「中間マージン排除」爆弾炸裂!進次郎農相の大逆襲「備蓄米放出」中小農家と消費者が報われる…農業活性化の鍵はJA解体

コメの供給不足深刻化を受けて、小泉進次郎農林水産大臣は備蓄米放出の追加表明を行い、市場に20万トンの米を放出する方針を示した。この大胆な措置は米価安定化と供給確保を目的としており、流通構造改革の端緒となる可能性を秘めている。この進次郎農相の施策がどのように農業の未来を変えるのか、そして価格安定へ向けた道筋がどのように築かれるのか。経済誌プレジデントの元編集長で作家の小倉健一氏が未来をうらなうーー。
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米価高騰を打破するため動き出した小泉進次郎農水大臣
6月10日、小泉進次郎農林水産大臣は閣議後の会見で、令和3年産と令和2年産の備蓄米合わせて20万トンを、新たに随意契約(行政が話し合いによって契約する方法)で市場に追加放出する方針を表明した。これは、先に決定した備蓄米の放出に続くものであり、高騰する米価の安定化と消費者への供給確保に向けた断固たる意志を示すものと言える。
かつて自民党農林部会長として農協改革に取り組んだものの、巨大な組織と既得権益の壁に阻まれた経験を持つ進次郎農相にとって、今回の米価高騰問題は、再び日本の農業が抱える構造的な問題に切り込む好機と捉えているのかもしれない。彼の逆襲が、今まさに始まろうとしている。日本の農業、特にコメの流通システムは、長年にわたりJA(農業協同組合)と一部の卸売業者が強固な影響力を持ち、その結果として非効率性が温存されてきた。今こそ、この旧態依然としたシステムを解体し、農家と消費者の双方が利益を得られる、透明で効率的な仕組みへと変革する時である。
進次郎農相が国会で指摘したように、一部の大手米卸売業者の営業利益が前年比で500%にも達するという事実は、異常としか言いようがない。キヤノングローバル戦略研究所の山下一仁研究主幹は、5月25日のPRESIDENT Onlineへの寄稿で、この利益増は米の「先入れ先出し」の原則と、JAからの仕入れ価格が1年間で8割も上昇したという特殊な価格変動による一時的なものである可能性を指摘している。
しかし、例え一時的であったとしても、このような極端な利益の発生は、流通システムの中に歪みがあることを示唆している。ドン・キホーテを運営するPPIH(パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス)の吉田直樹社長が、5月に進次郎農相に提出した意見書は、この歪みの具体的な構造を白日の下に晒した。
農業の活性化にはJA解体がカギ。流通構造を変える時が来た
吉田社長は、JAと取引する一次問屋が実質的に特約店のようになっており新規参入が難しいこと、問屋が一次から五次まで存在する多重構造であること、そして需給バランスが崩れた際に問屋が流通に協力するよりも自らの利益を優先させ供給量が抑えられてしまう問題を厳しく指摘した。魚や野菜など他の食品と比較しても、コメの流通経路は「際立って前時代的」であるという吉田社長の喝破は、まさに的を射ている。
このような非効率で不透明な多重構造が、中間マージンを積み重ね、最終的に消費者が支払う米価を押し上げ、一方で農家の手取りを圧迫しているのである。JAや卸売業者が本当に必要かどうかという議論はさておき、少なくとも現在の流通構造が、農家と消費者の双方にとって最善のものでないことは明らかだ。
Brandanoらが2012年に発表したイタリアのワイン生産協同組合に関する研究では、生産者協同組合が民間企業と比較して技術的効率が低い傾向にあることが示されている。Bijmanが2016年に分析したオランダの農業協同組合の成功要因(柔軟な法制度、効率的な組合員統制、組合員の同質性、現実的な連合会運営、明確な戦略)の多くは、残念ながら日本のJAにはないものばかりだ。日本のJAは、巨大で硬直化した全国組織と県組織を抱え、意思決定は遅く、市場の変化への対応も鈍い。組合員の多様なニーズを汲み取れず、結果として非効率な事業運営がまかり通ってきた。
複雑な流通構造の元凶の一つ
このような組織が、複雑な流通構造の元凶の一つとなっている可能性は否定できない。農業の発展とは、農家が創意工夫を凝らし、生産した農産物を適正な価格で販売し、安定した収入を得られるようにすることである。そのためには、JAのような中間組織を解体し、農家が直接、あるいはより効率的な小規模の流通業者を通じて市場と結びつくことができるようにする必要がある。それぞれの農家や地域が、自らの判断と責任において販売戦略を立て、消費者のニーズに直接応える。これこそが、農業の活力を引き出す道である。
一部には、農家への直接的な価格補填や所得補償を拡充すべきだという意見も根強い。しかし、特定の品目の価格を人為的に支えるような政策は、市場の需給バランスを歪め、長期的には農業の効率性を著しく損ねる危険性がある。
補助金頼みから脱却、進次郎農相の収入保険が示す農業経営の安定化への道
なぜ、コメ業界の旧態依然とした体質を改善し、農家が自立して経営できる環境を作ろうとしているこの時期に、農家の競争意欲を削ぎ、補助金への依存体質を助長するような政策を推し進めようとする論者がいるのか、到底理解に苦しむ。コメの生産量を調整するために行われてきた減反政策も、結局は高米価を維持し、非効率な零細兼業農家を温存させる結果しかもたらさなかった。農家への安易な直接支払いは、形を変えた減反補助金であり、構造改革に逆行する愚策と言わざるを得ない。
一方で、進次郎農相が言及している「収入保険」制度は、こうした直接的な価格介入とは一線を画す。収入保険は、豊作や価格下落など、農家自身の努力だけでは避けられない収入減少リスクに対して、農家が主体的に備えるための仕組みである。これは、政府が一方的に損失を補填するのではなく、農家自身が保険料を負担し、万が一の事態に備えるという自助努力を前提としている。この点は、上から一方的に与えられる補助金とは本質的に異なる。このような制度は、市場メカニズムを尊重しつつ、農業経営の安定化を図るものであり、保護主義的なバラマキ政策とは明確に区別されるべきである。農家の経営判断を尊重し、リスクに対する備えを促す収入保険の拡充は、競争的な環境下で自立した農業経営者を育成する上で有効な手段となり得る。
「江藤米」とは違う!進次郎農相の備蓄米放出が引き起こす流通改革の波
進次郎農相が現在進めている備蓄米の随意契約による放出は、まさに中間マージンを破壊する爆弾となり、流通構造改革の端緒となる可能性を秘めている。従来の入札方式ではなく、政府が直接小売業者と契約することで、中間マージンを排除し、より安価な米を消費者に届けることができる。6月10日に表明された追加放出は、この流れをさらに加速させるものだ。この方式が定着すれば、JAや大手卸を中心とした既存の流通チャネルに風穴を開け、より多様で競争的な流通ルートが生まれるきっかけとなるだろう。
ドン・キホーテのような小売業者が、独自の判断で迅速に備蓄米を調達し、消費者に提供できるようになった事実は、既存の流通がいかに非効率で時間がかかっていたかを逆説的に証明している。「江藤米」と揶揄された前大臣時代の備蓄米流通の遅滞ぶりと比較すれば、その差は歴然である。ドン・キホーテの迅速かつ大胆な行動は、旧来の商慣習にとらわれず、消費者のニーズに的確に応えようとする企業努力の賜物であり、大いに賞賛されるべきである。
農家と消費者を救う「ウィンウィン改革」の時も近い
コメの値段が上がれば消費者が苦しみ、農家が喜ぶ。逆に値段が下がれば消費者は助かるが、農家は苦境に立たされる。自民党農水族や農水省のように、この単純な対立構造で問題を捉えていては、本質的な解決には至らない。重要なのは、農家から消費者までの間に介在する流通のコストをいかに削減し、そのメリットを農家と消費者の双方に還元するかである。流通構造を効率化し、中間マージンを圧縮できれば、農家の手取り収入を増やしながら、消費者が購入する米の価格を引き下げることが可能になる。
これこそが、進次郎農相が目指すべきウィンウィンの改革である。自民党農水族の松岡利勝元農林水産大臣がかつて看破したように、守り続けるだけの農業政策は、結果として農業の効率性を弱め、日本の農家を弱体化させてしまう。進次郎農相には、一部の既得権益層からの抵抗や、現状維持を望む声に臆することなく、日本の農業の未来のため、そして何よりも日々の食卓を支える消費者のために、この困難な改革を断行してもらいたい。その先には、意欲ある農家が報われ、消費者が質の高い日本の米を手頃な価格で享受できる、新しい農業の姿があるはずだ。