格が上がり続ける可能性が高く、政府の政策が破綻に向かっていることは避けられない。

農業の自由化に後ろ向きな自民・農水省

 筆者は、今、台湾の食料事情についての取材を進めているところであるが、はっきり言って、日本食チェーンで食べる米は、日本産のお米より美味しくない。早く日本産米をアジアを中心とする世界へ運ぶべきだし、農水省と自民党はその手伝いをするべきなのである。

 世界中で、特に台湾で大きく広がっていく日本食において、日本産米が輸出されれば確実に高い値段がつくのは間違いない。ちなみに、台湾と日本を比較すると、今や台湾の方が物価が高いと感じるときがある。すなわち、お米は多少高くても絶対売れる。

 それにもかかわらず、農水省と自民党は、農業の自由化に後ろ向きで、何も考えずに、減反政策を続け、輸入もさせないが、輸出もさせないという鎖国政策をずっと続けている。

 とにかく自由にお米を農家に多めに作らせておけば、平時には輸出できて農家の収入が増え、有事には国内向けに回せば、安定供給につながるのである。

 答えがわかっていてできないのは、単に何も考えていないからだ。昨日やっていたことを今日やり、明日もやる。昨日やっていないことは今日やらない。明日もやらない。

農水省と自民党は解体的出直しを

 なぜなら、昨日やっていないからだと言われて、納得する国民などいないだろう。

 農業の技術とて、イノベーションは常に起き続けており、私たちが知らないだけでどんどん変わっていっている。変わっていない、変わりたくないのは、とにかくお米を保護すればうまくいくのだ、なぜなら昨日までうまくいっていたからだと信じる農水省と自民党が、存在しているからだろう。

 もはや日本のお米政策は崩壊しているのである。農水省と自民党は解体的出直しをしなくては、日本の大事な稲作文化と日本人の食事が崩壊してしまうのだ。さすがに危機感を持つべきだ。

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この記事の著者
小倉健一

1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。国会議員秘書を経てプレジデント社へ入社、プレジデント編集部配属。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長就任(2020年1月)。2021年7月に独立。現在に至る。 Twitter :@ogurapunk、CONTACT : https://k-ogura.jp/contact

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