小泉進次郎でも高市でもない「一部メディア」大絶賛の首相候補とは!「知中、増税、バラマキ…」国民の怒りは今日も届かない

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 石破茂総理大臣の辞任を受け、自民党内では「ポスト石破」をめぐる総裁選の駆け引きが本格化している。小泉進次郎農相ら知名度の高い候補は出馬表明を急がず政策の練り上げに時間を費やし、失言リスクを避ける思惑があるとされる。一方、茂木敏充前幹事長らは党員投票を意識し、早期に表明して発信を強めている。だが、誰が名乗りを上げるか以上に重要なのは、次期リーダーが「減税」と「歳出削減」という国民の切実な要求に応える意思を示せるかどうかだ。経済誌プレジデントの元編集長で作家の小倉健一氏が、総裁選の先にある経済政策の真価を問う。

目次

表舞台は“進次郎 vs 高市”も…水面下で囁かれる林芳正の名前

「石破政権の終わり」が石破茂首相自らによって高らかに宣言され、自民党総裁選が実施されることになった。メディアは小泉進次郎氏や高市早苗氏の名前を連日報じているが、一部メディア、そして永田町では別の人物の名前が有力候補として囁かれている。国民不在の政局話が続く中で、国民の怒りの声は今日も政治家たちには届かない。

 一部メディアと永田町界隈が絶賛する首相候補者として林芳正氏がいる。フライデーデジタル(7月26日)において、<進次郎氏や高市氏に比べで地味なのは否めないが、“まとまりやすさ”という点で有利に働く可能性がある。/政治評論家の有馬晴海氏は林氏について、/「衆参ともに自公が過半数を割った今、政策ごとに野党と組まないと法案が通らない。そうなると、野党に“協力してもらえる人”と考えると、林さんの名前が浮上してきているということでしょう。派手さはないが堅実ですし、何より政策通。有能なので若い頃から政策の土台作りなど、目立たないところでしっかり仕事をしてきた。温厚な性格で敵は少ないですし、安定感は抜群でしょう」>という記事があった。

 東洋経済オンライン(9月11日)では<岸田政権と石破政権で官房長官を務めてきた林氏は、文部科学相や外相、農水相などを歴任。早い段階から「総理総裁候補」と見なされていた。参院議員として挑戦した2012年の総裁選では最下位に甘んじたが、2024年の総裁選では小泉氏に次いで4位となっている。/世間では「高市 vs. 小泉」で注目を集めている今回の総裁選だが、実は永田町で最も有力視されているのは林氏だ。>という。

メディア絶賛の裏で林芳正の政策は国民感覚とズレまくり

 メディアの評価とは裏腹に、林氏の政策には国民の感覚と大きなズレがある。総裁選、そして官房長官時代のインタビューを読むとそう感じざるを得ない。

 例えば、林氏はガソリン暫定税率について「なくなって構わない税収はない」と述べ、撤廃に慎重な姿勢を見せている。財政の健全化を口実に「財政余力を温存すべき」と主張する。将来のもしもの時のために、今は国民に我慢を強いて税金を確保しておこうという考え方だ。それは正しいのだが、財政を良くする方法が「増税」であって「バラマキ削減」ではない点に大きな問題がある。

 林氏は「再分配されるよりも、自分で稼ぐ、このことに人々は幸せを感じるのではないでしょうか」と発言する。この発言内容ももっともらしく聞こえる。しかし、林氏は「岸田政権において、こども未来戦略加速化プラン、1兆円のプランを作らせていただきました」と新規支出を自身の功績として語る。

頭脳派の評判はどこへ?増税しか語らない首相候補の限界

 こうした支出拡大を肯定する態度は、財政を引き締める考えと矛盾する。言っていることとやっていることがまるで違うわけだ。経済政策の議論には、実際のデータに基づく検証が必要不可欠だ。対策を実行することと、結果を出すことは全く別物である。対策をしても結果が出ない政策は、ただの税金の無駄遣いに過ぎない。

 林氏は歴代政権の無駄遣いを批判することなく、自らも無駄遣いを誇らしげに語る。このことには驚きを禁じ得ない。「頭がいい」「キレ者だ」という評判が本当なら、日本経済を成長させるための歳出削減を断行すべきである。財政について語る際に、歳出削減への言及が全くない。林氏は結局、増税するつもりなのだろう。

 林氏は自らを「知中派」と称するが、中国の軍事的脅威が増大する中で、対話を過度に重視する姿勢は国民の不安を招く。言葉遊びで本質をごまかしているに過ぎない。「知中」を名乗るなら、中国依存を深める副作用を直視すべきだ。経済安保、技術流出、人権、報復関税、シャープパワーが連動し、交渉材料は一方的に握られる。対話は必要でも、原則・供給網分散・投資規律なしの接近は迎合であり、国益と同盟を削ることになる。

“減税”を語らぬ候補者たち──高市も小泉も国民感覚とズレ

 国民の怒りは林氏個人だけに向けられたものではない。自民党に国民が本当に怒っている理由は、生活を直撃する経済政策の失敗にある。物価は上がり続けるのに、国民の給料は上がらない。自民党は減税をせず、無駄遣いを続けている。業界団体へのバラマキ、経済効果の低い補助金、選挙前にだけ行われる有権者を愚弄するような現金給付。自民党は日本国民を愚かだと思っているに違いない。国民から集めた税金を、経済成長に繋がらないと自民党自身も分かっているバラマキに使う。ふざけるのも大概にすべきだ。国民が求めている経済政策はとても単純だ。「減税」と「無駄遣いをやめる」ことである。減税を拒むためにあらゆる理屈を並べ立てる宮沢洋一氏や森山裕氏の姑息で傲慢な態度に、多くの国民は呆れ返った。自民党は国民の怒りの本質を理解していない。

 総裁選で名前が挙がる他の候補者も、国民が求める経済政策に応えられているとは言えない。高市早苗氏には愛国のイメージがある。高市氏は積極財政を掲げる。デフレを脱却するまでは増税しないと主張する。聞こえは良い。長期政権を担った場合、財政赤字の拡大は避けられないだろう。将来的な増税の可能性を明確にしている。積極財政は無駄な歳出の拡大に繋がるという批判も存在する。「減税」や「無駄遣いをやめる」という観点からは攻撃される余地を残している。

「財務官僚の言いなりになっているのではないか」

 小泉進次郎氏も増税を考えているように見える。環境税やカーボンプライシングの導入に前向きな姿勢を示す。過去には「子ども保険」という構想を打ち出した。「子ども保険」は保険料であって税金ではないと主張した。実質的な国民負担増に繋がる政策として批判を浴びた経緯がある。国民の負担を増やすことしか考えていないように見える。高市氏は将来の増税懸念、小泉氏は明確な増税志向という点で、国民の求める「減税」路線とは相容れない。

 であるならば、高市氏はまず「減税」と「無駄遣いの撲滅」を明確に国民に誓約すべきである。「デフレ脱却後は増税する」という発言は、あまりにも国民の期待や切実な思いを踏みにじるものであり、政策姿勢に対する疑念を強めるだけである。そのような立場を取り続ければ、国民は「この政治家には経済を成長させる気がないのではないか」「財務官僚の言いなりになっているのではないか」と疑わざるを得なくなる。

国民が求めるのは文化論争ではなく、生活を立て直す減税一本だ

 国民が声をそろえて求めているのは明確な減税であり、にもかかわらず口先だけで減税を言及しながら、裏腹に「将来的には増税する」と構えるのでは、結局のところ本音は増税にあるのではないかという疑念を払拭できない。本当に国民の支持を得たいのなら、将来のどの局面においても増税には踏み込まないと断言する勇気を示すべきである。将来不安に揺れる人々に対し、安心を与える唯一の道は、明確な「増税否定」の姿勢である。

 小泉氏についても同じである。彼は「任期中はあらゆる増税をしない」とはっきりと宣言すればよい。それができれば、経済政策における立ち位置が鮮明になり、国民は信頼感を抱くことができる。小泉氏は靖国神社へ参拝したこともあり、さらに福島沖でサーフィンを楽しむ姿も報じられている。こうした行動から見ても、彼に愛国的感情が欠けていると疑うこと自体が不自然である。したがって、愛国心を試されるような問題、例えば選択的夫婦別姓のように国論を二分するテーマは、少数与党の立場で法案成立が極めて難しいことを理由に、当面はすべて棚上げして仕舞えば良い。国民が望んでいるのは文化や価値観の対立をあおることではなく、まずは生活を立て直すための実効性ある経済政策である。だからこそ、指導者は真っ先に経済に集中する姿勢を明示しなければならない。

官僚の言いなり政治では未来はない──自民党は次の選挙で審判を受ける

 結局のところ、高市氏も小泉氏も、現時点では国民が最も切望している経済政策を明確に提示できていない。表面的な言葉や断片的な政策提案ではなく、国民の懐に直結する「減税」と「歳出削減」を軸に据えたビジョンが求められている。自民党が本当に選挙に勝ち続け、長期にわたって政権を維持したいと望むならば、国民が何を一番求めているかを冷静に見極め、その願いを受け止められるリーダーを選出するしかない。

 国民の暮らしを顧みず、官僚の声に従って増税とバラマキを繰り返すような人物では、支持を得ることはできない。メディアが好意的に取り上げている林氏のような、増税志向とバラマキ自慢を隠さない政治家では、国民の怒りを招くだけである。そのような姿勢に未来はなく、結果として自民党自体が国民から見放され、次の選挙で厳しい審判を受けることは避けられないだろう。

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この記事の著者
小倉健一

1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。国会議員秘書を経てプレジデント社へ入社、プレジデント編集部配属。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長就任(2020年1月)。2021年7月に独立。現在に至る。 Twitter :@ogurapunk、CONTACT : https://k-ogura.jp/contact

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