「円が紙切れになる」元モルガン銀行東京支店長が指摘する「日本版トラス・ショック」の日…来るXデー!プロが解説する本当の資産防衛策

2024年は、いよいよ円安進行が本格化した年だったと言えるだろう。6月には1986年12月以来、約38年ぶりに1ドル160円台を突破した。
元モルガン銀行東京支店長の藤巻健史氏は「1ドル160円どころか500円、1兆円になってもおかしくない」という。では、円が紙切れになる前に自分の資産を守るためにはどうすべきなのかーー。みんかぶプレミアム特集「スーパー投資家の教え」第4回。
目次
「日本版トラス・ショック」が起こる可能性が高い
ーーこのままいくと日本市場にはどのような危機が訪れるとお考えですか?
他国が金融緩和を縮小し、財政を引き締める中で、日本だけが資金ばらまきを続けているため、このままでは「日本版トラス・ショック」が起こる可能性が高いと考えています。
2022年9月にイギリスで起きたトラス・ショックでは、大幅な減税やエネルギー補助金のばらまきが原因で、市場が混乱を引き起こしました。現在の日本はそれ以上にGDP成長率が低く、財政赤字も甚大です。さらに、日銀が世界でも類を見ない規模で通貨供給を行っている状況を考えると、同様のショックが日本で発生するのは時間の問題だと言えます。
機関投資家などの専門家たちは、すでに現在の日本の政策に疑問を抱いていますが、一般投資家はまだ事態の深刻さに気付いていません。しかし、いずれ市場が反応を示すのは避けられないでしょう。日銀の債務超過が表面化した際には、一気に信頼を失い、短期間で大きな混乱が生じる可能性があります。
イギリスでトラス・ショックが起きたのに、なぜ日本ではまだ起こっていないのか
ーー日本市場が抱える問題についてお聞かせください。
イギリスでトラス・ショックが起きたのに対し、日本で同様のショックが起きていない理由は、イギリスが資本主義国家として市場に介入しなかったからです。その結果、比較的小規模な混乱で収束しました。一方、日本では日銀が国債市場のモンスターとなり 、また日本最大の株主となって国債、株式市場をコントロールしています。さらには、日銀は円安が進行すると過度に為替介入を行い、市場を操作し続けました。日本は市場経済ではなく、計画経済のような状況になってしまいました。その結果、市場の規律が失われ、大きな歪みが生じています。
本来であれば、早い段階でいくつかの危機を経験し、それを乗り越えるプロセスを経ることで健全性を取り戻せたはずです。しかし、日本は問題を先送りし続けた結果、膿を溜め込みすぎてしまい、今後は爆発的な混乱が起きる可能性が高まっています。
円の価値も大きく下落し、近い将来、通貨としての信頼を失う事態に陥る恐れがあります。
日本は一度、国家的な破綻を経験する
ーーどうすれば日本経済を再生させることができるのでしょうか?
日本が現在の状況を抜け出すためには、政治的な改革と市場の力を活用することが必要です。しかし、その過程では大きな痛みを伴うことが避けられないでしょう。現在の日本は、世界最悪のポピュリズム政治の影響を受け、多額の借金を抱え、財政破綻寸前の状態にあります。
それでも、日本人の勤勉さや高い能力を信じています。一度は大きなショック、国家的な破綻を経験するかもしれませんが、そこから復活する力は十分にあると確信しています。ただし、それは相当な困難を乗り越えた後の話になるでしょう。
日本経済が約40年間も成長しなかったのはなぜか
ーー日本の経済成長が低迷している原因は何でしょうか?
日本が40年間にわたり経済成長率で世界に遅れを取っている原因は、日本が実質的に社会主義国家だからです。優秀な国民を抱えながらも、社会制度やシステムの問題により、資本主義的な自由競争が十分に機能していません。大きな政府が経済をコントロールしようとする体制では、規制が多く、結果の平等を重視する傾向が強くなります。このような状況では競争が阻害され、経済の停滞を招くのは当然です。
資本主義国家では、市場の競争原理が経済を牽引します。例えばアメリカのように、成功した者が大きな報酬を得る仕組みが、個人の挑戦や夢を後押しします。それが社会全体の成長につながります。一方で、政府の役割は民間企業が行き過ぎた際に修正を加えたり、賃上げが可能になる環境を整備したりすることに留めるべきです。
また、日本では過剰な格差是正も問題です。すべてを平等にすればよいというものではなく、過度な格差是正は人々の努力や挑戦する意欲を削ぎ、積極的に働こうとする動機を失わせます。
私の息子がアメリカ留学から帰国した際に、次のようなことを話してくれました。「95%の人間は日本人の方がアメリカ人より優秀だが、残りの5%はアメリカ人の方が圧倒的に優秀だ」と。それはGAFAの幹部たちを見ても明らかなように、移民の天才たちがアメリカを目指して集まるからです。アメリカでは、大成功すれば巨額の報酬を得られるため、優秀な人材が集まります。大谷翔平選手もその一例でしょう。
したがって、格差是正は程よく行う必要があります。社会保障制度の本質は、国民の生命と財産を守るために格差を緩和し、社会の安定を図ることにあります。日本は世界でも格差が少ない国の一つでありながら、さらに格差是正を推し進めてしまえば、経済成長するわけがありません。
日本政府の財政が今後も回復しない理由
ーーもう日本の財政状況が回復する見込みはないのでしょうか?