“残業代ゼロ”に文句を言う人たちの根本的な勘違い「サラリーマンは成果で評価せよ」竹中平蔵氏が緊急提言

石破茂政権の2万円給付案を「目的がわからない究極の手抜き」とバッサリ斬るのは、かつて小泉純一郎政権で構造改革を断行した経済学者・竹中平蔵氏だ。なぜ日本は何十年も成長できず、おかしな政策ばかりが続くのか? 竹中氏と『令和の虎』2代目主宰の林尚弘氏が、日本の未来をめぐり本音トークを炸裂させた。短期連載全4回の第4回。(対談日:6月24日)
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地方議会は正直「いらない」せいぜいPTAレベルで十分だ
林: 他におすすめの政策はありますか?
竹中: これは反発があるでしょうけど、区とか小さな市は、議会はいらないと思いますよ。
林: 分かる。地方議会いらないですよね。
竹中: そこにはタウンマネージャーを置けばいいんです。議会を置くとしても、PTAと同じにすればいい。議会は土日と夜間に開くわけです。普通に職業を持って頑張っている人がPTAの役員になるように、議員になる。
林: いいですね。それも結構な歳出削減になりそう。
「残業代ゼロ」上等? サラリーマンは成果で評価すればいい
竹中: あとは思い切って規制緩和をやらなきゃいけないですよね。先ほど言ったUberのようなものもそうですし、農業改革、労働市場改革も重要です。労働市場改革も、金銭解雇のルールを作るとか、仕事の評価軸を時間評価から成果評価に変えるとか。
普通のサラリーマン、ホワイトカラーも、基本的に成果で評価されるべきじゃないでしょうか。今は時間で評価するから、在宅勤務ができないんですよ。だから評価のシステムを変えるっていうことも重要ですよね。でも、この話をすると必ず「残業代ゼロ法案だ」とか「カネで首を切るのか」と揶揄する議論が出てくる。
日本の停滞を打破する“禁断のシナリオ” 国会はもはや不要?
林: なので、僕、それを含めて、先生が教えてくれた8個ぐらいの改革をやろうと思ってもできないと思うんです。郵政民営化だけで1内閣が必要だったんだから、この8個やるのに8内閣必要で、超時間がかかる。そこで僕なりの解決策があるんです。僕が総理になったら一番やりたい政策なんですけど。
竹中: ぜひ聞かせてください。
林: この8個全部を派手にやりたい。でも、東京を政府直轄地にするって言ったら「西東京はどうするんだ」とか、細かい問題でメディアがぐちゃぐちゃになる。労働市場改革なんて言った瞬間に「悪の権化だ」と思われる。
そこで僕が考えたのは、僕が総理大臣になったら、テレビ番組の司会者のような役割をやるんです。「みなさーん、お給料を上げるには、会社が人を解雇しやすくするといいらしいですよ。でも、クビになるのは怖いですよね。今のままだと、解雇できないから給料も上がらないらしいです。さあ、どっちがいいですか? どっちでもいいですよ」って言って、司会者に徹して、この8個を国民投票にかける。総理は司会者になるんです。
『令和の虎』林尚弘氏、新党結成で政界進出の仰天プラン
林: 総理が「こうするんだ!」って言ったら、国民は押し付けられたと感じて、「こいつのせいだ」ってなる。だから、みんなでせーので8個投票すれば、ワンチャン3つ、うまくいったら6個ぐらい通ると思うんです。まずは「超重要な政策はみんなの投票で決める」という国民投票法を作りたい。林案、いかがでしょうか?
竹中: 直接民主主義でやりたいってことですよね。ただ、おそらく国会は反対するでしょう。直接民主主義は、間接民主主義の否定ですから。
林: 超重要な8個だけやりたいんですけど。でも国会議員が反対するから、まずそういう人が総理大臣に選ばれないか……。じゃあそういう仲間を増やすしかないですね。
竹中: ええ。だからそういう党を作ればいいじゃないですか。
竹中平蔵氏が予言する日本の「Xデー」その恐るべき兆候とは
竹中: ただ、日本が本当に切羽詰まって、やらざるを得なくなると、そういう声が通る時期がいずれ私は来ると思いますよ。
やっぱり日本の制度って、ある意味ですごくよくできていて。今の日本は、みんな文句は言うけれど、決定的に困っているわけではない。餓死する人が溢れているわけじゃないし、失業率は世界で一番低いし、治安もそこそこ保たれている。でも、かなり無理をしてお金をばら撒いたりしているので、これがどこかで行き詰まるときが来る。今はまだなんとなく持ちこたえているけれども、これが持ちこたえられなくなる瞬間が来るかもしれない。
そうなると、希望を持てない人が増えることになります。それがどういう社会現象で現れるか。私は「介護難民」が出るときだと思うんですよ。
林: なるほど。
日本に再び“明治維新”が起きる…竹中氏が断言するワケ
竹中: 介護はものすごく大変で、お金も時間もかかる。それを支える十分な社会制度と個人預金が、日本にはありません。そうなったときに「やっぱりこの社会はダメだ」となるかもしれません。そのときにさっきの8つの案を出したら、「おお、やろう!」というマインドセットが国民にできるかもしれませんよ。
日本は変わるときには、ちゃぶ台をひっくり返したみたいにものすごく変わるんです。明治維新が分かりやすいですよね。侍が近代軍隊になって、農業中心の封建社会が近代国家になって、全部変わりました。
林: 明治維新ぐらいのことが起きないとダメってことですか。
竹中: 私は起きると思いますね。当時のような形じゃないけど、今おっしゃったような形で起きるのかもしれない。よく言われる「ショックセラピー」というやつですよね。だから、林さんの案はショックセラピー案のひとつなんです。いいと思いますよ、私は。
「転落国家」日本の停滞を招いた“致命的な病”とは
林: 先生がやるべきだと言っている8個を、今の議院内閣制でやっても、僕は通る気がしないんですよね。経営者はみんな労働市場改革を求めているけれど、通らない。
竹中: 通らないですよね。
林: そうやって、やるべきことが決まっているのにできていないだけですよね。
竹中: その通りです。かつて経済財政諮問会議で、当時のトヨタの会長が「何をやればいいかをここで議論する必要はない。本屋に行けば全部書いてある」と言っていました。
官僚の抵抗「とんでもなかった」不良債権処理の舞台裏を告白
林: そんな中、竹中先生もこれだけの功労者なのに、大変な誹謗中傷を浴びせられて大変ですよね。先生がいなかったら不良債権処理とか進まなかったわけですから。
竹中: まあ、不良債権処理のときは大変でしたね。あれは損出しなんです。1億円で買ったマンションの価値が5,000万円になった。でも1億円の借金は残っている。この差額の5,000万円の損を出してしまわない限り、新たな投資はできない。あのとき、このままだと日本発の金融恐慌が起こるかもしれない、「もしも日本が不良債権を償却しないならば、世界は日本を償却するだろう」とまで書かれていたんです。
林: 族議員や官僚の抵抗もとんでもなかったんじゃないですか。
竹中: とんでもなかったですよ。
なぜ竹中平蔵は“悪者”にされたのか「派遣は労働者が守られている制度」
林: そうやって日本を救うことを体を張ってやったのに、SNSでは「私腹を肥やすためにやった」みたいにめちゃくちゃ誤解されている。派遣で格差を広げた悪の権化みたいに言われて。
竹中: 派遣のこともね、働いている人の中で派遣の割合はどのくらいかと言うと、みんな3割とか言うけど、違いますよ。最近増えて3%です。
林: ええ!
竹中: 非正規雇用は3分の1ぐらいいますが、その中で派遣はごく一部なんですよ。あとは契約社員やパート、アルバイト。派遣は非正規の中では、監督者責任が明確で労働者が守られている制度なんです。だから海外でも結構あるわけで、それなのに、いろいろとそういう風に面白おかしく言う人たちがいる。これはもう思考停止なんでしょうね。
林: もし次回があるなら「竹中先生の言い訳スペシャル」をやりたいんですよ。言い訳と言いつつ、実は全然悪くないじゃん、誤解じゃん、という話ばかりだと思うんで。
万博批判に潜む日本の“病理” SNSの遊び半分な政治議論に警鐘
竹中: 以前とは違って難しくなっているのは、やはりSNSがネガティブな情報を決定的に流すということです。
林: そうですよね。
竹中: その中で選挙に勝っていかなきゃいけないから、政治家は大変ですよ。気の毒だと思います。万博なんかいい例ですよね。建設費が数千億円になったと言っているけど、経済効果が2.9兆円あることはみんな分かっているのに、「あんな無駄遣いするな」とか。
林: 国民がそれでギャーって叩いちゃうから、挑戦みたいなことが進められない。自民党もその範囲の中で頑張ってるって感じですよね。
竹中: 客観的に言うと、国民自身が、SNSで遊び半分で議論して、自分たちの首を絞めている面があるわけです。だからSNSだけ見て政策を決めるっていう、そういう政治家はやめてほしいですね。