どん底自民、地獄の総裁選──“ニセ保守”の声!高市総理待望論でも「勝つのは厳しい」2つのワケ…答弁能力が向上したネオ進次郎

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 参議院選挙での歴史的敗北を受け、自民党は総裁選で苦境に立たされている。世論調査では小泉進次郎氏が自公支持層で優位に立つ一方、高市早苗氏は他党支持層からの支持を集める。しかし、自民党支持率低迷の真因は「バラマキをやめ、減税を行え」「日本を取り戻せ」という国民のシンプルな要求に耳を傾けない姿勢にある。高市氏にはSNS上で「ニセ保守」「増税派」といった批判も上がるが、果たして彼女は、そして他の候補者は、この国の未来を左右する経済課題に対し、明確な処方箋を示すことができるのか。経済誌プレジデントの元編集長で作家の小倉健一氏が、データに基づいた現実的な経済政策の必要性を訴え、自民党総裁選の行方を分析するーー。

目次

高市早苗、厳しい総理への道

 高市早苗氏にとって、次回の総裁選は厳しい戦いになると予想される。最大の理由は、自民党支持層における支持の弱さにある。対する小泉進次郎氏は、自民・公明両党の支持基盤において高い人気を維持しているが、現代的な選挙戦に適応しきれていない一面もある。

 産経新聞とFNNが7月26日と27日に実施した合同世論調査では、小泉氏が自公支持層の中で圧倒的な優位に立っている。一方、高市氏は他党支持層からの支持を比較的多く集めている。前回総裁選で高市氏を支援した議員の多くがその後の選挙で落選したものの、議員たちは「勝ち馬」に乗る傾向があるため、推薦人の確保はそれほど大きな障害とはならないと見られる。小泉氏が自公支持層に強みを持つのに対し、高市氏は他党票の取り込みにおいて優位性がある。しかしながら、小泉氏の人気は高齢者層や女性層に集中しており、SNSやYouTubeなどが選挙戦の主戦場になりつつある現在、この構造が裏目に出る可能性もある。過去の発言や矛盾点が掘り起こされやすく、攻撃材料となるリスクがあるためだ。

 そもそも自民党は、いつになったら目を覚ますのだろうか。「外国勢力の影響だ」「ロシア製botがSNSで扇動している」などと、支持率低迷の責任を外的要因に押しつけているが、国民がSNSで発信している不満の本質は、もっとシンプルで率直なものである。

1、バラマキをやめて増税するな。

2、現金給付よりも減税を行え。

3、日本を取り戻せ。 

 こうした明快な要求に耳を傾けず、自民党はなおも現状維持に固執している。

自民党は証拠も示さずに「外国勢力ガー」

 補助金のばらまきと増税をエンドレスに繰り返すというビジネスモデルを手放すのが、それほど怖いのだろうか。

 減税か増税かは、たかが税制の問題にすぎない。納税額が増えれば増税、減れば減税。それだけの話である。冷静に減税を進め、バラマキと無駄な支出を削れば、経済合理性にも国民感情にも適うはずだ。それができない理由は何か。

「地方創生?」→実効性のない事業は撤回すべきだ。

「異次元の少子化対策?」→成果が出ないのであればやめるべきだ。

「現金給付?」→「減税」のほうが経済的な波及効果が高いのでは?

 こうした国民の素朴な願いに対し、自民党は証拠も示さずに「外国勢力ガー」と騒ぎ立てるのみである。

 SNSが未発達だった時代の選挙では、「敵を作らず好印象を与える」ことが勝利の条件だった。しかし、今や「推し」が主役となる時代に突入しており、強烈な支持者を持つ候補が勢いを生む。たとえ劣勢でも、熱狂的な支持層がいれば巻き返しは可能だ。

答弁能力が向上したネオ進次郎

 選挙戦における情報戦略も変化した。YouTubeやX(旧Twitter)、ニコニコ動画といったSNSは、主流メディアを介さずに有権者にリーチできる手段となっている。選挙に勝ちたいのなら、SNSに「自分の考えを押しつける」のではなく、「SNS上の声に耳を傾ける」べきなのだ。

 昨年の総裁選では決選投票に進めず、事実上の大敗を喫した小泉進次郎氏だが、近年は答弁能力が向上したと永田町で評価されている。とはいえ、彼に熱狂的な支持者がいるとは言いがたい。農業改革に取り組む姿勢は見せているが、実態としては流通改革、参入規制緩和、自由貿易促進といった核心部分がほとんど前進していない。たとえば、ホタテ貝業やいちご農家は海外輸出で成功している一方、日本の高品質なコメは、自民党と政府の規制によって未だに輸出が進まない。政府の備蓄米放出に関しては「評価する」との回答が多かった層が小泉氏を支持しており、これが支持率を下支えしていると見られるが、その実績は農業改革の本質からはかけ離れている。さらに、環境税の推進やレジ袋の有料化といった過去の政策は、SNS世論の中では逆風材料となっている。小泉氏のメディア露出の多さがかえって仇となる可能性もある。

2人の政治的センスが試されるのはココだ

 一方、高市氏もSNS上ではやや有利に見えるものの、決して評判が良いわけではない。消費税引き上げを容認した過去の発言、また保守を名乗りながら参政党や日本保守党に象徴的役割を奪われている現状が、それを裏付ける。今後、高市氏が打ち出すべきは、「予算に上限を設け、増税を否定し、ばらまきをやめる」という明確な立場表明である。同時に、「愛国」をどのように表現するかも、彼女と小泉氏の政治的センスが試される部分だ。単に靖国神社に参拝すればいいという時代ではない。

 前回の総裁選において、「増税しない」と明言した茂木敏充氏の政策姿勢は注目に値する。茂木氏の強みは、経済学の教科書に縛られず、現実の社会とデータに基づいて政策を構築している点にある。

 YouTubeでの政策解説にも誠実さがにじみ出ており、高市氏や小泉氏とは異なり、経済政策への向き合い方に一貫性がある。

古いケインズ主義を引きずる高市氏

 小泉氏と高市氏による一騎打ちの様相が強まっているが、茂木氏のような地に足の着いた政策論者の存在は、今後の政局において無視できない。実証データを確認していくと、企業活動を促進する制度改革や減税などのサプライサイド政策を導入した国は、従来型のケインズ政策を採る国よりも、明確に高い経済成長を実現している。減税や公共支出の効率化は、投資の増加と生産性向上に直結する。自由貿易と制度改革の組み合わせによって、成長が加速した事例も多い。一方で、高税率や閉鎖的な政策を採用し続けた国は、競争力の低下と投資減退という負のスパイラルに陥っている。

 この構図を踏まえると、「積極財政」を掲げつつ古いケインズ主義を引きずる高市氏には、政策再考が求められる。自身の周りの経済学者やブレーンに対して、「その理論が現実に成果を上げた事例はあるのか」と一度聞いてみてはどうだろうか。

「増税しない」と言うだけでなく、どのような減税策を講じ、投資と生産性向上にどうつなげていくかを具体的に示すこと。ばらまきの廃止や制度改革の必要性、補完政策の設計まで言及すれば、説得力が高まる。

 現在、自民党支持層からの評価が芳しくない高市氏だが、感情論ではなく実証データに基づく現実的な経済政策を提示できれば、基盤を固めるだけでなく、他党支持層の取り込みにもつながるだろう。

SNSではニセ保守、増税派との声も

 SNS上で最も「愛国」の気配を漂わせているのは、安倍元首相と深い交流のあった高市氏である。この点だけでも、彼女には他候補にはないアドバンテージがあると言える。

 高市氏に対してはSNSではニセ保守、増税派の声も上がるが、それを打ち消すぐらいの主張を、高市氏はもとより、総裁選の各候補にはしてほしいものである。それが日本を豊かにするのだ。

 今回の自民党総裁選は、単なるリーダー選び以上の意味を持つ。小泉氏や高市氏といった有力候補が、人気や理念だけでなく、日本の財政危機や経済停滞にどう向き合うのか、その実務能力と覚悟が問われる。国民は今、「バラマキやめ、減税しろ」「日本を取り戻せ」というシンプルかつ本質的な要求を突きつけている。増税を避け、歳出改革を断行し、経済成長へと繋がる具体的な政策を示すことができるか。それは、従来の自民党ビジネスモデルを打ち破る痛みを伴う改革であり、それができなければ、自民党は国民から真の信任を得ることはできない。日本を豊かにするためには、各候補者が感情論ではなく、実証データに基づいた現実的な経済政策を提示し、日本の未来を切り拓く覚悟を持つことが不可欠である。

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