トランプ関税で米国予想インフレ率は6.7%に! 43年ぶり高水準の大地獄へ…各国の反応にトランプはビビっているのか?日本の残念が現実

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 トランプ相場に世界が振り回されている。米国のトランプ大統領による「相互関税」の表明後、その一言一句に金融市場は過敏となり、大混乱が生じている。当初は国内外の反発を受けても貫徹する姿勢を見せていたものの、わずか1週間で柔軟なスタンスに転じたことも混乱に拍車をかける。トランプ大統領は早くも日和ったのか。日本政府はどう対応すべきか。米ミシガン大学が発表した米国の1年先の予想インフレ(物価上昇)率は6.7%となり、3月発表の5.0%から上昇。トランプ関税の影響で、1981年11月以来、約43年ぶりの高水準だ。経済アナリストの佐藤健太氏は「トランプ関税は無視しなさい」と指摘する。そのワケとは―――。

目次

「友好国は貿易面で敵対国より悪い」という暴君的論理

 1人の言動が健全なマーケットを歪めている。米国のトランプ大統領は4月2日、全ての国・地域に追加関税を導入し、日本には計24%の相互関税を課すと発表した。貿易赤字解消に本腰を入れ、同3日には輸入自動車に25%の追加関税を発動。世界は「貿易戦争」の様相を見せている。中国は34%、インドは26%、韓国は25%、EUは20%と対象国・地域の名を羅列し、「友好国は貿易面で敵対国より悪い」という論理を振りかざす姿は“暴君”のようにも映る。

 世界に激震が走る中、日本政府はどうしたか。相互関税の導入発表後、石破茂首相は記者団に「極めて残念で、不本意だ。WTO協定や日米貿易協定との整合性について深刻な懸念を有している」と説明。「トランプ大統領に直接話しかけていくことが適当であれば、最も適当な時期に働きかけていくことを全く躊躇するものではない」と述べた。4月7日にはトランプ大統領との電話会談で強い懸念を伝え、それぞれの担当閣僚による協議を継続していくことで一致したという。電話の時間は約25分間だった。

 一連の石破政権のドタバタを見ていると、あまりの動揺ぶりに切なくなる。2月7日に行われた初めての対面での首脳会談で「金の兜」を持参し、おもむろにトランプ大統領を称賛する「朝貢」に徹していたにもかかわらず、その2日後にはトランプ氏が米国に輸入される全ての鉄鋼・アルミニウムに25%の関税を課すと表明。そして、2カ月後には理解に苦しむトランプ流計算式によって算出された相互関税の導入を受けることになった。

 言うまでもなく、日米両国は同盟関係にある。だが、トランプ大統領は「米国は日本を守るが、日本は米国を守る必要がない。誰がこんなことをしたのか疑問だ」と語り、たとえ友好国であっても例外を認めないとの措置に踏み切った。石破首相からすれば、思わぬ形で「黒船」が到来したような感覚なのかもしれない。

トランプはマネーゲームを楽しんでいるだけ?

 リーマン・ショックを時の宰相として経験した自民党の麻生太郎最高顧問も「経済戦争というものになってきた」「明らかに有事。日本は真っ只中にいるという認識を持ってもらいたい」と危機感を募らせる。たしかに、歴史を振り返れば経済・資源の争いが市場の大暴落、そして戦争の勃発につながってきた。

実際、トランプ大統領は日本のように“ひれ伏す”ことがない中国に対し、相互関税を125%に引き上げ、中国も米国からの輸入品に125%の追加関税を課す報復措置を発表するなど事態はエスカレートしているように見える。欧州委員会も4月9日、鉄鋼・アルミニウムへの追加関税には報復関税発動を承認した。

 ただ、筆者は今回の流れが「経済戦争」という名には到底値しないと見る。その理由を端的に言えば、トランプ氏が「ディール(取引)」を追求するマネーゲームを楽しんでいるように感じるからだ。もちろん、米大統領選前後から支持層や業界に配慮する言動を繰り返してきたトランプ氏にも譲れない一線はあるだろう。貿易赤字解消に向けた一手であることも間違いない。

日本としてどう立ち向かうべきか

 ただ、第1次トランプ政権からの歩みを追う限り、最初はハードルを高く設定するものの、最後は現実的な落としどころを見いだしてきた点を忘れることはできない。当時から先の「日米相互防衛」や防衛費の大幅増などを日本政府に要求していたが、この時の安倍晋三政権は応じなくても良好な両国関係を維持・発展させてきた。同盟国を揺さぶる相互関税を回避し、岸田文雄政権時代の「トマホーク購入」契約も避けられたのだ。

 そんなことはやってみなければ分からない、という人もいるだろう。ただ、トランプ大統領は英国やシンガポール、ブラジル、豪州、ニュージーランド、トルコ、サウジアラビアなどは基本課税の10%だけが適用されるとした。加えて、ロシアやベラルーシ、北朝鮮には関税が課されていないと伝えられる。

 これは「貿易量」の多少だけで説明することは難しい。ロシアやベラルーシに対してはウクライナに関する交渉の余地を残し、トランプ大統領が核保有国と“認定”した北朝鮮とは引き続き協議していきたいとの思惑が透けて見える。

要は、日本は「交渉相手」とは見なされない協議しかやってこなかった

 これらを「トランプ流ディール」と見なければ判断を見誤るだろう。要は、日本は「交渉相手」とは見なされない協議しかやってこなかったため、10%適用に入れなかっただけなのだ。

 事実、トランプ大統領は早くも発言を修正してきている。報復措置を発表した中国の習近平国家主席が「関税戦争に勝者はいない。孤立するだけだ」と米国を批判すると、トランプ氏は「とても賢い指導者だ」と持ち上げてみせた。公式には中国が歩み寄ってくることを待つ姿勢を崩していないものの、対話を続けながら妥協点を探るものとみられている。

 さらにトランプ大統領は相互関税の対象からスマホやタブレット端末、ハードディスクなどの電子機器を外すことにした。生産拠点でもある中国に対する関税対象から除外するといい、これは第1次トランプ政権時代の制裁関税とも同様の動きだ。中国は「米国が関税戦争を続けるならば、とことん戦う」とファイティングポーズを見せており、トランプ大統領としては現実的な着地点を見いだす必要性に迫られているということだろう。

このチキンレースで最初に悲鳴を上げるのは

 残念ながら、長期にわたって経済力が弱まってきた日本が大国となった中国のように米国と交渉することは難しいかもしれない。だが、先に触れたように安倍政権時代は乗り越えてきた道でもある。米国のベッセント財務長官は「日本の障壁はかなり高い」と語り、グラス駐日大使も「対日貿易赤字削減について厳しい交渉をする」などと対日ハードルを上げたままだが、答えは「交渉相手」とみなされた先にあるはずだ。

 米国は4月9日、一部の国・地域に対する相互関税の上乗せ部分を90日間停止すると発表した。これは紛れもなく「ディール」するための期間設定であり、ベッセント財務長官は「日本が列の先頭にいる」としている。それだけに各国の“基準”となり得る日本の交渉は重要性を増している。

 相互関税が課せられれば日本をはじめ各国から米国への輸出が鈍るが、その後に物価上昇に伴い米国内の消費が弱まり経済が下降していく。もちろん、米国経済が打撃を受ければ世界経済への影響は避けられないが、このチキンレースで最初に悲鳴を上げるのは米国民のはずだ。トランプ大統領は「我々は米国を再び豊かに、良い国にする」と相互関税を断行するが、強い米国を取り戻す前に大幅な修正を繰り返すのは必至とみられる。

トランプ関税の実態は「ディール」に過ぎない

 大混乱の世界市場をにらめば、トランプ大統領の責任は重く、そして大迷惑だ。石破首相は赤沢亮正経済再生相を交渉担当に据え、4月17日にもカウンターパートとなるベッセント財務長官との協議が始まるという。 液化天然ガス(LNG)輸出や防衛費の増加など一体、石破政権はどのようなカードを切るつもりなのか。その結果次第では、またしても国民の負担増につながることも想定されている。

 最後にもう一度触れるが、トランプ関税の実態は「ディール」に過ぎない。そして、トランプ流の要諦は最初にハードルを上げるものの、最後は現実的な落としどころを見いだすものだ。総合的に見て国益に資するカードを切れるのであれば良いだろうが、なければ大国同士の交渉を眺めつつ基本的に無視せざるを得ない。あたふたと動揺してしまえば、交渉相手の思うつぼだ。

 さて、石破首相は「交渉相手」となれるのだろうか。その結果次第では退陣も現実味を帯びることになりそうである。

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この記事の著者
佐藤健太

ライフプランのFP相談サービス『マネーセージ』(https://moneysage.jp)執行役員(CMO)。心理カウンセラー・デジタル×教育アナリスト。社会問題から政治・経済まで幅広いテーマでソーシャルリスニングも用いた分析を行い、各種コンサルティングも担う。様々なメディアでコラムニストとしても活躍している

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