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「日本人ファースト」にかき消されたロスジェネ対策……雨宮処凛「参院選は最後の希望だった」

(c) AdobeStock

 バブル崩壊後の就職活動を余儀なくされた「ロストジェネレーション(ロスジェネ)」世代。バブル崩壊から30年以上経ったいまも苦しみ続けるロスジェネにとって、作家で反貧困ネットワーク世話人の雨宮処凛氏は「この参院選が最後の希望だったが、打ち砕かれた」と話す。雨宮氏はこの参院選をどう見たのかについて、うかがった。

 みんかぶプレミアム特集「格差社会サバイバル」第10回。

目次

「日本人ファースト」が争点になった参院選に失望

 今回の参院選で非常に残念だったのは、大きな争点が「外国人問題」となってしまったことです。参院選が始まるまでは、争点の一つに「ロスジェネ対策」が挙げられていました。

 自民党は、今年に入ってからロスジェネを取り上げるようになり、「ようやくまた光が当てられた」と感じていました。参院選の直前までロスジェネ対策を掲げていたので、「これまでずっと放置されてきたロスジェネ世代への支援が前進するかもしれない」とかなり期待していました。

 それなのに、結果は「日本人ファースト」ばかりが取り上げられてしまい、自民党も「違法外国人ゼロ」、国民民主党も「外国人への優遇見直し」などそれに乗っかってしまった。外国人問題がまるで日本の一番の大問題のように扱われ、あとは物価高や減税くらいで、そのほかの争点はことごとくかすんでしまいました。

 これは本当にもったいなかったですね。というのも、私は今回の参院選が「最後のチャンスなのではないか」と感じていました。ロスジェネというのは、1970~1984年ごろに生まれた人たちを指します。私もそうですが、ロスジェネ世代はもう50代に突入しているのです。

 私がこの問題にかかわり出したときからずっと言っているのは、「正社員になりたい人は正社員になれる」「結婚したい人は結婚できる」「子どもがほしい人は子どもを持てる」社会にしてほしいということです。ただ女性の場合、出産可能年齢がありますから、ロスジェネ世代の出産に関しては、10年ほど前から諦めの声を多く聞くようになっていました。

 しかし、50歳であればまだ働くことができますし、正社員だって目指せます。ですがこのタイミングを逃せば、正社員の道はもう厳しいのではないでしょうか。

自民党は「外国人問題」に乗るべきではなかった

 次にロスジェネが話題になるのは、きっとロスジェネ世代が65歳を迎えたときでしょう。ロスジェネの中には、ずっと非正規雇用で働いてきて、私含め国民年金にしか加入していない、あるいはその国民年金の保険料さえ払うことができない人たちがたくさんいます。そんなロスジェネは、社会保障制度の観点から見ると「負担」と思われてしまう可能性も高い。

 高齢になれば、生活保護を利用する人たちも増えるでしょう。そんな時、私たちロスジェネは「財政の負担になる存在」として安楽死に誘導されるのではないか、という最悪のケースすら想像してしまいます。

 今回の参院選、もっとも問題だと思ったのは自民党が外国人問題に乗っかったことです。そのせいで、「日本は外国人の脅威に直面している。この問題をすぐに解決しなくちゃいけない」という言説にお墨付きを与えてしまいました。一方、参政党を批判する声も多くありましたが、それでかえって注目を浴びるような面もあり、非常に悩ましい思いでした。

 自民党が本当になすべきは、「いまの日本にはもっと語るべきことがある」と、冷静になって自分たちのやるべきことを、愚直に国民に語り掛けることでした。私としては、自民党には「外国人敵視は良くない」と呼びかけるくらいの矜持はあるだろうと思っていたので、今回の自民党のふるまいには率直に言ってびっくりしました。この選挙で自民党に失望した人もたくさんいると思います。

 有権者からしてみれば、自民党は自分たちの暮らしを苦しくするばっかりで、もう任せられない。でも野党第一党にも政権交代の本気度が見えない。そうして「もう期待できる先がない」と思った時目に飛び込んできたのが「日本人ファースト」だったのではないでしょうか。そう考えると、与党も野党も罪深いと思います。

 なお参政党の主張・政策は非常に乱暴で排外主義的で非科学的だと感じています。が、批判されると意見が変わっていったり、憲法草案についても突っ込まれるとまだ途中段階のものと言ったりと、どんどん変わっていくのでそこも厄介だと感じています。

優先されたのは企業の論理

 「ロスジェネ」という言葉は、2007年に生まれたものです。いわゆる就職氷河期世代ですが、1970年~80年代前半に生まれた人たちが高校や大学を出るときの状況の名前でいまだに呼ばれ続けていること自体が、そもそもおかしいですよね。

 バブル崩壊後の就職難の問題がここまで長引くとは、私としてもまったく思っていませんでした。というのも、この問題を放置しておくことで生じるメリットはまったくないと考えていたからです。

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この記事の著者
雨宮処凛

1975年、北海道生まれ。 作家。反貧困ネットワーク世話人。フリーターなどを経て2000年、自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版/ちくま文庫)でデビュー。06年からは貧困問題に取り組み、『生きさせろ! 難民化する若者たち』(07年、太田出版/ちくま文庫)は日本ジャーナリスト会議のJCJ賞を受賞。 著書に『学校では教えてくれない生活保護』『難民・移民のわたしたち これからの「共生」ガイド』(河出書房新社)など多数。24年に出版した『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』(光文社新書)がベストセラーに。

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