「ガチのオタク」圧倒的オーラ!初入閣・小野田氏は米国生まれで初の国務大臣?…「経済安全保障」の華麗なる破壊で「日本経済復活だ!」

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 注目を集めた高市早苗政権の組閣人事だが、中でも「異例の抜擢」と言われるのが参議院当選2回の小野田紀美経済安全保障担当大臣だ。米国イリノイ州生まれの小野田大臣は、戦後の現行制度上、米国生まれの国務大臣は初めてとみられる。彼女が目指しこの国の経済安全保障とは何なのか。経済誌プレジデントの元編集長で作家の小倉健一氏が解説するーー。

目次

「元本職の方」といわれるガチオタク

 高市早苗内閣が発足し、経済安全保障担当大臣として一人の政治家が官邸の赤絨毯を踏んだ。小野田紀美氏、その人である。参議院当選2回、42歳での初入閣は異例の抜擢と言えるだろう。岡山県選挙区において、巨大な支持母体の支援を受けずに圧勝した姿から「岡山のジャンヌ・ダルク」と称され、その突破力には目を見張るものがある。

 小野田大臣の魅力は、旧来の政治家の枠に収まらない多面性にある。アメリカ人の父と日本人の母の間に生まれ、シカゴで生を受けながら岡山で育った国際的な背景。そして、多くの人々が親近感を覚えるのは、漫画やゲーム、シチュエーションCDの世界に深く通じ、「元本職の方」とまで言われるほどの「オタク」としての一面であろう。自民党の番組で、人気作品『ヘタリア』の関連CDでシナリオまで手掛けていたと明かしたエピソードは、永田町の住人とは思えぬ異色の経歴を物語っている。政治家になる前は、CD・ゲーム制作会社で広報やプロデュースを担当していたという。こうした民間での経験は、机上の空論に陥りがちな政策論議に、現場感覚という貴重なスパイスを加えるかもしれない。

 小野田大臣の政治姿勢は、明快で歯に衣着せぬものだ。特に外国人政策においては、「ルールを守らない方々への厳格な対応」を掲げ、国民が抱く漠然とした不安に寄り添う姿勢を見せる。その言葉は、一部から排外主義的と批判される危険をはらみつつも、多くの国民の心の琴線に触れる力強さを持つ。SNSを駆使し、有権者と直接対話する「オフ会」を開くなど、新しい時代の政治家としてのコミュニケーション能力も高い。その気概と行動力は、停滞する日本の政治に新しい風を吹き込むのではないか。そんな期待を抱かせるに十分な熱量を、小野田紀美という政治家は持っている。保守の理念を掲げ、臆することなく国家の在り方を語る姿に、頼もしさを感じる国民は少なくないはずだ。

小野田大臣が推進しようとしている政策に疑問

 だが、その期待に満ちた船出を祝福する前に、我々は一度立ち止まり、冷静に前途を見つめなければならない。小野田大臣の担当する「経済安全保障」という分野は、見た目の勇壮さとは裏腹に、極めて危険な隘路へと進むことになるからである。彼女の威勢の良さや国民からの人気が、そのまま政策の成功を保証するものではない。むしろ、熱意と理想が空回りした時、その代償は国家全体が支払うことになる。

 小野田大臣が推進しようとしている経済安全保障政策。その中核をなすのは、半導体産業をはじめとする特定の戦略分野に、国が巨額の補助金を投じて国内生産を促すという産業政策である。聞こえは良い。国内に工場ができれば雇用が生まれ、外国に頼らずとも重要な部品が手に入る。一見すると、国民を守るための頼もしい防壁が築かれるように錯覚するだろう。

 しかし、この種の政策が歴史的に見て、壮大な税金の無駄遣いに終わってきたという事実から目を背けるべきではない。政府が特定の産業を「勝者」として選び出し、公的資金を投入する手法は、これまで幾度となく失敗を繰り返してきた。それは遠い昔の話ではない。1980年代から90年代にかけ、日本は官民一体で「日の丸半導体」プロジェクトに巨額の資金を投じた。だが結果はどうであったか。硬直的な国内連合は、水平分業という世界的な市場構造の変化に対応できず、結果として日本の半導体産業は国際競争力を失い、凋落の一途をたどった。

不毛な補助金競争が激化する半導体業界

 この苦い教訓は、政府官僚や政治家には、グローバル市場の複雑なダイナミクスを正確に予測し、適切な投資先を判断する能力などないという、動かしがたい事実を物語っている。市場の自律的な調整機能に委ねる方が、遥かに効率的であることは、経済学が繰り返し示してきた結論である。

 現在、世界中で繰り広げられているのは、まさしくこの失敗の再演である。アメリカのCHIPS法、EUの欧州半導体法、そして中国の国家集積回路産業投資基金。各国が国家の威信をかけて税金を投入し、過剰な生産設備を建設し合う、不毛な補助金競争が激化している。

 特にアメリカにおける状況は示唆に富む。巨額の補助金をちらつかせることで、本来であれば市場原理に基づいて行われるべき企業の投資判断が歪められている。

このチキンレースが行き着く先

 アメリカでは、企業は技術革新よりも、いかに効率よく政府から補助金を引き出すかというロビー活動に奔走し始めている。これは典型的なモラルハザードだ。さらに、補助金が呼び水となって建設需要が急増し、資材価格や人件費が高騰、結果としてインフレを助長するという皮肉な事態も招いている。自由市場の総本山であるアメリカですら、産業政策の副作用に苦しんでいるのだ。ましてや、かつて官主導で手痛い失敗を経験した日本が、同じ轍を踏もうとしていることには、強い危機感を覚えざるを得ない。

 このチキンレースの行き着く先は明らかだ。数年後には世界的な半導体の供給過剰が発生し、市場価格は暴落、投じられた巨額の投資の大部分は回収不能となるだろう。日本がこの無益な競争に積極的に参加することは、限られた貴重な国富をドブに捨てるような行為に他ならない。

 さらに深刻なのは、経済安全保障を名目とした規制強化が、日本経済そのものを窒息させかねないという点だ。特定の国からの輸入を制限し、技術の輸出を管理することは、短期的には安全を高めるように見える。しかし、それは現代のグローバル経済の現実を無視した暴論である。日本の産業、特に世界に冠たる自動車や精密機械、電子部品といった分野は、国境を越えて張り巡らされた、極めて緻密で複雑なサプライチェーンの上にその繁栄を築いている。

日本経済全体のイノベーションの活力は徐々に削がれていく

 一台の自動車には数万点もの部品が使われているが、その中にはコストや技術の面から海外で生産せざるを得ないものが無数に存在する。これらの部品の輸入が安全保障上の理由で突然停止すれば、日本の自動車工場は一斉に生産ラインを止めざるを得なくなる。サプライチェーンの多様化や国内回帰は、言葉で言うほど簡単なことではない。同等の品質、コスト、供給能力を持つ代替の供給元を新たに見つけ出すには、膨大な時間と費用がかかる。その負担は、多くの中小企業にとっては事業の存続そのものを脅かすほどの重圧となるだろう。

 過剰な規制は、企業の自由な経済活動に重い足枷をはめる。新しい技術を開発するための国際共同研究は停滞し、海外からの直接投資は手続きの煩雑さを嫌って日本を敬遠するようになる。結果として、日本経済全体のイノベーションの活力は徐々に削がれていく。 

対中国戦略、勇ましいだけでいいのか

 そして、最大の論点である対中国戦略の現実を見なければならない。中国が地政学的な脅威であることは論を俟たない。その覇権主義的な動きに対して、我が国が毅然とした態度で臨むべきなのは当然のことだ。しかし、その対抗策は、勇ましい掛け声だけでなく、現実的な効果と副作用を冷徹に計算したものでなければならない。

 小野田紀美大臣の持つ熱意や国民への発信力は、政治家としての貴重な資産である。そのエネルギーが、時代遅れのバラマキ政策や、国益を損なう過剰規制に向かわないことを切に願う。威勢の良い言葉で国民を鼓舞するだけでなく、国際社会における日本の立ち位置を冷静に分析し、最も現実的で効果的な国益の守り方を模索してほしい。それは、補助金で守られた温室のような産業構造を作ることではない。日本企業の活力を呼び覚まし、基礎体力を高めることこそが、最強の経済安全保障となる。熱意という名のエンジンが、日本という船を座礁させてしまう前に、政策の根本的な見直しが求められている。

 高市早苗政権で初入閣した小野田紀美経済安全保障担当大臣は、異色の経歴と突破力で注目される。しかし、彼女が推進する半導体産業への巨額補助金政策は、過去の失敗を繰り返し、不毛な国際競争や経済の窒息を招く危険性がある。熱意だけでなく、現実的な国益の守り方を見直す必要がある。

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