だから参政、国民に票が流れ、自民は今後も負け続ける…与党過半数割れ!歴史的参院選で新興政党を推した人の絶望、減税への希望

7月20日投開票の参院選で政権与党・自民党が歴史的大敗を喫した。いわゆる「オールド政党」が勢いを欠いた一方で、躍進したのは「新興勢力」だ。国民民主党や参政党、れいわ新選組はなぜ伸長することができたのか。選挙分析に定評がある経済アナリストの佐藤健太氏は「1つの時代が終焉し、もう1つの時代の始まりを感じさせる」と指摘する。1993年に非自民連立政権の細川護熙内閣が誕生し、自民党と社会党がしのぎを削った「1955年体制」が崩壊してから約30年。国民はいよいよ「失われた30年」を取り戻すため“覚醒”したのか―。
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32年前の衆院選を思い出さずにはいられない
今回の参院選結果を見ると、32年前の衆院選を思い出さずにはいられない。終戦後の1955年、当時の自由党と日本民主党は「保守合同」で自由民主党(自民党)にまとまり、分裂していた日本社会党は右派と左派が再統一した。以降の日本政治は自民党と社会党による2大政党が中心で、多少の議席変動はあれども自民党が政権与党であり続けた。
だが、1993年夏の総選挙で政権与党・自民党と野党第1党・社会党の議席は激減した。代わりに伸びたのは前熊本県知事の細川氏が旗揚げした日本新党、自民党にいた武村正義氏(元官房長官)や鳩山由紀夫氏(元首相)らが結成した「新党さきがけ」、小沢一郎氏(現・立憲民主党衆院議員)が主導する「新生党」だった。こうした新興勢力の台頭は政権交代につながり、非自民8党派連立政権が誕生する。自民党政権が倒れた日である。
もちろん、当時と今は時代背景も大きく異なる。だが、共通するのは数々の不透明な政治資金問題やスキャンダルなどに国民が辟易し、バブル崩壊に伴う経済低迷で失望感が増幅。「さすがにもう我慢できない」と伝統的な政党を見捨てた人々が非自民票を社会党でもなく、新しい選択肢として新興勢力に投じていったことだ。「政治改革」を求める声は日増しに強まり、それは大きなうねりとなって「1つの時代」を終焉させた。
今回の参院選で伸長した国民民主党、参政党、れいわ新選組の公約・主張を細かく見れば異なるのは当然なのだが、1つ共通するものがある。それは「失われた30年」に対する怒りだ。それは「1993年以降の政治」との決別であり、一線を画すという宣言でもある。
政権与党が打ち出せなかった「減税」路線
国民民主党の玉木雄一郎代表は議席を4倍増にした昨年秋の衆院選で「手取りを増やす」と掲げ、「国民に豊かさの実感が湧かなければ、失われた30年は終わりを迎えることができない」と訴えた。
参政党の神谷宗幣代表は参院選で「お金がないからお金が使えない。使えないもんだから税収が落ちる。税収が落ちるから国がサービスを提供できないと税金を上げてきた。経済が冷え込む、だから税金をとる。そうしたらますます冷え込む。これをずっとやってきた結果が今の30年」とし、「失われた30年を取り戻すために減税をおこなうべきだ」と主張した。
れいわ新選組の山本太郎代表も「物価高だけに問題を矮小化している」と訴え、消費税の廃止を掲げながら「失われた30年、40年にしないためには徹底した消費の喚起、一人一人の国民に購買力を高めていってもらう」と各地を説明して回った。いずれも、政権与党が打ち出せなかった「減税」路線だ。
新興勢力の魅力が際立つ結果を招いた
自民党は参院選で2024年の名目GDPが史上初めて600兆円を超え、今年の春季労使交渉では賃上げ率が過去最高水準の5%台などと実績を強調した。石破茂首相は国民1人あたり2万円の給付プラン(子育て・非課税世帯は加算あり)も発表し、減税路線とは距離を置いてきた。自民党は公式サイトで「消費税減税は法改正やシステム変更が必要なため、実施は早くても1年後となり、コストもかかる」「(消費税減税は)社会保障や地方の財源を損なうため、慎重に対応すべき」などと説明している。こうした姿勢は「給付か、減税か」といった政策議論よりも、日々の生活に悩みを抱える人々にとっては“抵抗勢力”と映ったに違いない。そして、対照的に減税路線を打ち出す新興勢力の魅力が際立つ結果を招いたのだ。
総務省が発表した5月の消費者物価指数は生鮮食品を除いた指数が前年同月比3.7%上昇し、6カ月連続で上昇率は3%台が続く。特に価格高騰が著しい「米類」は上昇率が過去最高を更新し、前年の2倍超となる水準となった。帝国データバンクによれば、2025年7月の飲食料品値上げは合計2105品目に達し、前年同月からプラス403.6%と急増。通年の品目数では1万8697品目となり、早ければ7月にも年間で2万品目への到達が判明する見通しという。米国のトランプ大統領が推し進める相互関税も日本経済に暗雲をもたらせている。
支持者はなぜ自民党から離れたのか
その意味では、国民・玉木代表の「所得税改正ができれば年末調整で皆さんに約10万円が戻ってくる」、参政・神谷代表の「税金と社会保険料を合わせた国民負担率を35%まで落とす」、れいわ・山本代表の「消費税をやめれば、皆さんが使えるお金が増える」といった訴えが多くの国民に響くのは当然と言える。要するに、主要国は物価上昇があっても賃金上昇が伴うからこそ対応することができてきたが、日本はバブル崩壊からデフレ経済が続き、長いトンネルから抜け出せずにきた。そして、その責任の多くは政権与党の座にあった自民党にある―。こうした主張には従来の自民支持者であっても足を止め、耳を傾けた人が少なくない。
国民の怒りにも似た感情は1993年の総選挙で社会党の議席が激減した時と同様に、自民党だけではなく、オールド政党への飽き、軽蔑にもつながっていったように見える。自民党派閥の政治資金問題もさることながら、一向に明確な結論を出せずにいる「政治改革」に対しても冷ややかな視線が充満していたのだ。
新興勢力3党は「すみ分け」も十分だった
国民民主、参政、れいわの新興勢力3党は、SNSを中心に人気を高めてきたと言われる。ただ、単にSNSを活用さえすれば今日の票を獲得できるかといえば「否」である。たしかに自民党や立憲民主党、共産党などはSNS戦略で遅れをとってきた。だが、新興勢力3党がSNSで人気を集めたのは、先に触れた通り国民がおかしいと思ってきたことを代弁し、それらのニーズに基づく主張を展開してきた結果と言える。「なぜ自分の生活はこんなに苦しいのか」「なぜ日本だけ経済が低迷しているのか」「物価上昇に有効的な施策をなぜ打たないのか」。3党の減税を中心とする主張は明快だった。
とはいえ、同じような政党がぶつかり合えば結果として組織票を持つ伝統的な政党が有利なのが選挙だ。ただ、新興勢力3党は「すみ分け」も十分だったと言える。
国民民主党は「改革中道」をうたい、右でも左でもない是々非々の改革路線を打ち出した。これは所得税の納付が必要となる「年収103万円の壁」見直しやガソリン減税といった個別の政策テーマもさることながら、昔ながらのイデオロギー対立から一線を画したい「真ん中」の国民にはハマりやすい。
共産党も含めたオールド政党の苦戦
朝日新聞が昨年10月の衆院選投開票日に実施した出口調査を実施し、年代別の比例区投票先を分析したところ、2021年の前回衆院選に比べて自民党は若年層の支持が激減。逆に伸長したのが国民民主と、れいわ新選組だった。旧民主党を源流とする国民民主党と立憲民主党は無党派層の支持を分け、れいわ新選組は共産党の票を一部吸収する形になっていると指摘される。その意味では野党第1党の立憲民主党が自民党大敗にもかかわらず大躍進とはいかず、共産党なども含めた伝統的な政党が伸びなかったのも頷けるところだ。
6月の都議選で初めて議席を獲得し、その勢いのまま今回の参院選でも躍進した参政党の特徴は、国民民主党やれいわ新選組に比べて「保守色」が見られるところだ。SNSを積極活用し、若年層や無党派層に訴えかける点では共通するものの、今の自民党に辟易した保守層までを取り込む点はオールド政党にとって脅威となった。
選挙分析を知る者であれば驚愕すべき数字
参政党が全選挙区に候補者を擁立したことにより、立憲民主党の候補者などと接戦を繰り広げる自民党候補は保守層、無党派層でマイナスとなる。ある自民党県連幹部は「立憲の対抗馬が強くなったというよりは、参政党の台頭で自民の支持票が減った」と苦戦の理由を明かしていた。結果として参政党の選挙区での獲得議席が伸びるかどうかよりも、自民党敗北につながったと見る関係者は多い。
時事通信の世論調査(7月11~14日)によると、自民党の支持率は16.4%(前月比2.5ポイント減)に下落し、自民党が野党に転落した2009年衆院選の直前と同水準にまで減少。さらに日経新聞が7月13〜15日実施した世論調査を見ると、50代以下は8割超が野党に投票する意向を示し、「若い世代は国民民主党、壮年層は参政党に流れる傾向が強い」との結果が出たという。
その分析記事によれば、18〜29歳の投票したい政党は国民民主がトップの29%で、参政は20%。30代は両党が拮抗し、40代は参政21%、国民民主17%だった。参政は50代でも19%で投票先トップを保っていたという。この結果は、選挙分析を知る者であれば驚愕すべき数字と言える。
これからも「自民党は負け続ける可能性」
なぜならば、自民党は「負けるべくして負けた」だけではなく、これからも「自民党は負け続ける可能性がある」と言えるからだ。まず、先の日経新聞の分析記事によれば、60代以上になると自民党、公明党に入れる人の割合が増える。70代は自公が33%、立憲民主党は23%。逆に国民民主党や参政党は一桁に沈んでいる。いわば、年代によって支持政党、投票先が大きくチェンジしているのだ。
その意味は明白だろう。人類が誕生してから永遠の命を手にした者がいない以上、やがて生まれた人は加齢を重ね、死が訪れる。不運にも事故や重い病気に遭わないことを考えれば、一般的には高齢者だけに支えられている政党は衰退していくのが自然だ。それは自民党だけではなく、公明党も立憲民主党も同じだろう。たしかに全国各地に張り巡らされた支部・組織によって一定の票を集め、議席を確保していくことは可能だろうが、若年層にリーチできない限り、時代と共にそれは下降していくことが容易に想像できるのだ。
もう1つの視点は、自民党支持者が「自民離れ」を起こしている点だ。いわゆる「政治とカネ」問題や失言・スキャンダルで自民党に“お灸”を据えたいと思っている支持者もいるが、これは一時的なものでは済まなくなっている可能性がある。
実際の選挙になると自民党には投票しない支持者
読売新聞が6月22日、都議選の投票を終えた有権者を対象に出口調査を実施したところ、支持政党は自民党の20%が最も多かった。立憲民主党と国民民主党はそれぞれ10%、小池百合子都知事が実質的に牽引する地域政党「都民ファーストの会」は6%、参政党と共産党は5%だった。だが、自民支持層で自民党に入れたのは54%にとどまっている。都ファに投票した人は16%で、無党派層からも都ファが最も多い24%を得ていることがわかる。
支持政党は依然として自民党が多いものの、実際の選挙になると自民党には投票しないという人が増えているということだ。今回の参院選を見れば、全選挙区に擁立した参政党が保守層の一部も取り込んだ。それでは、自民党が選挙で勝てるわけがないのは当然だろう。これは、もはや一時的な「現象」というよりは、政党として年代別の支持獲得に本気で向き合ってこなかった「怠慢の結果」というほかない。
石破首相は今年4月に「就職氷河期世代等支援に関する関係閣僚会議」を立ち上げ、失われた30年に苦しめられてきた世代を支援する検討にようやく入った。年齢で言えば、40代後半から50代半ばに光を当て、不遇に苦しんできた人々に救いの手を差し伸べようというわけだ。
これでは、国家は一体何のために存在するのかと疑問さえ
だが、その年代の不満は「シルバー民主主義」そのものに向けられていると言っても良いだろう。高齢層に手厚い支援がある一方で、自分たちの世代を境に給料が伸びない、退職金は減らされた、年金はどうなるかわからないといった不安や不満が充満してきたのだ。
氷河期世代よりも下の世代には「政治なんかに期待しない」という人も少なくない。少子化問題が大変だからと児童手当が拡充されたかと思ったら、税や社会保険料がアップする。物価上昇が止まらず、今の生活が苦しいと思っていたら「財源がない」の一点張り。これでは、国家は一体何のために存在するのかと疑問さえ抱くのも無理はない。過去最高の税収がありながら、すでに徴収された税金から国民に2万円を配ると言われても「だったら、そもそも税金を少なくして」と思うのは自然だろう。
今回の参院選で、国民民主党や参政党、れいわ新選組の勝利は「失われた30年」にみられてきた国の制度や政治のあり方に国民が「NO」を突きつけた結果と言える。これからの政局や政界再編に伴う「民主主義のコスト」は決して低くないかもしれないが、これが直近の民意だ。オールド政党は、選挙で示された「声」に真摯に対応していかなければ、早晩さらなる打撃が待ち構えることだろう。日本は今、再興できるか否かの岐路にある。