「二俣川?あぁ免許センターの…遠いよね」東横線延伸に「変な電車と直通するな」と怒る南北線民…低年収パラサイトシングルの苦悩 TOKYO探訪

神奈川県民が人生で必ず1度は訪れる二俣川。不良からエリートまで一堂に会する巨大免許センターの雰囲気は、さながら中学の同窓会だ。しかし不思議と、あの勾配がやたらときつい免許センターまでの坂道以外、二俣川の記憶はない。そんな土地に最近、タワマンができたそうだ。連載タマワン文学「TOKYO探訪」第13話では ”免許の駅” 二俣川に住む人たちを窓際三等兵先生が描きます――。
ヨコハマって言っていいのか分からないヨコハマ
「帰りに牛乳と木綿豆腐買ってきてくれない?」。電車を待つ間、スマホ画面に浮かぶLINEの通知をチラリと見て、そのまま鞄にしまう。相鉄線が東急線と直通運転をはじめて帰宅時間が早くなり、母に買い物を頼まれることが増えた。もうすぐ30歳。いつになったら私は、実家の呪縛から逃れられるのだろうか。
「え、橘さんって実家横浜なんですか? お洒落で羨(うらや)ましい〜」。配属されたばかりの新入社員の目が輝く。ランチのサラダを口に運びながら「横浜って言っても山の方だけどね」と曖昧に返す。地方出身の彼女に言っても分からないだろう。横浜市旭区二俣川。コスモクロックも中華街もない街に、私は住んでいる。
高層ビルが立ち並ぶ中、潮風がそよぎ、きらびやかな夜景が道行くカップルたちを祝福する――。我々相鉄線ユーザーは長年、こうした横浜のイメージに翻弄され続けてきた。ジョナサン、ドンキ、住宅展示場。メディアが報じる「ヨコハマ」に、私たちが住む厚木街道ロードサイドの風景は映らない。