「嘘ついている?」の質問も…情報漏えい指示を否定の斎藤知事「第三者委員会結果と2度の民意、どちらが優先されるのか…」

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 兵庫県の斎藤元彦知事をめぐるトラブルがいまだ収まらない。県の第三者委員会は告発文書を作成した元西播磨県民局長の私的情報を知事側近だった元総務部長が漏洩したと認定した。「勝手にやるな!」「聞いていない!」など数々のパワハラ行為が指摘されながらも、兵庫県政のトップに君臨し続ける斎藤氏。今回、「最側近」といわれた人物の“秘密漏洩認定”によって、兵庫県の注目度はまたしても“全国レベル”に達するのか。経済アナリストの佐藤健太氏は「これまで斎藤知事は『指示していない』『聞いていない』などと繰り返しながら厳しい追及をかわしてきたが、今度は風向きが変わる可能性がある」と見る。はたして、元側近による“暴露”は知事の進退に直結するのか―。

目次

『そのような文書があることを議員に情報共有しておいたら』

「元局長の私的な情報について斎藤知事に報告したところ、『そのような文書があることを議員に情報共有しておいたら』と指示された」。兵庫県の井ノ本知明元総務部長は県の第三者委員会の調査に対し、このように斎藤知事の関与について説明した。第三者委は昨年4月ごろに元総務部長が県議3人に元局長の私的情報を漏洩していたと認定。県は5月27日付で元総務部長を停職3カ月の懲戒処分とした。

「えっ?」と驚いたのは私だけではないのではないか。なぜならば、またしてもという既視感を抱くからだ。知事がパワハラ疑惑などの内部告発をされた問題では、弁護士らで構成する第三者委員会が3月、「斎藤知事にはパワハラ行為があった」と断じる調査報告書を県代表監査委員に提出した。県議会の調査特別委員会(百条委員会)も「パワハラ行為と言っても過言ではない不適切なものだった」と認定したが、それでも斎藤知事は辞任することはなかった。重く受けとめる、としながらも「知らぬ存ぜぬ」が通ってきたのだ。

 兵庫県のトップをめぐる問題は複雑なので、あらためて振り返りたい。2024年3月、県西播磨県民局長だった男性職員は知事のパワハラ疑惑などの「告発」に踏みきり、同4月に県の公益通報窓口にも通報した。だが、県は公益通報者保護法の対象外と判断した上、停職3カ月の懲戒処分とした。この点について、第三者委は「公益通報に該当する」と判断し、「県の対応は、法律及び指針の趣旨に反するものであって、極めて不当であった」と指摘。さらに通報者の探索がなされたことや元県民局長の公用パソコンを引き上げた行為などは「違法」と断じ、知事の意向で内部公益通報の調査結果が出るのに先行して元県民局長を懲戒処分としたことは「不相当」とした。

最終調査報告の意味は大きいだろう

 県議会の百条委員会の報告書でも、元県民局長の告発文書をめぐる対応に関し「県の対応は、組織の長や幹部の不正を告発すると、告発された当事者自らがその内容を否定し、更に通報者を探して公表されたうえ、懲戒などの不利益処分などにより通報者が潰される事例として受けとめられかねない状況にある」と指摘。今後は「外部公益通報に対応できる体制づくりを進めるとともに、告発内容の調査に当事者は関与しないこと、通報者探索及び範囲外共有などは行わないことの明確化が必要である」としている。

 だが、斎藤氏は「文書は誹謗中傷性の高い文書。公用パソコンの中には倫理上極めて不適切な文書が作成されていることなどが判明した」などと説明。「ハラスメントは当事者によって司法の場で判断されることが一般的。公益通報についても違法性の判断は司法の場でされる」として、これまでの対応は適切だったとの考えを重ねて示してきた。

 この2つの調査報告書を読むだけでも、斎藤知事の責任は重いように映る。その上で考えれば、今回の「秘密漏えいに関する第三者委員会」(委員長・工藤涼二弁護士)がまとめた最終調査報告の意味は大きいだろう。5月27日に公表された全42ページの報告書を見ると、斎藤知事は説明責任を果たす必要があることがわかる。

まず公用パソコン内に公務とは私的な情報を保存していた

 まず、元局長は県から貸与されていた公用パソコン内に公務とは私的な情報を保存していた。昨年3月25日に県人事当局により発見され、4カ月後に一部週刊誌が私的情報を含め報道。第三者委員会は同10月に県から依頼を受けて私的情報の漏洩の有無、漏洩者の特定などの調査に当たってきた。

 第三者委は「調査の結論」として、井ノ本元総務部長が少なくとも昨年4月ごろ、3人の県議に対して元局長の秘密を漏洩したと認定した。地方公務員法34条第1項は職務上知り得た秘密を漏らしてはならないと規定しており、元局長の私的情報は保護されるべき「秘密」に該当するとされる。元総務部長は「秘密」を漏らしたと認定され、処分されることになったのだ。

 だが、重要なのは元総務部長が単独の判断ではなく、「知事及び元副知事の指示によるもの」としている点だ。私的情報の提示を受けた3人の県議からは漏洩の動機・目的に関して「私的文書を見せたのは、告発文書を書いた人物のバックグラウンドを知らせる趣旨と思う」との供述が得られ、元総務部長が「こんな人間が作った文書信用できるわけないやろ」と発言したとの県議も存在する。

なぜか斎藤知事1人だけが異なる供述を繰り返している

 ただ、元総務部長は「弁明書」を代理人を通じて人事課に提出し、上司(知事及び元副知事)の指示に基づき総務部長の職責として正当業務を行ったに過ぎない、秘密漏洩の懲戒事由である「公務の運営に重大な障害を生じさせた」とは評価できない、などと主張した。

 そこで第三者委は知事や元副知事らからも事情を聴取しているのだが、なぜか斎藤知事1人だけが異なる供述を繰り返している。斎藤知事は「パソコン上に今回の問題となっている文書の作成以外に私的情報があったという一連の報告はあったと思うが、それを聞いてその処理に関して何か指示をしたことはない」「そういった情報を議会の執行部に共有しておいた方が良いということを発言したこともない」と元側近の主張を真っ向否定しているのだ。さらに、元総務部長は自らの判断で議会執行部に私的情報の共有を行ったという趣旨の供述までしている。

 だが、元総務部長に指示をされたとされる場に同席していた職員は「私的情報があったということも含めて、根回しというか議会の執行部に知らせておいたらいいんじゃないかという趣旨と理解できる知事からの発言があった」「『私的情報があるということは情報共有しておいたら』と言われたんだなと思った」と元総務部長の主張に沿う供述をし、知事からの指示があったと認めている。

「整合しない知事の供述は採用することが困難というべきである」

 元副知事も「『知事から元総務部長に対し、元局長の私的情報について議会と情報共有しておくようにとの指示があった』と聞いたので、特に反対もせず、元総務部長において『根回し』をするよう指示した」と供述した。かつての側近たちは、斎藤知事の意向に沿ったものと口を揃えて“暴露”しているのだ。

 第三者委は、元総務部長の主張について「これらの供述の信用性を否定することはできないと評価するのが相当であり、これと整合しない知事の供述は採用することが困難というべきである」と指摘。その上で、第三者委員会としては「知事からの指示及びこれと同調する元副知事の指示により、元局長の私的情報について、議会の各会派のうちZ会派及び甲会派の執行部に対し、『根回し』の趣旨で情報開示(漏えい)を行った可能性が高いと判断せざるを得ない」と結論づけた。

斎藤知事は相も変わらず「(第三者委の報告書は)真摯に受けとめている」と

 ただ、当の斎藤知事は相も変わらず「(第三者委の報告書は)真摯に受けとめている」としながらも何ら責任をとらないスタンスを貫く。5月27日には記者団に「県保有情報が漏えいしたことについてお詫びを申し上げたい」とした上で、知事が嘘をついているのではないかという質問に「漏えいに関して、指示はしていない。そういう認識だ」と回答した。

 元総務部長については「この度、総務部長という要職にあった職員が懲戒処分に該当するという状況になった。県民の信頼を損なうものだ。組織の長として誠に申し訳なく思っており、深く県民にお詫びを申し上げたい」と頭を下げたものの、「報告書については真摯に受けとめていくことが大事。それに基づいて今回、人事の方で懲戒処分に関する手続きをした」と答えている。

 斎藤氏は自らの給与カットする方針だとというが、それで県民が納得するのだろうか。たしかに2度の知事選で「民意」を得た意味は大きい。だが、それならば県の第三者委員会による調査は何の意味があるのか。他の3人が口を揃える中で、斎藤氏だけが「指示していない」という。仮に、元総務部長の主張が事実であれば、自分は知事の指示に基づいただけなのに停職3カ月で、指示した本人は「お咎めナシ」というのでは割に合わないだろう。

真実はいつも1つ、とは限らない―。

 元タレント・中居正広氏の女性トラブルをめぐる問題では、フジテレビの第三者委員会が中居氏の「性暴力」を認定し、調査報告書に基づいた人事や改善策などが練られてきた。「フジのドン」日枝久氏は取締役などを退き、トップや局長ら幹部も刷新されている。もちろん、問題は大きく異なるものの、日枝氏らフジテレビの執行部は入れ替わったのに兵庫県は「真摯に受けとめていく」というだけで良いのだろうか。

 それならば、事実認定する第三者委員会の存在そのものに意味はなく、なにより第三者委の認定によって停職3カ月となった元総務部長は一体何なのか。県議会から不信任を議決され、昨年11月の出直し知事選で返り咲いた斎藤氏が「民意」を得たのは間違いない。ただ、だからといって第三者委員会の事実認定が無視されて良いはずがない。それを許してしまえば、これから様々な問題が生じた時の第三者委員会も、百条委員会も機能することができなくなるからだ。

 真実はいつも1つ、とは限らない―。そんな「兵庫の闇」をいまだ見せられ続けているのは残念で仕方ない。

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この記事の著者
佐藤健太

ライフプランのFP相談サービス『マネーセージ』(https://moneysage.jp)執行役員(CMO)。心理カウンセラー・デジタル×教育アナリスト。社会問題から政治・経済まで幅広いテーマでソーシャルリスニングも用いた分析を行い、各種コンサルティングも担う。様々なメディアでコラムニストとしても活躍している

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