仮想通貨ネムとは?コンセプトから構造、開発状況まで解説 みんかぶ編集室 2023.07.19 暗号資産(仮想通貨)初心者コラム ネムは、仮想通貨単位としてXEM(ゼム)を採用するブロックチェーンプロジェクトです。2015年3月31日に公開されました。 仮想通貨のプラットフォームを目指しており、ビットコインやイーサリアムと同じブロックチェーン技術を使いながら、それらの欠点を補う柔軟性を持っています。 なお、コインチェックにある動画では、分かりやすくサクッと知ることができます。 出典: 仮想通貨ネム(NEM/XEM)とは?特徴を初心者にもわかりやすく解説 基本情報 時価総額 約450億円 発行上限 89億9999万9999XEM 承認方式 Proof of Importance 発行時期 2015年03月31日 中央機関 なし 提唱者 オフィシャルサイトURL https://nem.io/ ホワイトペーパーURL https://nem.io/wp-content/themes/nem/files/NEM_techRef.pdf 公式Twitter URL https://twitter.com/NEMofficial ※時価総額は2023年3月29日時点 目次ネムのコンセプトネムの成り立ち仮想通貨市場の位置づけネムの独自性他の仮想通貨に対する優位性仮想通貨ネムの発行の仕方取引承認方法ハーベスティング独自仮想通貨の作成・発行が可能ネムの開発状況カタパルト(Catapult)とは?ビットコインとの違いイーサリアムとの違いまとめ.ネムは仮想通貨のプラットフォームを目指す ネムのコンセプト ネムとは、New Economy Movement(新しい経済活動)を意味するプロジェクトで、この頭文字をとった名称です。通貨はXEM(ゼム)ですが、慣例的にネムと呼ばれています。 ネムプロジェクトは、機会の公平性や富の分散化、自由な取引の確保などを実現する目的で、スタートしました。ビットコインと同じブロックチェーン技術が使われているのは、特定の人が管理せず、自由に取引できる通貨を目指すのに便利だったためです。 ネムの成り立ち ネムがリリースされてから2年後の2017年に、NEM.io財団が設立されました。NEM.io財団は、仮想通貨ネムの発展と利用の促進を目的に運営されている組織です。本拠地はシンガポールにあり、日本にも2018年に一般社団法人NEM JAPANという支部が設立されました。ネムは、コミュニティー活動が活発な通貨の一つとしても知られています。そして、ネムのロゴはパブリックドメインです。そのため、ユーザーは自由にロゴを改変したり、キャラクターを作ったりしてオリジナルグッズを開発、販売できます。 ネム自体だけでなく、その周辺においても経済活動を活性化できるように配慮されているのです。 仮想通貨市場の位置づけ 投資対象としてのネムはどうでしょうか。 2019年9月26日時点において、ネムの価格は約4.6円、時価総額は440億円となっており、仮想通貨の時価総額ランキングは25位となっています。 史上最高値は2018年1月4日に付けた245円ですが、史上最安値はZaifで確認できる限りでは2016年10月10日の0.36円です。 ネムは2018年高値のあとは10円を割り込む水準まで暴落。2021年3月に70円台まで上昇しますが、その後は再び下落し、2022年5月以降は10円を下回って推移しています。 ◇ネム(XEM)月足チャート 2018年の高値は、2016年の安値からは3年程度で約680倍。その後に5円を割り込む水準まで暴落していますが、その安値から2021年につけた高値まではやはり200倍以上あります。以降に詳細を記しますが、ネムの開発と実用化が進み金融システムの一角を占めるようになれば、再び時価総額が大きく膨らむ可能性もあるでしょう。 ネムの独自性 ここからは、ネムの仕組みや他の仮想通貨と違うユニークな点を解説していきます。 ネムは、独自のブロックチェーンを開発しており、ビットコインやイーサリアムなどと異なる仕組みによって、分散型システムの発展を目指しています。 また、そのコンセプトから、ネムブロックチェーンは柔軟にプライベートチェーンを足していける仕組みも持っており、将来の発展性も期待されています。 このような特徴を持つネムの、ユニークな機能を紹介していきます。 他の仮想通貨に対する優位性 ネムは、そのコンセプトに加え、代表的な仮想通貨であるビットコインやイーサリアムの欠点を改善する形でも設計されています。 その代表的な特徴を紹介します。 a.低コスト ネムをはじめとする仮想通貨はデータの生成だけで成り立つシステムです。これは既存の紙幣や硬貨に対して、コストの優位性を持ちます。 ネムはこれに加え、POIという取引承認の仕組みを開発し、通貨の運用コストも大幅に減らしています。 b.セキュリティーが高い ネムは独自の設計により、ネムのブロックチェーンに接続しているコンピューターの動作を監視しています。特定のシステムに依存するイーサリアムや、誰でも接続できる仕組みを導入しているビットコインより、セキュリティー面で優位性があります。 c.送金の承認が早い お金をデータとして送っても、それがブロックチェーンシステム上で承認されるには時間がかかります。ビットコインでは1秒で7件程度承認されますが、ネムは70件です。さらに、のちに紹介するカタパルトと呼ばれるバージョンアップが実現すると、秒間4000件程度まで増加します。 d.送金自体に署名を付けられる 多くの方がクレジットカード決済で、サインをしたことがあると思います。ビットコインなどの決済機能のある仮想通貨ではユーザーの署名がないので、ウォレットと個人をシステム外で結び付ける必要があります。 その点、ネムは送金データに署名を付けられるので、ネムのブロックチェーン上で電子決済の証明までできるようになっています。 以上、ネムの4つの特徴を紹介しました。ネムは富や機会の公平性を実現することに加え、既存の銀行システムに組み込みやすい工夫もされていることが、大きな特徴といえるでしょう。 仮想通貨ネムの発行の仕方 ネムの通貨単位であるXEMは、リリース時に発行量が決まっており、リリース時点ですべて発行済みです。その総発行量は8,999,999,999XEMで、これ以上増加はしません。 ネムのこの仕組みはプレマインと呼ばれており、ビットコインなどのほかの仮想通貨とは異なります。ビットコインは、マイニングと呼ばれる仕組みで発行量が増えていきます。ネムは、ブロックチェーンこそビットコインの仕組みを踏襲していますが、通貨発行の仕組みを含め様々な点で改良がなされています。 取引承認方法 ネムは通貨としての取引承認の仕組みにPOI(Proof of Importance)を採用しています。決済の承認について気にすることはあまりないと思いますが、私たちが普段使っているお金(日本銀行券)は銀行が決済の印鑑を押すことで、お金の所有者の変更が承認されています。 ネムに限らず仮想通貨も、決済の承認を行う仕組みが必要です。特にネムやビットコインなどの銀行システムを持たない通貨は、信頼できる残高の移動を証明する方法が、通貨としての信用を決定づける要因となります。 ネムの決済承認方法であるPOIは、保有量と取引量から算出されたノードの重要度に応じて取引の承認権が与えられるようになっています。ノードとは、銀行口座と考えておいてください。 まず、取引の承認権を得るには自分のノードに1万XEM以上を保有することが必要となります。これが、ネムの決裁権を得る条件と考えてください。 次に、この決裁権の重要度を上げるために、以下の条件が評価されます。 1,000XEM以上の送金をする取引がある事 30日以内に取引を行っていること ハーベストに参加する条件を持つほかのユーザーから、XEMを受け取っていること 権限を与えられたXEMの合計保有量 一時的に重要度が高くなっているXEMの総合保有量 この5つの条件を満たすとノードの重要度を高めることができます。 ネムのコンセプトにより、大量保有者が流動性を高めることで重要度が増すという仕組みがあります。この仕組みに関連してハーベスティングがありますが、重要なキーワードですので次の項目で詳細を紹介します。 ハーベスティング ネムの取引承認の記録を残す機能をハーベスティングと呼びます。これは、ビットコインでマイニングと呼ばれる承認を行う計算行為に該当します。 ハーベスティングは、取引を承認しブロックチェーンに記録することで、ネムのシステムから手数料報酬をもらえる仕組みです。ハーベスティングができるようになるには、システムに選ばれる必要があります。 その条件は、ネムコミュニティーへの貢献度の高さであり、「取引承認方法」で紹介した5つの条件を満たす必要があります。 独自仮想通貨の作成・発行が可能 ネムは、決済システムのプラットフォームを目指しています。そのため、ネムブロックチェーンにサイドチェーンを加えることで様々な開発が行えるような仕組みを持っています。 その代表例が、ネムブロックチェーンを使った独自仮想通貨の作成・発行です。これは、ネームスペース(namespace)とモザイク(mosaic)という有料サービスを利用することで、オリジナルの仮想通貨を簡単に作れる機能です。ネムの仮想通貨XEMもこのサービスで作られています。 近年増えている電子マネーやクーポンを、ネムブロックチェーン上に簡単に作れると考えればわかりやすいでしょう。 ネムの開発状況 ネムは、仮想通貨のプラットフォームを目指し開発が進んでいます。その第1弾であるmijinは2015年9月に発表され、実証から実用の段階に来ています。ここでは最新の開発プロジェクトであるカタパルトについて紹介します。 カタパルト(Catapult)とは? カタパルトは、2015年3月にローンチしたNEMブロックチェーンの拡張技術です。NEMブロックチェーンの拡張は、第1弾としてmijinが行われ、カタパルトは第2弾となります。 開発は日本の仮想通貨取引所であるZaifを運営していたテックビューロ社が行っており、国内唯一のプライベートブロックチェーンです。 カタパルトの特徴は、金融機関のサポートに特化したプライベートブロックチェーンです。 カタパルトで導入される機能について、特徴的なものを以下にまとめました。 ・処理速度の向上 ネムは1秒間に70件程度の取引を承認できますが、カタパルトでは4000件まで増やすことができます。 ・マルチレベル・マルチシグネチャ まずマルチシグネチャですが、送金を承認するために複数人の署名が必要な機能のことです。勝手にお金を動かされることを防ぐ効果を発揮します。新機能は、これをマルチレベルで行い、会社の稟議書の承認を上司にもらう流れを、ブロックチェーン上で管理するイメージになります。マルチレベルの階層が増えれば、信頼性も増します。 ・アグリゲート・トランザクション 複数の取引を1つにまとめて処理する機能です。例えば、ショップで買い物をしてポイントをもらう場合、取引がひとつずつ処理されていると、代金を支払ってもポイントがもらえないなどの問題が起こる可能性があります。アグリゲート・トランザクションは代金支払いとポイント配布がワンセットで処理されるので、このような問題が起こらなくなります。 ほかにも多くの機能が追加されますが、個別で説明するよりビットコインやイーサリアムとの比較で開設する方がわかりやすいと思いますので、以下の項目で紹介します。 ビットコインとの違い ビットコインは、分散ブロックチェーンでトランザクション処理ができるという実証実験でした。ネムのカタパルトもトランザクションのハッシュ化と保持をブロックチェーン上で行う点で、ビットコインと同じと言えます。一方、ネムとビットコインの違いはデータブロック生成の権利決定法にあり、以下のようなことが上げられます。 ビットコインよりスケーラビリティが高い。(処理できる量が多い) ネムには今の銀行システムと同じ口座残高の概念がある。ビットコインは、UXTOという送金のトランザクションのみが記録される。 複数台帳を管理する機能を持つため、現在の銀行システムとの相性が良い。 ブロックチェーン上にトランザクションの署名ができる。 POIはノードの評判を管理する機能がある。 POIはビットコインのPOWのように、計算資源とエネルギー資源を消費しない ネムは、ビットコインのブロックチェーンを金融システムに適合したかたちで開発されています。カタパルトは、銀行システムの運用面でさらに優れた機能を追加していく開発なのです。 イーサリアムとの違い イーサリアムは、スマートコントラクトにより、様々な契約をブロックチェーン上で締結できる仕組みです。しかし、複雑になればなるほどバグのリスクが高まるため、金融機関の信頼性とは相容れない部分があります。そのうえ、既存の金融機関は中央集権システム上のスマートコントラクトでの実績があり、修正・停止・再稼働などの柔軟性も持ち合わせています。 イーサリアムの主な問題点は、硬直的なシステムと動作の起点にサードパーティーの信頼性が必要になることです。 イーサリアムの問題点と、それに対するネムの特徴をまとめると以下のようになります。 イーサリアムは仮想マシンの使用を前提とし、ステートの変更を行う入力はオラクルに依存する。 コードの変更・取り消しができず、条件分岐にバグが見つかった場合、チェーンを分岐させるなどの対応が必要になる。(イーサリアムクラシックのハードフォーク) イーサリアムは、サードパーティーからの入力がないと動かない。このため、サードパーティーの信頼に依存している。これはトラストレスなコントラクトプラットフォームという目標と矛盾する。 以上のような問題点に対し、ネムはチェーンの設計段階から解決策を盛り込みました。 基本設計では、ブロックチェーンにスマートコントラクトを入れずに、複数台帳の管理に注力しました。システムの柔軟性は、このチェーンに機能を追加して、金融業だけでなく他業種のアプリケーションにも対応できるようにしています。 この開発性の高さの中に、簡易スマートコントラクト機能を盛り込み、マルチシグやスマートエスクローなども実現しています。 まとめ.ネムは仮想通貨のプラットフォームを目指す ネムのコンセプトから構造、開発状況まで解説しました。ブロックチェーンを使った台帳管理機能に特化したネムは、今後の開発次第で通貨としても、デジタル資産としても、大きな発展の余地を残しています。 インターネットにより、台帳がデジタル化されるようになって20年以上たちますが、資産をデジタル化する信頼性を保証できる技術として、今後も注目される仮想通貨といえるでしょう。