竹中平蔵「低所得者に減税しても効果は薄い」財務省より厚労省にデモした方がよっぽど社会のため!国民全体が被害者だ

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 パーキンソン病専門の有料老人ホームを運営する東証プライム上場の「サンウェルズ」(本社・金沢市)が総額28億円超の不正請求を特別調査委員会に認定された。有料老人ホーム「医心館」を展開する「アンビスホールディングス」(東京都中央区)についても、共同通信は3月23日配信した独自記事で「複数のホームで、併設の訪問看護ステーションが入居者への訪問について実際とは異なる記録を作り、不正に診療報酬を請求していたとみられることが23日、内部文書や複数の元社員の証言で分かった」と報じている。膨れ上がる社会保障費に大きな無駄があるのではないか。経済学者の竹中平蔵氏は抜本的な改革を訴える。「今そのタイミングにきている」。一体どういうことなのかーー。

目次

海外では社会保険料を質的に税金の一つとして捉えている

 政治の場やSNSでは減税の議論が盛んです。しかしわれわれが本当に議論しなくてはいけないのは減税ではなく、社会保障負担を減らすことです。実は多くの国民、特に中間層や低所得者層の家計を圧迫しているのは税金よりも社会保険料です。皆さんも毎月の給与明細を見て、社会保険料の高さに驚いたことがあるのではないでしょうか。

 日本の社会保険料負担はGDP比で過去30年間に2倍にまで膨れ上がっています。所得に対する社会保険料の割合が増え続ける一方で、税金の割合は横ばいか微減しているため、これは実質的な「ステルス増税」と言えるでしょう。社会保険料を隠れ蓑にし、日本政府は増税という言葉を使わずに国民の負担を高めてきたのです。実際問題、海外では社会保険料のことを「social security tax」と呼んでおり、実質的に税金の一つとして捉えています。

 特に低所得者層にとっては、課税対象となる所得が社会保険料によって大きく圧迫され、可処分所得が減少しています。これは経済活動を停滞させる要因にもなっています。本当に困窮している人々を支援するためには、社会保険料の問題にもっと目を向けるべきだと考えています。逆にいうと、低所得者層は税金を多く払っていないため減税してもその効果は薄いのです。

 社会保険料は保険の哲学的な概念からもいい加減なものになっており、抜本的改革が必要です。

財務省より厚労省にデモした方がよっぽど社会のため

 本来であれば、日本人は自分が死ぬまでの時間を逆算して貯金しなくてはいけないのに、多くの国民は年金だけで暮らせると勘違いし、貯金をしていません。90歳まで生きるとして、90歳まで生きるために必要なお金は本当なら貯金しなくてはいけません。それで結局100歳まで生きた時のためにあるのが、保険ですよね。また、社会保険料には支払い義務がありますが、罰則はありません。今の社会保険は保険なのか公費負担なのか公なのかか控除なのかという点が全てにおいて極めて曖昧です。介護保険が40歳から払うという仕組みもよく意味がわかりません。なので私は財務省解体デモをするよりも、厚生労働省に対してデモをした方がよほど社会のためになると思っています。

 とはいえ、この社会保険料を単純に減らせばいいと言っているわけではありません。深刻な高齢化社会に突き進む日本において、今後介護難民が増えることも予測されます。そうなった時、日本の秩序が大きく乱れることを私は危惧しています。例えば、今の日本の選挙の投票率は低いです。これは国民が選挙・政治に関心を持っていないためですが、それは裏を返せば、社会が安定しているため国民が選挙に行く必要がないともとれます。こうした安定が一気に崩れるのではないか、そんなことを恐れています。

介護業界の大手企業で不正請求

 なので、社会保険料の改革をしなくてはいけないのですが、現状として絆創膏を貼り続けたような制度となってしまっているので、どこがどうなっているのかとても分かりにくい構造になってしまっています。もしやるとしても抜本的な改革が必要ですし、今そのタイミングはきていると思います。その上で考えなくてはいけないことが2つあります。一つは社会保険料の無駄のチェックの必要性で、もう一つは払えない人への給付です。

 最近、介護業界の大手企業による不正請求がニュースになりました。

 国の指定難病「パーキンソン病」専門の有料老人ホームを運営する「サンウェルズ」は今年2月、同社が設置した特別調査委員会から診療報酬28億円あまりを不正に受け取っていたと指摘され、決算修正を発表しています。訪問看護が数分以内と短時間で終了したにもかかわらず、約30分間の訪問であった旨の訪問看護記録を作成し、それに対応する診療報酬を請求する「短時間訪問」が行われていたと認定していました。

私たち国民全体が被害者となっている

 また有料老人ホーム「医心館」を展開する「アンビスホールディングス」を巡っても共同通信が3月に、「複数のホームで、併設の訪問看護ステーションが入居者への訪問について実際とは異なる記録を作り、不正に診療報酬を請求していたとみられることが23日、内部文書や複数の元社員の証言で分かった」と報じています。

 サンウェルズなどの上場企業による診療報酬の不正請求は、単なる一企業の問題ではなく、日本の社会保障制度が抱える構造的な問題の表れだと私は考えています。制度の抜け穴を利用した収益最大化が行われていた可能性があります。

 これらの問題は、一見すると利用者には直接的な実害がないように見えるかもしれません。しかし、不正に請求された診療報酬は国民全体の社会保険料から支出されているため、結果的には私たち国民全体が被害者となっているのです。

 日本の社会保障制度には複雑なルールをチェックするシステムの不備という構造的な問題があります。現行制度には監視の目が行き届かない構造的欠陥があります。デジタル技術を活用した透明性の高いシステムを構築し、不正を防止する仕組みが不可欠です。

官僚が一緒になって”村”を守る

 無駄をなくすという意味では、次に、混合診療の全面解禁を進めるべきです。保険診療と保険外診療を併用できるようにすることで、裕福な層は自己負担で高度な医療を受けられるようになり、保険財政の負担軽減にもつながります。

 そもそもですが、なぜこんなに社会保険制度はわかりにくいのか、そして明らかな不正が出ているのに放置されているのか。それには官僚組織としての問題があります。まず日本は、人口あたりでみたときの公務員の数がアメリカやヨーロッパよりも少ないです。そういった意味では慢性的な人手不足です。その一方で日本は終身雇用制で40年もずっと同じ人が働き続けることができます。

 40年も勤めあげれば”村”の住人になり、利権化してしまう恐れがあります。年金なのか医療なのか介護なのか。それぞれ事情が違うと思いますけどもものすごく分かりやすく言うと官僚が一緒にその村を守ってしまっているわけですよね。アメリカのように政権ごとに官僚を入れ替えるようなダイナミックな動きが日本にもあるべきだと感じます。

社会保険料を支払う国民に対して欺き続けることに

 社会保険制度を改革する上で考えなくてはいけないもう一つの重要ポイントは「払えない人には給付する」ということです。

 社会を回す上で社会保険制度は必要です。では社会保険料を払えない人に対しては給付するしかありません。日本では減税の議論がなされるとき、まず基礎控除の枠を広げようと求めるなど、課税ベースを縮小させようとします。これに関して世界では1980年代ぐらいから課税ベースを広げようという動きになっています。課税ベースをできるだけ広げ、つまり変な控除をなくして、その分税率を下げて、経済を活性化させようという狙いです。しかし日本では、今でもなんか課税ベースを小さくするような減税が主張され、それが受けてしまっています。これでは、世界の議論と全く違う低レベルな話になってしまっています。

 さて、介護現場ではなかなか働き手が見つからないという問題があります。その理由の一つには給料の安さがあります。もし介護してくれる人材がいなければ介護難民は生まれます。国は介護人材が集まるような仕組みを作っていかなくてはなりません。正直今の介護保険は急ごしらえで作ったもので、これから本格化が始まる高齢化社会に耐えうるものなのか、正直よくわかりません。そんな中で一部のモラルが欠如した企業の診療報酬の不正請求が明るみに出ました。問題は制度にあると思っています。制度を抜本的に見直さなければ正直者が馬鹿をみる構造は変わりません。そして真面目に社会保険料を支払う国民に対して欺き続けることになります。

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