また補助金垂れ流すの?小泉農水相「2000万円のコンバイン、普通買いますか?」農業機械リース推進の“怪しい”表明…経済アナリスト疑問

父親譲りの話し方やルックスで「将来の宰相」候補に数えられる小泉進次郎農林水産相の言動が、またも物議を醸している。自らを「コメ担当大臣」と呼び、政府の備蓄米放出を強力に推進して拍手喝采を浴びたかと思いきや、今度は「コンバイン発言」で嘲笑を買っているのだ。一体、何がこの男をジェットコースターに乗せるのか。経済アナリストの佐藤健太氏は「民主党政権時代、鳩山由紀夫首相は『直前に聞いた人の話をよく聞く』と言われたが、進次郎大臣も根っこは同じなのではないか」といぶかる。小泉人気頼りといわれる自民党、7月の参院選でいよいよ窮地に向かうのか―。
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幕開けした小泉劇場で異音が交じる
またか、と感じた人は多かったはずだ。日本列島が記録的なコメの価格高騰・不足に悩まされる中、江藤拓農林水産相が「コメは買ったことがない」と国民感情を逆撫でするような失言で引責辞任したのは5月21日。後任として“彗星”のように現われたのが小泉農水相だった。
就任直後の記者会見では「私は農林水産省の最も重要な使命は、国民の皆さまに安定的に食料を供給することだと考えている」「コメについては、消費者に安定した価格で供給できるよう全力で取り組んでいきたい」などと決意を表明。今後の備蓄米放出に伴い随意契約への転換や「聖域なき農政改革」に着手し、スピード感を持って政治判断で国民に安心を届けると強調してみせた。
小泉農水相が豪語した通り、備蓄米は2000円台で販売され、その一挙手一投足をワイドショーをはじめとするマスメディアは連日取り上げる。その姿は父親の純一郎元首相が郵政改革に挑んだ「小泉劇場」、その第2章の幕開けを感じさせるほどだった。実際、小泉農水相の就任後はウソのようにスーパーやコンビニなどで「コメあまり現象」が見られた。ガラガラだったはずの棚に銘柄米が山積みになり、長らく続いたコメ不足は一気に解消に向かったのだ。この状況は「小泉効果」と言って良いだろう。
ただ、一連の「コメ狂騒曲」の中には異音も混じってきたのは事実だ。まず、小泉農水相は6月5日の衆院農林水産委員会で「社名は言いませんが、コメの卸売大手の売上高や営業利益を見ますと、営業利益はなんと前年比で500%くらいです」と発言。流通の透明化を確保するとし、「コメの流通は他の食品と比べても極めて複雑怪奇。『ブラックボックスがある』という指摘が寄せられている」と述べている。
小泉発言「5キロ2000円台に下がった」の真相
これに対して、大手コメ卸の木徳神糧は6月11日、社長名義の声明を公表し「弊社が市場価格を釣り上げたり、買い占めや出し惜しみによって流通を阻害したりといった事実は一切ない」と説明した。木徳神糧は4月、2025年12月期の連結業績予想を上方修正しているが、これはコメ不足に伴う価格高騰や適切な価格転嫁によるところが大きいとされるものだ。なぜ小泉農水相が「異常な利益」と受け取れるような発言をする必要があったのか疑問視する向きは少なくない。
ちなみに、小泉農水相は就任から一夜明けた5月22日には長野県でコメ価格が「5キロ2000円台に下がった」と備蓄米の放出効果を誇らしげに語っている。だが、長野県の信濃毎日新聞デジタルが5月26日配信した記事によれば、店頭に並んでいたのは「国内産ブレンド米」として税抜き2990円で販売された商品で、税込みは3000円超だった。記事では「信濃毎日新聞記者が22日に長野市内のスーパーで確認したところ、備蓄米5キロの税込み価格は3500円余」「県内の卸業者によると、取引のあるスーパーでの店頭価格は通常の国産米5キロが3000円半ばから4000円前半といい、『県内で税込み2000円台で販売している店はまずない』」とも記されている。
2000万円のコンバイン、普通買いますか?
要は、小泉農水相の発言は「ウラ取り」をしっかりしなければ鵜呑みにするわけにはいかないのである。そして、今度は「コンバイン発言」が飛び出した。6月17日に経団連の筒井義信会長らと会談した小泉農水相は記者団にこのように語った。
「今日は役員には建設関係の皆様も多いので、私からも申し出させていただいた議題というのは、農業機械を含めて高いと言われる農業機械だけど、例えばコンバインが今2000万円。コメ農家は2000万円のコンバインを1年のうち1カ月しか使わないんですよね。だとしたら、普通買いますか?」
「それだったら買うのではなくてレンタルやリース、こういったことがサービスとして当たり前の農業界に変えていかなければいけない」
「建設業界を見ると、重機や建機のレンタルやリース、当たり前ですよね。建設業界で当たり前に根付いているリースやレンタル、こういったことも農業界に入れていきたい」
結局また国が補助金垂れ流したいだけなの?
そして翌18日にはテレビ番組で「農家の負担を下げるために何ができるかをJAと考えていきたい」として農機を農家に販売しているJAに矛先を向けている。この一連の「コンバイン発言」にはネット上で嘲笑が漏れた。
その理由は、まずJAは農機のレンタルやリースに取り組んできたことがある。加えて、コメ生産者は多忙な農繁期がほぼ同時に訪れる。リースであれば必要な時期に需要が急増し、逆に農閑期には急減する。小泉農水相は建設業界を例にあげているが、そもそもの前提が異なるのは言うまでもない。農閑期に不要となり、採算が合わなくなるリース事業を進めるというのは、国がまた補助金を垂れ流すつもりなのかと疑ってしまう。
こうした視点に対し、小泉氏は6月18日の民放番組で「同じ地域の中だけだと、そういう状況はあるかもしれない。だけど、全国で見ると田植えの時期も収穫の時期も違う。超早場米、早場米、こういった形もある。最初からできないじゃなくて、少しでも農家の負担を下げるために何ができるかということを一緒になってJAとも考えていきたい」と説明している。ただ、その理屈だけではリース会社が全国展開をやろうと思うほどの説得力があるとは言えないだろう。
もちろん、この「コンバイン発言」は小泉農水相の持論であると信じたい。
小泉農水相の発言は「軽すぎる」
だが、どうしても6月17日の発言前に意見交換した経団連で「今日は、役員には建設関係の皆様も多い」と明かしていたことが忘れられないのだ。やたらと農業機械のリース推進の際に「建設業界」を例にあげている点は見逃すことができない。
2009年に政権交代を果たした民主党の鳩山由紀夫首相は「最後に聞いた人の話をよく聞く」(外務省官僚)と言われ、レクチャーを入れる幹部官僚たちは「最後の方」を希望したという。多忙を極める首相や大臣ともなれば、直前に聞いた話が耳に残るのは仕方ないだろう。そして、それらを自分の言葉に即座に変換できる政治家たちが永田町では「優秀」とされるのかもしれない。
だが、今回の「コンバイン発言」だけではなく、「5キロ2000円台に下がった」発言などを見ても、やはり小泉農水相の発言は「軽すぎる」と感じる。コメ卸大手やJAなどを「抵抗勢力」と位置づけるかのような言動も気がかりだ。
本当に小泉氏に日本を任せても大丈夫なのか
コメ不足、コメ価格高騰という“追い風”を受けている間は国民からの批判をあまり受けないかもしれないが、こうした小泉農水相の姿勢は冷静に見る必要があるのではないか。
産経新聞社とFNNが6月14、15日に実施した世論調査によれば、次の首相に誰がふさわしいかを尋ねたところ、小泉農水相がトップの20.7%だったという。2位は「初の女性宰相」候補といわれてきた高市早苗元経済安全保障相(16.4%)、3位は石破茂首相(7.9%)だ。自民党支持層に限れば、小泉氏は27.7%で、2位の石破首相(18.1%)を10ポイント近く上回っている。
衆院で少数与党となった自民党の議員として、低空飛行を続ける石破政権の支持率浮揚にも一役買っている小泉農水相。7月の参院選の結果次第では首相の座を賭けて再び大勝負に出る可能性もあるだろう。だが、はたして本当に小泉氏に日本を任せても大丈夫なのか。それは「劇場」の中から見るのではなく、しっかりと客観的に考えたい点と言える。