中国で“失われた世代”が生まれる…4,400万社の倒産が招いた悪夢のシナリオ 不動産バブル崩壊は「序章」に過ぎない

不動産バブルの崩壊や深刻なデフレに見舞われ、先行き不透明感が増している中国経済。年金制度崩壊の危機も囁かれる中、漂流する世界2位の経済大国が向かう先はどこなのか。独裁色を強める習近平政権が追い詰められて台湾を進攻する「暴走シナリオ」とは。日本と中国双方の政治・経済に精通したオピニオンに定評がある東京財団政策研究所 主席研究員の柯隆氏に、詳しく話を伺った。短期連載全4回の第2回。(取材日:6月19日)
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中国に帰れない“本当の理由”を告白 拘束より怖い?
――帰ること自体がリスクになっているのですね。
それだけではありません。冗談のような話ですが、もし私が今、出張などで中国に帰ったとしても、まず仕事にならないのです。インタビューをしようとすれば、相手はそれなりの立場の人になります。それだけで「反スパイ法」に抵触するリスクがある。
さらに言うと、仮に何のトラブルもなく、スムーズに日本に帰ってこられたとします。これもまた困ったことになるのです。私がテレビなどに出演した際に、「他の人は拘束されたり大変な目に遭ったりしているのに、なぜ君だけ無事に帰ってこられたんだ?」と疑われるわけです。「中国政府と裏で通じているスパイではないか」と。そうなると、いくら潔白を証明しようとしても、釈明しきれません。
ですから、あらゆる角度から見ても、今、中国に帰るのは得策ではないというのが正直なところです。ただ、私がまだ「無事」であることの証拠が一つあります。私は中国の銀行に口座を持っていて、そのデビットカードが今でも使えるのです。
――口座が凍結されていない、と。
ええ、止められていません。これは幸いなことです。今でも時々、アリババなどのEコマースで南京の親族に魚や美味しいものを買って送るのですが、その支払いに中国の人民元で決済できるカードを使っています。先週も使いましたが、問題ありませんでした。これが使えるうちは、まだ大丈夫なのかなと。
なぜ中国経済はここまで悪化したのか? もはや政府の政策は完全な機能不全
――先ほどゼロコロナ政策のお話が出ましたが、あの政策は結果的に中国経済に大きなダメージを与えたように見えます。直近では不動産価格も暴落し、経済の先行きが非常に不透明です。柯隆さんの目から見て、現在の中国経済はどのような状況にあるのでしょうか。
ゼロコロナ政策について正しく評価すると、最初の1年目は有効だった面もあると思います。コロナが発生した当初、ヨーロッパも日本も大混乱でしたよね。安倍さんがマスクを配ったりして、皆が右往左往していた。その中で中国だけは都市封鎖(ロックダウン)という強硬手段で感染を抑え込みました。そのとき、中国国内では「我が国だけが感染者数を低く抑えられた」と、一種の誇りや自慢のようになっていたのです。ですから、最初の半年から1年くらいは、政策として評価される部分もあったでしょう。
問題は2年目以降です。ウイルスが変異し、感染力は強くなったものの毒性は弱まり、感染しても多くの人が死ななくなりました。にもかかわらず、習近平政権はロックダウンを緩和するどころか、さらに厳格化していったのです。少しでも濃厚接触の疑いがあれば専門の隔離施設に連行されたり、人々を街に出さないためにレストランやスーパーをすべて閉店させたり。たとえば、人工透析が必要な腎臓病患者が病院に近づけずに亡くなるなど、悲劇がたくさん生まれました。一言で言えば、2年目以降のロックダウンは完全に行き過ぎであり、逆に被害を拡大させました。
そして今の中国経済政策も、これと似たような状況で、まったく機能不全に陥っています。今の中国経済がなぜこれほど困窮しているのかを端的に申し上げると、「三重苦」に悩まされているからです。
中国で“失われた世代”が生まれる…4,400万社の倒産が招いた悪夢のシナリオ
――「三重苦」、ですか。
ええ。一つ目の苦は「コロナ禍の後遺症」です。3年間のコロナ禍、特に厳しいロックダウンによって、中国では実に4,400万社の中小企業が倒産しました。
――4,400万社……中小企業は雇用の受け皿ですから、その影響は計り知れないですね。
おっしゃる通りです。なぜこれほど多くの中小企業が潰れたのか。比較対象として日本を見ると、コロナ禍での倒産は比較的少なかった。それは、日本には「中小企業信用保証制度」があったこと、そして「給付金」が支払われたことが大きい。一部で不正受給の問題はありましたが、多くの企業が救われたという点で、あの政策は評価できます。
一方、中国には中小企業を支える信用保証制度がありません。そして、給付金は1人民元たりとも支払われなかった。その結果、気づけば4,400万社が消えていた。そのせいで、今おっしゃったように若者の就職先がなくなり、中国は今、「就職の超氷河期」に突入しています。かつての日本の比ではありません。文字通り、就職先がないのです。