絶望の円安136円…国民軽視「鬼の日銀」が絶対に利上げしない3つのワケ
景気後退時は永田町で異変が起きる……!
景気後退時に政変が起きるというのは、永田町で警戒される逸話の1つだ。2008年秋のリーマン・ショック後に民主党は政権交代を果たし、歴史的な円高水準を記録した後の2012年末には自民党の安倍晋三首相が政権を奪還。景気回復を誘引した「アベノミクス」は岸田文雄政権でも継承される政策だ。ただ、目下の政治情勢に異変は見られない。その代わりに沸き上がるのは「物価の番人」交代論だ。6月22日には1ドル=136円70銭台まで円安・ドル高が進み、1998年以来24年ぶりの円安水準を迎えた。市場には動揺も広がるが、日銀が動く気配は見えない。物価高が家計を圧迫する中、なぜ黒田東彦総裁は不動の「ポーカーフェイス」を見せ続けるのか。その背景を探ると、「3つのワケ」が浮かび上がる。
景気は良くなるのか、それとも悪くなるのか―。公益社団法人「日本経済研究センター」が6月22日に公表した4月の景気後退確率は10.9%で、3月の12.5%から低下した。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う国の「蔓延防止等重点措置」が3月に解除され、社会経済活動との両立に向けた制約が減ったことは明るい材料だ。同7日に内閣府が発表した4月の景気動向指数(CI、2015年=100)の速報値は、中国のロックダウン(都市封鎖)の余波から足元の「一致指数」が96.8と振るわなかったものの、2~3カ月後の景気を示す「先行指数」は102.9と2カ月連続の上昇を見せた。ただ、市場には急激な円安進行への警戒感が広がる。
「もう完全に終わりました。退場します」「含み損がハンパない」。2022年は年始の外為市場が115円付近とドル高スタートを迎え、その後は3月まで同じ水準で推移してきた。しかし、4月のIMF(国際通貨基金)による世界経済見通し改訂で日本の景気回復力は弱いとみられ、日米の金融政策は違いを露呈。円安スピードは加速し、この3カ月間で約20円も進行した。
黒田氏は「円安はプラス」の立場の日銀総裁
円安は、輸出企業の利益を押し上げるプラス面がある一方で、輸入価格の上昇が企業や家庭の負担を重くするマイナス面もある。だが、世界銀行が「最大の商品市場ショック」を引き起こすと警告したウクライナ情勢に加えて、電気・ガスや食料品など幅広い分野の値上げが国民に襲いかかる。その中で6月6日の講演で飛び出した黒田総裁の「日本の家計が値上げを受け入れている」発言には批判が殺到し、国民に寄り添っていないとして「退場」を求める声も相次ぐ。
では、なぜ黒田総裁は動かないのか。浮かび上がるのは「3つのワケ」だ。1つ目は、黒田総裁が金融引き締めに転換すれば、それは自己否定につながるという点である。2013年3月に中央銀行トップに就いた黒田氏は「2年で物価上昇率2%実現」を目標に掲げ、「黒田バズーカ」と呼ばれる大規模な金融緩和政策を採用してきた。景気浮揚を促す金融緩和は金利を引き下げ、円安・株高を誘引する経済政策であり、黒田氏は「円安はプラス」との立場にある日銀総裁なのである。
今年3月の金融政策決定会合後の記者会見でも「円安が全体として経済・物価をともに押し上げ、我が国経済にプラスに作用しているという基本的な構図は変わりない」と説明し、円安を容認する考えを重ねている。逆に金融引き締めに転換すれば、企業収益の悪化と家計の負担を増やすというわけだ。
「こんな国に誰がしたのか」
6月17日の記者会見では「最近の急速な円安の進行は、先行きの不確実性を高め、企業による事業計画の策定を困難にするなど経済にマイナスである」といった修正も見せてはいる。ただ、FRB(米連邦準備制度理事会)など主要な中央銀行がインフレ抑制のため金融引き締め政策を採る中、円安を誘引してきた日銀総裁が円安によって困るとなれば、訳がわからなくなる。9年かけても物価上昇目標は実現できておらず、さらに自らの金融政策を否定するような晩節にはできないのである。
2つ目の理由は、7月10日の参院選投開票日を控えていることだ。6月10日には日銀、財務省、金融庁の幹部が臨時会合を開き、「急速な円安が見られ、憂慮している」などと初めて文書で声明を発表した。しかし、円安・物価高が参院選の争点となる中で大胆な打ち出しはできない。金利が大きく変動することがあれば、住宅ローンを抱える人などの政権批判を招きかねないからだ。米国の消費者物価上昇率は足元では8%台、エネルギーを除いても6%台となるなどインフレの高進が際立っている。日本のインフレ率(4月)は前年比プラス2.1%であるのに対し、ユーロ圏(5月)でもプラス8.1%だ。
ただでさえ、「家計が値上げを受け入れている」発言で政権サイドから大目玉を食らったばかりである。野党は「岸田インフレ」と争点化し、「世界中どの国も物価を下げようと努力しているが、日本だけ金融緩和を続けている。金利差が広がれば金利が高いところにお金が流れるのは当たり前だ。こんな国に誰がしたのか」(立憲民主党の野田佳彦元首相)と批判を強める。参院選期間中に国民が悲鳴をあげるような状況をつくることはできず、黒田総裁は6月21日に岸田首相と会談したものの、「急速な円安は不確実性をもたらすので好ましくない」と確認しただけに終わった。
「次期日銀総裁」候補が黒田総裁へ牽制球
そして、最後の理由は「アベノミクスの生みの親」への配慮である。