トランプについて「相性は合うと思う」勘違い石破総理の残念さ…「一体どこの評論家なのか」鬼の関税に何もできない我が国のリーダーに絶望

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 石破茂首相の「朝貢」は、やはり無意味だったのか。米国のドナルド・トランプ大統領は4月2日、全ての国・地域に追加関税を導入し、日本には計24%の相互関税を課すと発表した。貿易赤字解消に本腰を入れ、3日には輸入自動車に25%の追加関税を発動。中国をはじめ各国は報復措置も視野に反発を強め、世界は「貿易戦争」の様相を見せる。経済アナリストの佐藤健太氏は「もはや『対等な日米関係』は過去の話。“土下座外交”を見せながら成果を出せなかった石破首相の責任は極めて重い」と指弾する。

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石破首相のコメント…一体どこの評論家なのだろうか

 まさに予想通りの結果と言えるだろう。トランプ大統領は全ての国・地域に一律10%の関税を課した上で、関税障壁がある国などには上乗せすると表明した。日本からの輸入品には24%の相互関税を導入すると説明し、石破政権はドタバタと焦りを隠せない。首相は自民党の小野寺五典政調会長らに対応策を早急にまとめるよう指示。党は総合戦略本部で産業界への影響などを最小限に抑えるための方策に動き出す。

 だが、25%の自動車関税発動はわが国の自動車産業を直撃し、さらに相互関税の導入は輸出を鈍らせる。にもかかわらず、石破政権の動きはあまりに鈍い。相互関税の導入発表後、首相は記者団に「極めて残念で、不本意だ。WTO協定や日米貿易協定との整合性について深刻な懸念を有している」と説明。「トランプ大統領に直接話しかけていくことが適当であれば、最も適当な時期に働きかけていくことを全く躊躇するものではない」と述べた。誤解を恐れずに言えば、一体どこの評論家によるコメントなのかと疑ってしまう。

 想定されるシナリオとしては、相互関税が課せられれば日本から米国への輸出がまず鈍る。その後、物価上昇に伴い米国内の消費が弱まって経済が下降していけば、輸出にはさらなる逆風となる。もちろん、米国経済が打撃を受ければ世界経済への影響は避けられないだろう。相互関税の導入は、日本を始めとする各国だけではなく、米国にとってもマイナスになるとの見方が大半だ。

 それでもトランプ大統領が「我々は米国を再び豊かに、良い国にする」と相互関税を断行する背景には、自らの支持者や業界に対して「米国第一主義」を誇示し、強い米国を取り戻したいという狙いがあるとみられる。

そもそも、日本政府は最初から想定が甘かった

 もちろん、これはかねてから想定されていたことだ。しかし、石破首相はトランプ氏の本気度を見誤ってきたと言える。その責任は決して軽いものではないだろう。

 そもそも、日本政府は最初から想定が甘かった。林芳正官房長官は記者会見で「わが国から様々なレベルで懸念を説明するとともに、一方的な関税措置をとるべきではない旨を申し入れてきたにもかかわらず、米国政府が今般の相互関税措置を発表したことは極めて遺憾だ」と述べている。外務省や経済産業省をはじめ関係省庁が米高官と折衝を重ね、一定の「想定」はしていたはずだ。ただ、それでも甘すぎたのだ。

 たしかに全ての国・地域に一律10%を課すことを考えれば、日本だけ「除外」適用を求めることは困難であったかもしれない。それでも「対等な日米関係」をうたってきた同盟国が計24%もの相互関税措置に踏み切られたのは「読み」が甘かったということに他ならない。被害者意識を強烈にアピールするトランプ氏の本音を感じ取ることができなかったのだ。

「友好国は貿易面で敵対国より悪い」という論理

 他の国・地域を見ると、中国は34%、インドは26%、韓国は25%、EUは20%などとなっている。だが、英国やシンガポール、ブラジル、豪州、ニュージーランド、トルコ、サウジアラビアなどは基本課税の10%だけが適用される。トランプ氏は「友好国は貿易面で敵対国より悪い」という論理をかざし、日本は10%適用に入れなかっただけなのだ。

 筆者は、かねてから石破外交の危うさを指摘してきた。皆さんは覚えているだろうか。昨年11月、米大統領選で勝利したトランプ氏と石破首相は電話会談をしているが、その時間はわずか「5分間」のみ。その後、首相は対面での“首脳会談”を模索するが、実現したのは2月になってからだった。要するに、最初からトランプ大統領の「眼中」になかったのだろう。

 初対面となった2月7日の首脳会談を終え、石破首相はトランプ大統領と「相性は合う」と誇示した。だが、その2日後にはトランプ氏が米国に輸入される全ての鉄鋼・アルミニウムに25%の関税を課すと表明。日本製鉄による米鉄鋼大手USスチール買収計画も「誰も過半数の株を持つことはできない」と言及した。

石破「トランプ氏との相性は合うと思う」

 米ワシントンで会談に臨んだ石破首相は何度もトランプ大統領を持ち上げる発言を繰り返し、日本からの対米投資額を1兆ドル(約150兆円)に引き上げると説明。対日貿易赤字の解消に強い決意を示すトランプ氏に最大限の配慮を示し、米国からLNG(液化天然ガス)などの輸入を大幅に拡大していく考えを表明した。

 事前に関係省庁の官僚との勉強会を重ね、対トランプ戦略を練ってきたという首相は米大統領選でトランプ氏が狙撃されたことに触れ、「ひるむことなく立ち上がり、拳を天に突き上げた写真は歴史に残る」と褒めたたえ、「日本は米国に対する投資額が世界一」「いすゞが新たに米国において工場をつくる」などと驚くばかりの“ヨイショ”を繰り返した。

 首相は2月9日のNHK番組で「これから先、かなり落ち着いてじっくり話ができるなという印象を持った。相性は合うと思う」と振り返り、日本テレビ番組では「(トランプ氏には)『NO』と言ってしまうと、全部ぶち壊れる。否定されることが大嫌いだということなので、否定はしない」などと攻略方法をしたり顔で打ち明けてみせた。

日米首脳会談でトランプの機嫌がよかった本当の理由

 初の首脳会談には野党である立憲民主党の野田佳彦代表も「一定の議論ができたのではないか」とし、日本維新の会の前原誠司共同代表は「日米同盟の抑止力・対処力強化を確認したことを歓迎する」、国民民主党の古川元久代表代行も「率直に評価したい」などと評価した。メディアでは専門家と称する人々も高評価をつけていたはずだ。だが、筆者はその時点から訪米成果と言えるものは1つもないと指摘してきた。

 その理由は「思っていたよりも和やかな雰囲気で、トランプ氏が首相を気遣っていた」(政府関係者)という感覚的なものしか残らず、“成果”と呼べるものは皆無だったからだ。日本のトップリーダーとして何のために訪米したのかと思いたくもなる。たしかにトランプ氏は「アイ ラブ ジャパン」と首相を出迎え、「ナイスガイ」「良い答えだ」などと首相を評した。だが、最前線で他国とビジネスをやったことがある人ならばトランプ氏の機嫌がなぜ良かったのかわかるだろう。

 あらゆる面で「ディール」(取引)を駆使し、相手の譲歩を引き出すトランプ氏が首相に気を遣ったことの意味を首相自身が理解していなかったのは間違いない。悲しいのは、トヨタ自動車などの工場建設といった米国への貢献に触れつつ、「金の兜」を土産に持参し、代わりにもらったのはトランプ氏の「写真集」だけ。さらに日本製鉄によるUSスチール買収計画について、石破氏が「買収ではなく、投資だ」と説明しながら何も得られなかったという冷酷なまでの現実だ。

今後、防衛費のさらなる増額要求も突き付けられる可能性は

 そもそも2月に「雰囲気の良い形」(政府関係者)で首脳会談が実現できたのは、トランプ氏と個人的な信頼関係を深めた安倍晋三元首相のおかげだろう。石破氏のことを蛇蝎ごとく嫌っていた元首相だが、大統領夫妻の招待で昨年末に訪米した安倍昭恵夫人は緊密な日米関係の重要性をトランプ氏らに説いて回った。トランプ氏は首脳会談で「晋三は親しい友人だ。私の親しい友人が尊敬していた石破首相と過ごすことは光栄だ」と元首相について触れている。

 さらに今回、トランプ大統領は4月2日の演説でも「安倍氏は私の話をすぐに理解した」とことさらに強調し、「素晴らしい紳士だった」とも述べている。もちろん、トランプ流の言い回しなのだろうが、現実として第1次トランプ政権時は少なくとも安倍首相が「防波堤」役となり、今回のような同盟国を揺さぶる相互関税を回避してきた。岸田文雄政権時代のトマホーク購入契約も避け、文字通り「強固な日米関係」が存在していたのだ。

 安倍政権には毀誉褒貶がつきまとうが、対米関係で見れば個人的な信頼関係を築いていた安倍氏の存在は大きかったと言えるだろう。対して、石破首相はどうか。首相は「アジア版NATO」「日米地位協定の見直し」「日朝連絡事務所の開設」といったものを打ち出し、むしろ米国を逆撫でしてきたように映る。

 象徴的なのは、トランプ大統領との首脳会談後の共同記者会見で「もし米国が関税をかけたら、日本は報復するのか」といった質問が飛んだ際のシーンだ。石破首相は「仮定の質問にはお答えをしかねます、というのが日本の定番の国会答弁だ」と語ると、トランプ氏からは「わお、素晴らしい答えだ。わかっているじゃないか!」と微笑みを受けた。

 今さらになってトランプ大統領に「直接話しかけていくということが適当であれば、全く躊躇するものではない」と首相は語るが、自分が子供扱いをされていることを一刻も早く自覚すべきだろう。対米投資額の拡大に加え、今後は防衛費のさらなる増額要求も突き付けられる可能性は決して小さくない。石破外交がもたらす“代償”はあまりに大きい。

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この記事の著者
佐藤健太

ライフプランのFP相談サービス『マネーセージ』(https://moneysage.jp)執行役員(CMO)。心理カウンセラー・デジタル×教育アナリスト。社会問題から政治・経済まで幅広いテーマでソーシャルリスニングも用いた分析を行い、各種コンサルティングも担う。様々なメディアでコラムニストとしても活躍している

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