第十八話「偉大な父親」連載小説「奪われるースパイ天国・日本の敗戦ー」
スパイ防止法がないこの“天国”・日本で、知らない間に国が「奪われる」──。
表向きの歴史やニュースの裏側に潜む、冷酷な国際諜報戦と、個人の運命が国家間の巨大な陰謀に巻き込まれていく壮大な安全保障サスペンス小説、ここに爆誕。
舞台は、女性初の内閣総理大臣・高地きみえが熱狂的な支持を背景に「強い日本」を目指す日本。彼女は長年の懸案である日本人拉致被害者の奪還を決意し、極秘裏に北朝鮮の金正恩総書記との会談に臨む。しかし、その外交交渉の裏側では、すでに北朝鮮の体制に「影」が差し込み、巨大な隣国・中国の思惑が絡み合っていた。
第十八話「偉大な父親」
30分だったか、1時間だったか正確にはわからない。今泉謙太郎は、李麗穎と再会を果たした大邸宅のリビングでただ静かに「その時」を待った。向かい側のソファに座る麗穎も、隣の俊逸が気になるのか一言も喋らない。「久しぶりに会えたというのに一体なんなんだ。てか、この状況って何?」。謙太郎は苛立ちを隠さなかった。
「みんな、お迎えしろ!」
俊逸が勢い良くイスから立つと、突然大きな声をあげた。部下とみられる男たちはもちろん、麗穎もどこか緊張した表情で直立不動になる。しばらくすると、リビングに入る扉が重い空気と共に開いた。
「お父様! おかえりなさい!」
麗穎が駆け足で迎えた威厳のある男性は、父親のようだった。端正な顔立ちに鋭い眼光を持つ彼の周りには、オーラのようなものが漂っている。「こちらが・・・」。麗穎が小さな声で呟いた瞬間、男性が眉を上げた。
「君が今泉謙太郎君か」
低く落ち着いた声で話しかける男性は自らを「李天佑(リー・ティエンヨウ)」と名乗った。その右手には杖が握られている。謙太郎は戸惑いながら立ち上がった。「はい。麗穎さんとお付き合いさせていただいておりました」。必死に言葉を選んでいると、天佑はふっと息を吐いた。
「まずは座りなさい。俊逸、茶を」
俊逸が即座に従う。天佑はゆっくりと謙太郎の正面に腰掛けた。そして杖を脇に立てかけ、改めて謙太郎を観察するように見つめた。
「君は麗穎のことをどう思っている?」