GMARCHの最新序列はこうなった!6大学内で起きる就活格差の実態…動き出した私大ヒエラルキー

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「GMARCH」といえば、いまや大学受験の定番ワードとして定着している。明確な基準があるわけではないが、首都圏の中堅~上位私大を示すグループとして、進学や就職の目安にもなっている。しかし近年、その価値に変化が訪れている。かつては「手堅い進学先」「安定した就職の切符」と見なされていたGMARCHだが、社会構造や大学教育のあり方が見直される中で、その意味合いは少しずつ揺らぎはじめているのだ。経済誌プレジデントの元編集長で作家の小倉健一氏がGMARCH内における就活格差などについても、詳細を解説していくーー。

目次

成蹊・明学・成城がGMARCHに迫る?静かに動き始めた「私大ヒエラルキー」

 大学の序列やグループ分けは、受験生とその保護者、教育関係者、企業の人事担当者、広くは社会全体の関心事であり続けている。中でも「GMARCH」と総称される大学群は、首都圏の私立大学における一つの大きな指標として認識されてきた。学習院大学(G)、明治大学(M)、青山学院大学(A)、立教大学(R)、中央大学(C)、法政大学(H)の頭文字を冠したこの呼称は、長年にわたり受験生の目標となり、高校の進学実績を測る物差しともなってきた。

 ダイヤモンド・オンライン(2025年6月2日)掲載の「【成蹊? 成城? 明治学院?】GMARCHに迫る大学の序列はどうなった?【2025年最新版序列マップ付き】」で、進学情報誌『大学図鑑!』編集長のオバタカズユキ氏は、「日本の大学はすべて、縦の序列から自由ではいられない」と指摘しつつ、GMARCH周辺の大学群について「『エライ』軸の呪縛が比較的緩い」と述べている。このGMARCHを中心とした大学の秩序も、社会の変化や大学自身の改革努力によって、静かに、確実に変容しつつある。

 GMARCHという呼称は、1960年代に旺文社の『螢雪時代』編集長であった代田恭之氏が考案したとされる。教育ジャーナリストの小林哲夫氏は、AERA dot.(2024年7月4日)の記事「「早慶」「MARCH」「関関同立」…大学グループの「通称」はいつ・どうやって作られた?【前編】」において、代田氏が語ったエピソードを紹介している。

受験業界の造語が常識に…GMARCHが「目標」になるまでの物語

「全国の高校や大学をまわって、大学受験について講演をすることが多かった。出張で長旅に出たものです。そんなとき、旅館で酒を飲みながら、大学名で語呂合わせをよく考えました。講演で聴衆が眠くならないよう、インパクトがある名称を考えたかったのです」

 映画『戦場にかける橋』のテーマ曲「クワイ河マーチ」がヒントになったという。当初は受験業界の用語であったものが、90年代以降に広く定着し、現在では多くの場面で注釈なしに使われるようになった。高校が大学進学実績をアピールする際、「本校は○割以上の生徒が、現役でMARCH以上の大学に合格します」といった表現を用いることは珍しくない。

 進学アドバイザーの倉部史記氏は、読売新聞オンライン(2017年12月18日)の記事「大学受験「とりあえずMARCH」の落とし穴」で、「MARCH合格は、難関大学へ生徒を送り出したと認められるための、分かりやすい指標の一つ」であると述べている。日本経済新聞(2019年2月13日)の記事「大学進学率低下を考える(点照)」では、足立学園高校が進学実績を伸ばし「平均的な学力があればGMARCHに合格できる学校」を標榜する例も紹介されているように、GMARCHは一つの到達目標として機能してきた。

「GMARCHより難しい“非GMARCH”」の逆転現象

 今日、注目すべきは、偏差値序列の流動性であろう。文春オンライン(2023年7月22日)の記事「「最低でもGMARCHには行きたい」「Fランに行く意味がわからない」…予備校講師が指摘する“大学名で人をジャッジする”人たちの“恐るべき勘違い”」で、予備校講師の羽場雅希氏は、河合塾の2024年度入試難易予想ランキング表を基に「“GMARCH”に含まれる学習院大学(文)[55.0-57.5]よりも明治学院大学(心理)全学部入試[60.0]の方が少なくとも現時点での数字上の難度は高いケースも想定される」と指摘する。

 同記事で紹介されているベネッセの2023年度データでも、偏差値70のグループに青山学院大学(社会情報)、学習院大学(経済)、中央大学(商)、法政大学(経済・社会・人間環境)と並んで、津田塾大学(総合政策)、東京家政大学(栄養)、中京大学(心理)、南山大学(国際教養)、名古屋学芸大学(管理栄養)、立命館大学(法)、関西大学(商・社会)、関西学院大学(法)が含まれるなど、従来のイメージとは異なる大学・学部が同等以上の評価を得ている実態がうかがえる。

「大学は平等化装置ではない」最新研究が示す“学歴の限界”

 藤原翔氏らによる学術論文「College Is Not the Great Equalizer in Japan」(Socius: Sociological Research for a Dynamic World, 2024)は、日本の大学教育が社会階層の固定化解消にどの程度寄与しているかを分析している。

 この論文はGMARCHという特定の大学群を対象としたものではないが、日本の高等教育全体、特に大卒と高卒の比較を通じて、大学教育が「偉大な平等化装置(great equalizer)」として機能していない可能性を示唆している。つまり、家庭環境に恵まれない出身階層の者が大学を卒業したとしても、恵まれた出身階層の者と同等に社会的地位が向上するわけではなく、むしろ出身階層による有利不利が、大学卒業後の職業達成においても影響し続けているというのである。

「とりあえずMARCH」で報われない。出身階層が行く末を左右する

 GMARCHレベルの大学は、最難関大学と、より広範な大衆大学との中間に位置づけられることが多い。これらの大学への進学は、一定の学力と努力を要するものの、最難関大学ほど門戸が狭いわけではない。しかし、本論文が指摘するように、日本においては、大学教育を受けた層の間でも、出身階層の影響が払拭されないのであれば、GMARCHの卒業生においても、同様の傾向が見られる可能性がある。

 これは困った構造だと思う。大学卒業は高卒に比べて職業的地位を上昇させる因果効果(causal effect)を持っているものの、その効果は「全員にとって等しく有効ではない」と結論しているのである。有利な出自の学生の父親の職業的地位が高いほど、大学教育による職業的地位向上の効果がより大きいのでは、大学側の努力が目に見える形で表れていない(出身階層によるリターンの差が存在する側面があり、平等化装置として十分に機能しているとは言えない)と言うことになる。識者たちが「とりあえず、MARCH」と言う安易な態度に警鐘を鳴らしたところで、企業採用の実態が「とりあえずMARCH」であり、あとは家庭環境での優劣となってしまっていることにもなりかねないわけだ。

 論文では、特に日本の労働市場の構造的特徴が、大学教育の平等化効果を限定的にしている要因として挙げられている。新卒一括採用、企業内訓練重視、学歴による初任給や昇進機会の差異などが、出身階層の影響を温存させるメカニズムとして作用していると考えられる。

大学名だけでは足りない…就活で試される“家庭環境という資本”

 GMARCHの学生が就職活動を行う際にも、単に大学名だけでなく、家庭環境に由来する情報網やコネクション、あるいは面接での立ち居振る舞いなどが、無意識的にも影響を及ぼしている可能性は否定できない。また、論文は高卒者の就職においては、学校の斡旋が大きな役割を果たし、出身階層の影響をある程度緩和している可能性を示唆している。これに対し、大卒者の就職活動はより個人に委ねられる部分が大きく、結果として出身階層の格差が露呈しやすい構造になっていると分析している。GMARCHの学生は、まさにこの大卒者の就職市場に参入することになるため、論文が指摘するような出身階層の影響を受けやすい状況にあると言えるかもしれない。

 2016年から始まった私立大学の定員厳格化は、GMARCHクラスの大学の合格者数を絞り込む結果となり、受験生の安全志向を強めた側面もある。日本経済新聞(2019年2月13日)の記事「大学進学率低下を考える(点照)」によれば、足立学園高校では、GMARCHへの現役合格者数が2015年の延べ146人から2018年には68人へと減少した。大学通信の安田賢治常務は同記事で「入りたい大学より入れる大学を選び、挑戦意欲がそがれている」と懸念を示す。このような外部環境の変化も、大学間の競争や学生の流動に影響を与え、結果として大学の序列観にも変化を促している。

 海外の研究では、「ブロードアクセス高等教育(Broad-Access Higher Education)」という概念が提唱されている。これは、門戸が広く、多くの学生を受け入れる高等教育機関群を指し、エリート校中心の視点から脱却し、アクセス(入学の容易さ)そのものを肯定的な価値として捉え直そうとする試みである。従来の偏差値に基づいた序列観から一歩踏み出し、より包括的で深みのある理解に向けた知的な努力が求められる。日本社会を支える中間層大学の真の価値を認識し、その多様な機能と役割を明らかにする研究こそが、今後の高等教育政策を考える上で不可欠となるだろう。日本ではその研究が圧倒的に足らないことで、大学の学生へのアプローチが不足し、「とりあえずMARCH」が蔓延してしまうのでは、大学教育の意義そのものが問われかねない。

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この記事の著者
小倉健一

1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。国会議員秘書を経てプレジデント社へ入社、プレジデント編集部配属。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長就任(2020年1月)。2021年7月に独立。現在に至る。 Twitter :@ogurapunk、CONTACT : https://k-ogura.jp/contact

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