文芸評論家・三宅香帆、売れる文章「ヒットの条件」…「ニッチな歴史本」市場を狙い撃ち『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』

発売から1週間でたちまち累計発行部数10万部を突破し、現在では15万部を超えた爆発的大ヒット『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書)が話題だ。同書は、タイトルの問いを読書史と労働史から読み解く異色の新書である。
著者である文芸評論家の三宅香帆氏に、大ヒットの裏側や、ヒット作の条件について聞いたーー。みんかぶプレミアム特集「なぜあなたの文章はつまらないのか」第一回。
目次
発行部数15万部超え!大ヒット新書を企画したきっかけは、著者自身が身をもって感じていた悩み
――『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書)が大ヒットしています。そもそもこの本は、どのような経緯で企画されたのでしょうか。
「読書論」や「速読術」というジャンルの本はすでにたくさんありました。そうした本では、「忙しい中でどのように本を読むか」という観点での読書術が語られていますが、「そもそも、忙しすぎて本が読めないよね」「余裕がないよね」という切り口の本はなかったんです。
私自身も読書が好きで、学生時代はたくさん本を読めていたのに、社会人として働き出してから、今まで読めていたのと同じようには本を読めなくなってしまいました。「あんなに本が大好きだったはずなのに、なんで働き出してからは読めなくなってしまったんだろう」という思いがあったんです。では、「他の人はどうなんだろう」と思って聞いてみると、私の周りにも、本が読めなくなってしまった人が多いことに気づきました。
では、なぜ働いていると本が読めなくなるのか、という問いについて、書いてみてもいいのかな、と思ったのが経緯です。本のタイトルも、私の疑問をそのまま提案して、タイトルにしてもらいました。働いている同世代の人にこの本を読んでもらいたい。そんな気持ちで書きました。