「消費税を守り抜く」謎の決意で国民から総スカン それでも政府与党がなりふり構わず“消費税死守”に必死なワケ

 石破茂政権の2万円給付案を「目的がわからない究極の手抜き」とバッサリ斬るのは、かつて小泉純一郎政権で構造改革を断行した経済学者・竹中平蔵氏だ。なぜ日本は何十年も成長できず、おかしな政策ばかりが続くのか? 竹中氏と『令和の虎』2代目主宰の林尚弘氏が、日本の未来をめぐり本音トークを炸裂させた。短期連載全4回の第2回。(対談日:6月24日)

目次

「消費税を守り抜く」政府与党がなりふり構わず必死なワケ

竹中: そうなんです。つまり、低所得の人が所得税を払わないのは分かるんだけど、これ政治的に言うとすごく怒られますが、中所得の人もほとんど払っていないんですよ。で、高額所得の人がガーンと払っている。

 本当は所得税をちゃんとしましょうと言うなら、中所得の人にもっと税金を払ってねって言わなきゃいけない。でもそんなこと政治的に到底言えないから、消費税を取ろう、取ろうとするわけです。

実質「人頭税」がまかり通っているヘンな国・ニッポン

林: なるほど。でも年収が低い人も社会保険料は払っていますよね? そう考えると、僕は社会保険料がグッジョブって思えてきちゃうんですけど。

竹中: そこはね、大変面白いんですよ。社会保険料、たとえば国民年金の基礎年金は、ある程度定額で払うじゃないですか。これは実質的な人頭税なんです。サッチャーがやろうとしてできなかった人頭税が、日本には年金という形で実質的にある。これは確かに低所得者の人には重い。

 だから、私は社会保障の制度を変えるのは大変面倒ですから、さっき言ったように給付付きの税額控除にするほうがいい、と。これはマイナンバーがあるからできるはずなんです。

日本人の所得が低すぎるのが一番の問題だ「負担が重い」は見当違い

林: 所得が低い人には重いかもしれないけど、払ってもらわないと困るという側面もある。でも、竹中先生のお考えは、重すぎて困っている人が辛いんじゃないか、ということですか?

竹中: いや、重すぎるとは言えないんですよ。「所得が低すぎる」というほうが正しいですよね。だから、もっと所得を上げる政策が前面に出なきゃいけないのに、所得が低いことを前提に「何とかしてあげます」という、非常に短期的な視野で毎年毎年政策が進んでいます。

日本が世界経済の成長から取り残されているたった1つの理由

林: やっぱり所得を上げるには、労働市場の自由化とかですか?

竹中: そういうことも必要だし、とにかく規制緩和することが求められます。ここ8年間で世界で一番成長した産業は、私はライドシェア産業だと思いますよ。アメリカのUber、中国のDiDi、シンガポールのGrab。巨大な新産業が生まれ、多くの雇用と富を生み出しました。しかし、日本はこの世界的な成長産業をいまだに事実上、禁止しているわけです。

 農業だってそうですよね。生産性が一向に上がらないような古い制度を、いまだに温存しています。

既得権益大国ニッポンの残念な現状 経済が低迷するのも当然だ

林: いろんな業界に既得権益を持つ企業や団体がいて、彼らが自民党の票田になっている。だから自民党は彼らに配慮して改革ができず、結果として日本全体の生産性が低迷している。僕にはそういう構図に見えます。

竹中: そういう分かりやすい説明をするから人気があるんだと思うんですけども、その通りです。ただ、客観的に考えると、そういう既得権益グループってどこの国にもあるはずですよね。なぜ日本だけこんなことになっているのか、考えてみる必要があります。

林: どうしてですか?

竹中: 根本にあるのは、よく言われる「鉄の三角形(アイアン・トライアングル)」です。既得権益を持つ「業界」、それを政治的に支える「族議員」、そしてそのシステムを維持する「官僚」。この三者の強固な結びつきです。この三角形はどの国にもありますが、日本の場合は特に「官僚」の力が突出して強い。彼らがこの三角形を非常に巧みに、バランスよく維持するシステムが働いているのです。

日本のジャーナリズムは機能していない…竹中氏が痛烈批判

竹中: それで、「骨太の方針」って分かります? こないだ出ましたけど、たぶん読んでないですよね。

林: すみません、はい。どこにあるんですか? 調べれば出るんですか?

竹中: 出ますよ。内閣府のホームページで、すぐ出ますから。

林: 読めないよ、そんなの。分かりやすくXに3行ぐらいで書いといてよ(笑)。

竹中: いや、そこなんですよ。そういう風に書いてほしいと思う人たちと、したたかに政策を作っている人たちの間のギャップがものすごくあるんです。

 骨太の方針は、やっぱり読まなければいけない。これは政府の次年度の最重要方針が書かれた極めて重要な文書です。これを読み解けば、政府が何をやろうとしていて、何が抵抗にあってできないのかが透けて見えます。それを国民に分かりやすく説明しなきゃいけないのがジャーナリズムなのですが、残念ながらちゃんと機能していません。

林: 今年の骨太方針のポイントはどこだったんですか?

竹中: 今年のポイントは、「あんまりない」というのがポイントです。

林: なんだよ(笑)。

石破政権の賃上げ政策と地方創生が的外れだと言えるワケ

竹中: あえてあげれば、石破さんのカラーで「賃上げ」と「地方創生」の話が別の章立てで出ているのが特徴です。ただ、残念ですが中身そのものにそんなに斬新なものはない。

 ところでここには、賃上げこそが経済のダイナミズムの要であると書かれています。賛成します?

林: うーん、どうなんだろう。賃上げしたいけど、儲かってなかったらできないですもんね。企業も上げたいけど、上げろって言われても上げられないし、首にできないから困っちゃう。

竹中: そうなんです。賃金というのは、経済実態が動いた後に動く「遅行指標」なんです。まず生産性が上がって、それで賃金が上がる。生産性が上がっていないのに賃金を上げろって言っても無理だし、無理やり上げたら物価が上昇するだけです。

すべての自治体を救うことは無理 国民は現実を直視せよ

竹中: 地方創生も、私は地方出身者だから地方には元気になってほしいけど、そんなに簡単じゃない。今1,700の自治体があるわけですけど、その全部を救おうという姿が透けて見えます。申し訳ないけど、人口がこれだけ減る中ですべての自治体を救うことは、残念ながらできないでしょう。

 地方創生担当大臣ができたのは安倍内閣のときで、最初の担当大臣は石破さんです。そのときについたお金が1,000億円。今それを2倍ぐらいにしようと言っていますけど、2倍になったって2,000億円。もっと根本的な問題として、国から地方に行っている地方交付税は17兆円あるんですよ。17兆円の本体を改革しないで、2,000億だけつけても、そんなに大きな変化が起こるとはとても思えない。こういうことをメディアが分かりやすく解説しなきゃいけないのに、どこにも書いてないですよね。

小泉進次郎農水相がやっているのは「極めて当たり前のこと」

――今の内閣だと改革が進まないんじゃないかというお話でしたが、一方で今、小泉進次郎さんが農林水産大臣としてチャレンジングなことをしているように見えます。どう評価されていますか?

竹中: 小泉進次郎さんは、何年も前に自民党の農林部会長をやっていて、農業政策について非常に細かいことまでご存知のはずです。今やっている米の値段対策は、ほんの入り口で、彼にとっては極めて当たり前のことだと思います。

 まず、米の値段が高い。これを何とかする、というのは理屈抜きの政治決断です。ニンジンの値段が上がってもここまでの騒ぎにはなりませんが、米は主食だからやる。これは出発点としていいですよね。

 短期的に値段を下げるには備蓄米を出すか、輸入するかです。それでとりあえず備蓄米を出しましょう、と。面白いことに、備蓄米を出すと決めたとき、農協は最初大反対したのに、いざ出したらそのほとんどを農協が買ったわけですよね。すごいですよね、農協って。

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