竹中平蔵「円安はあと1年続く」…これから日本人はじわじわ苦しめられる
知らず知らずのうちに進む円安で、地獄が始まる
急速に円安が進んでいます。ドル円相場は5月9日に131.35円まで上昇し、2002年以来の高値を更新しました。この数字に驚いた方も多かったと思いますが、円安の影響は出始めており、4月の企業物価指数は113.5と過去最高となり、前年同月に比べて10.0%上昇しました。ロシアへの禁輸措置に伴う木材や石油価格の上昇なども重なり「木材・木製品」「石油・石炭製品」「鉄鋼」「電力・都市ガス・水道」の上昇が顕著にみられました。
とくに「電力・都市ガス・水道」といった光熱費の上昇は国民の家計に打撃を与えることになります。実は一般家庭の電気料金はもうすでに、顕著に上がっているのはご存じでしょうか。
電気料金の中には、「燃料費調整額」が含まれています。燃料費調整額は燃料の価格変動を電力量料金に反映させるためのもので、発電に必要なLNG(液化天然ガス)や原油などの価格が上がれば、電気料金が上がる仕組みです。
電気料金、実は上がっている
東京電力(関東エリア)の2021年6月の燃料費調整単価がマイナス3.29円/kWhだったのに対し、2022年6月は2.97円/kWhまで上がりました。仮に4人家族の世帯が毎月400kWh使用しているとすると、2021年6月のマイナス1316円だった燃料費調整額が2022年6月では1188円になります。つまり2504円の値上げです。
それでも物の値段が上がっていることを日常生活の中ではそこまで実感していないかもしれません。それは2年前に菅義偉政権が携帯料金を大幅に引き下げたためです。携帯料金は家計の中にしめるウエイトが高いので、物価水準全体が1.5%下がりました。そこからまた少しずつ物価水準は上がってきており、この度のインフレで元の水準くらいまでに戻ってきました。
ただ、原油高騰から日本の電気代は今後もっと上がっていくと考えておいた方がいいです。また、小麦の値段はウクライナ戦争を挟んで1.6倍になってきており、食料品の値段も上がっていきます。これからじわじわと物価の上昇を、日々の生活の中で実感していくことになるはずです。
岸田政権「新しい資本主義」の残念な実情
ではこの円安はいつまで続くのでしょうか。
私は少なくともあと1年は円安が続くだろうとみています。その理由は単純に、日本は何もできない、そして何もしないからです。
たしかに日銀はこれまで目標としてきた消費者物価指数の2%上昇を4月に達成しました。しかし日銀が円安対策として金融緩和をやめたり、利上げに踏み切ったりするためには、景気の過熱や給与の上昇など、原材料以外の物価が上がっている必要があります。現状、エネルギーと食料を除いた「コアコア(物価)指数」の上昇率は2022年2月〜3月では0.2%とほとんど横ばいです。まだ非常に頑固なデフレの後始末はまだ終わっていないのです。この状態で引き締めをすれば景気が腰折れする恐れがあります。
また日本は現在9か月連続の貿易赤字です。赤字の要因は海外に頼るエネルギーなどの輸入額が円安によって前年から急激に増加したからとされていますが、日本の基幹産業である製造業はむしろ円安によって恩恵を受けます。自動車産業が、飛躍すれば貿易赤字は改善傾向にむかいます。
一方政府としては、何かアクションを起こすことは当分ないという見方が強いです。
岸田政権の支持率が高い理由
岸田文雄内閣は支持率が高いのと同時に、不支持率は23%ととても低く推移しています。その理由としては国を二分する、議論を巻き起こすような政策を岸田内閣は打ち出していないからです。私の知り合いの”口の悪い”ジャーナリストは現状の岸田総理を「無策無敵」などと言っておりました。
岸田政権としてはまずは政権を安定させることを第一に考えているとみられ、まずは7月の参院選挙を今の高支持率のまま突入し、大勝することを狙っています。なので、今このタイミングで、あえて敵をつくるような、世間に波風を立てる政策を打ち出すとは思えません。
各社の世論調査通り岸田自民党が選挙で勝った後についても、岸田総理がすぐに何か円安対策をとるとは思えません。岸田総理からはこれまで、日本経済の長期的なビジョンや、首相として実現したい政策などの目標すらもほとんど発表してきませんでした。そうした背景から少なくとも1年は円安が続くことになるだろうと考えます。
日本のビッグマックはめちゃくちゃ安い
話は少しそれますが、そもそも円レートというのは「どのくらいが理想」なのでしょうか。結論からいうとどんな経済理論を使ってもいくらが適正なのかはわかりません。ただわかりやすい例として購買力購平価を用いる考え方があります。アメリカと日本で同じものを買ったとして、価格を比べて1ドル=〇円と調べる方法です。