参政党の設立メンバー「政治的革命を起こす可能性」…謎の“一体感”の生み出し方「党員の主流が変われば過去発言はなかったことに」

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 参院選の前哨戦といわれる東京都議会議員選挙で躍進した参政党。早稲田大学招聘研究員にして国際政治アナリストの渡瀬裕哉氏は、参政党の設立に関与した一人である。同氏は、「投票すべき政党が存在しないならば自ら創設する」という理念に基づき、元日本共産党国会議員秘書やYouTuberらと共に参政党を立ち上げた。しかしながら、党代表である神谷宗幣氏との政策的相違が生じ、渡瀬氏を含む創設メンバーは相次いで離党した経緯がある。

 渡瀬氏は、現在の参政党に対しSNS上で、「党運営、党体制、および資金調達を評価し、政策面は評価しないという基本的姿勢」であると表明している。また、「今回の参議院議員選挙で批判された空想科学的な政策は修正すべき」「真剣に政策を立案する段階にある」といった見解を示している。本稿では、渡瀬氏が分析する参政党躍進の理由について詳述するーー。

目次

参政党が日本に政治的な革命を起こす可能性

 参政党が参議院議員選挙で躍進するようだ。筆者は同党元ボードメンバーの一人として結党初期段階に関わったため、現在の参政党現象についての見解を読者諸氏に述べる自由を許してほしい。

 参政党が様々な新興政党の中で頭一つ抜けた存在となっていることは偶然ではない。また、選挙基盤が脆弱な既存政党を脅かす力を持っていることも不思議ではない。なぜなら、参政党は「選挙の足腰」である党員を集めることによって組織された政党だからだ。

 参政党を既存政党のような古臭い政党と同列に捉えることは間違いである。参政党は政党運営に民間企業の考え方を持ち込んだ初の政党であり、その仕組みは極めて効率的・効果的に運用されている。党員を獲得するための優れたSNSマーケティング技術、獲得した党員を組織にコミットメントさせる仕組み、それを実現するための事業主体を有する政党である。そして、それらを統括する代表の神谷宗幣氏の手腕は優れており、組織拡大に対する彼の飽くなき熱量は賞賛に値する。

 既存政党と比較すれば分かりやすい。たとえば、親からの地盤を受け継いだ封建領主のような政治家、労働組合に頭が上がらない政治家、メディアで影響力を持つ創業タレントに物を申せない政治家、落下傘で経歴・ルックスだけはピカピカの勘違いした政治家、路上や議場で無意味なパフォーマンスに明け暮れる政治家などが支配する政党等、と参政党は一線を画する。

参政党はどうやって「党員の一体感」を生み出したのか

 参政党は党員主体の政党であり、党員に認められる人物や党員の意向をくみ取れる人物でなければ候補者になることは難しい。つまり、議員が支配する政党ではなく、党員の空気が支配する政党である。たとえ神谷代表であったとしても、党員の空気・期待を無視した党運営はほぼ不可能である。

 参政党が主催する講演会イベントは洗練されており、しっかりとしたパフォーマンスが伴うショーとして運営される。党員は、配信されるメルマガ、一体感を作り出すイベント、候補者との触れ合いを通じて、その対価として党費やグッズ代を支払っている。膨大な党費や売上収入は党基盤を安定させ、再び党員拡大のための資金として投下される。そうして、党費を支払っている党員は自ら選挙にボランティアとして参加する。

 参政党公認の地方議員は、党員ボランティアからの支援が得られるため、他政党が候補者に自己負担させている政治活動費用・選挙費用を大幅に削減できる。そのため、地方議員は議員歳費から一定割合を党本部に上納する。それは政治活動・選挙活動全体のコストと比較すればトータルで割安感すらあるかもしれない(もちろん、人間なので地方議員に上納システムに不満を持つ人もいると思うが)。そうして選挙の足腰たる現実的な地方基盤が構築されていく。強固な地方基盤は国政での躍進の基盤となる。

参政党の政策は何故「おかしなもの」が混ざるのか

 このように参政党が有する組織運営の仕組み・ノウハウは非常に合理的であり、議員が我が世の春を送るためだけにある既存政党とは天と地ほども組織運営のレベルが異なる。参政党の政党組織運営は極めて近代化したものだ。

 では、何故そのような近代的な政党組織を持つ参政党の政策の中に眉を顰めるような政策が並ぶことがあるのか。もしくは街頭演説、他党とのディベート、内部講演会で問題視される発言が出てくるのだろうか。筆者が述べる問題視される発言とはポリコレ違反の発言ではなく、あくまで荒唐無稽な陰謀論や非科学的な話、そしておよそ実行が困難な財政支出が伴う政策などの非合理な政策が混ざるのか、ということだ。

 その理由は同党にとって政策とは、集まった党員の空気をそのまま代弁することだからだ。

党員の主流が変われば過去の発言は無かったことになる

 前述の通り、神谷氏自身も党員の空気から逃れることは難しい。というか、むしろ組織拡大を目指す神谷氏は集まった党員の空気を代弁する必要がある。そのため、十分に現実的な精査がされることなく、政策がアウトプットされているのが実態ではないかと推測される。

 そして、その政党構造の宿命として、新たに組織拡大のマーケティング対象として集めた党員層にウケる政策を言い続ける必要がある。参政党が陰謀論、オーガニック、反ワクなどのコアな支持者を取り込んでいく際に、その新規党員層の声を反映した主張を繰り返してきた。しかし、時が経って、党員の主流が変われば過去の発言は不問かor無かったことになる。なぜなら、同党にとって説明責任を負う相手は、世間ではなく党員、なのでそれで問題になることはほぼない。

 結党当初は「一円の増税も許さない」というスローガンがあったが、2022年の参議院議員選挙前にその政策的な歯止めが外れた。その時点で同党の政策は財政支出のタガが外れて、財政制約を考えることなく、党員が望むどのような政策でも同時に並べられるようになった。その結果として、およそ非現実な財政支出、国有化、その他の政策が並べられることに抵抗が無くなったと思う。しかし、これは党員の願望を並べたものに過ぎないので、本に実装可能な政策論争の対象として扱うことは困難だろう。

既存の野党の政策も空想的な政策ばかりという事実

 しかし、考えてみれば、既存の野党の政策も空想的な政策ばかりだ。左派系の野党が夢想的・荒唐無稽の政策を主張し続けてきたことで、日本人の多くはこのような状態に慣れ切って感覚がマヒしている。また、特定の野党には参政党の言動をやたら危険視する言論も散見するが、戦後史を見れば政党の歴史のトラックレコードとしてどちらが危険な過去を持っているかは一目瞭然だ。

 また、与党であったとしても政策は滅茶苦茶である。現在の石破政権は「日本財政は財政破綻したギリシャ並の状況」と国会で述べながら、巨額の給付金というバラマキを公約に掲げている支離滅裂ぶりだ。まして、現状で選挙に負けそうになっていることに鑑み、給付金のお替りまで検討すると言い出した。彼らに財源論や財政責任を語る資格など全くないことが分かる。また、詳細な政策集を見れば、政党と関係を持つ各種利権団体の望む政策がこれでもかというほどに小さな文字で敷き詰められている。平たく言えば、単なるバラマキリストが並んでいるだけだ。

参政党の政策が「まともなもの」に変わらないと、党は終わる

 そのため、参政党の政策が現状において非現実なものであったとしても、それほどおかしいとは言えない。参政党は党員主体政党という近代政党の萌芽を迎えた。この次にやるべきことは、政策の専門家に政策立案を委託することだ。それも従来までの政治関係者、元議員、元役人などを雇うのではなく、民間の優れた能力を持った研究機関に発注することが大事だ。党員の空気をそのまま垂れ流すだけでなく、それを踏まえた上での政策としてのブラッシュアップできる仕組みが必要だ。そのための資金力は党費や政党助成金から十分に捻出することができるはずだ。これができなければ、参政党は十分に近代化できず、選挙は強いがトンデモ政策を掲げ続ける政党として終わるものと思う。(もしくは政策的に官僚機構に飲み込まれて終わる。)

 一方、日本の既存政党に求められることは「近代化」だ。近代化とは、理念、組織(党員)、政策を持った経営体に生まれ変わるということだ。

 そのような決断ができないなら、既存政党の政治家は参政党に徐々に駆逐されていくことになる。また、参政党のシステム自体は優れた経営戦略は、逆にやろうと思えば容易に模倣できる。今後、既存政党は第二・第三の近代政党の台頭に対抗できなくなるだろう。既存政党が変われないと言うなら、日本の未来のために早々に退場したほうが良い。

 筆者は理念、組織、政策が伴う政党同士の競争による健全な民主主義が日本で行われていくことを願っている。そのため、現在の参政党の台頭は、不十分だとは思うものの、基本的には歓迎している。第二・第三の近代化された政党が旗揚げされ、日本の政治の根幹にイノベーションが起きることに期待している。

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この記事の著者
渡瀬 裕哉

1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 早稲田大学公共政策研究所招聘研究員、事業創造大学院大学国際公共政策研究所上席研究員。機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。2016年トランプ大統領当選、2020年民主党による大統領・連邦上下両院勝利を正確に予測し、米国政治に関する分析力に定評がある。『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 』(すばる舎)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)

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