トランプ「同盟国の多くは友達じゃない」凍りつく…高市総理は台湾有事発言で米に見捨てられたか? 撤回できず、前にも進めず「八方塞がり」

高市早苗総理が就任したあと、米国のドナルド・トランプ大統領が訪日した。その際は友好的ムードで、トランプの隣でキャピキャピと喜ぶ高市総理が話題を呼んだ。しかし、その後訪れた中国では習近平国家主席と寄りディープな会談がされたようだった。各メディアは「主要な貿易問題の解決に向けて合意した」と報じ、トランプ氏は「素晴らしい会談」だったと評価。習首席を「偉大な指導者」と呼んだ。そんな中状況下で起きた高市総理の台湾有事を巡る発言だったが、トランプ大統領がどっちの味方につくのか注目されいるが、実は1カ月ほど前にかなり重要な発言を米国テレビのインタビューでしていた。「同盟国の多くは友達じゃない」。この言葉に、経済誌プレジデントの元編集長で作家の小倉健一氏は「高市早苗首相が現在直面している、逃げ場のない「八方塞がり」の状況を、残酷なほど正確に映し出している」と指摘する。小倉氏が詳しく解説していく――。
目次
米国リーダーによる「日本を凍りつかせる一言」
11月10日、ワシントンD.C.の空は低く垂れ込め、ホワイトハウスの白い外壁を冷ややかに包み込んでいたようだ。しかし、その中心、大統領執務室であるオーバル・オフィスの空気は、外気とは対照的に、熱気を帯びていた。
FOXニュースの番組「The Ingraham Angle」の司会者、ローラ・イングラムが、ドナルド・トランプ大統領にマイクを向けている。トランプは、彼特有の自信に満ちた身振りで、部屋の隅々を指し示した。彼が熱弁を振るっていたのは、国際政治の難題ではなく、ホワイトハウスの「改修工事」についてであった。
「ローラの足元の床を見てくれ。この大理石の『ブックマッチ』を。左右の模様が本のページを開いたように完璧に対称になっているだろう。一ミリのズレもない。これこそが仕事だ」
トランプはまるで、自身の所有するホテルの内覧会にいるかのように振る舞っていた。安っぽいリノリウムや、壊れたタイルを剥がし、最高級の素材で完璧に仕上げる。その費用は政府の予算ではなく、民間の寄付で賄われたという。「アメリカ人の税金を使わず、最高の価値を生み出す」。これこそがトランプの美学であり、行動原理そのものである。
そして、インタビューが高市早苗首相による「台湾有事は日本の存立危機事態」という発言、話題に及んだ時、トランプは冷徹なアメリカのリーダーの顔に戻り、日本を凍りつかせる一言を放った。
インタビューアーのローラ・イングラムが高市発言と中国の外交官の”斬首”発言を紹介した上で「中国は我々の友人とは言えませんよね」と質問した。その際、トランプはこう語った。
高市発言巡り、「ローラ、同盟国の多くも、我々の友達じゃないんだ」
「ローラ、同盟国の多くも、我々の友達じゃないんだ」
「見てくれ、私は習主席とも中国とも大変良好な関係を築いている」
この言葉は、単なる放言ではない。日本の高市早苗首相が現在直面している、逃げ場のない「八方塞がり」の状況を、残酷なほど正確に映し出している。
まず、事態の深刻さを理解するために、時計の針を少し戻し、高市首相が置かれた立場を整理しよう。彼女は国会の予算委員会で、台湾周辺での中国軍の動きについて、「戦艦による武力行使があれば、どう考えても『存立危機事態』になり得る」と断言した。さらに、米軍の来援を前提としたシナリオまで具体的に語ってみせた。
一国のリーダーとして、他国の脅威に対して一歩も引かず、国民の生命と財産を守り抜くという気概を示したこと。その一点において、彼女の行動と理念は、ささやかな称賛に値する。平和ボケした永田町の空気の中で、彼女が示した「国家の主権」に対する強い意志は、貴重な光であったと言えるだろう。
だが、その勇ましさが、巨大な壁に突き当たっている。
トランプのインタビューを詳細に読み解くと、彼が何に関心を持ち、何に関心がないかが痛いほどよくわかる。トランプにとって、外交とは「友情」や「民主主義の防衛」といった抽象的な概念の交換ではない。大理石の床の施工費を誰が払うか、あるいは大豆を何トン買わせるかという、極めて具体的な「取引」の積み重ねに過ぎない。
保守系コメンテーターの幼稚な物語
中国の習近平国家主席との電話会談で、トランプは中国側から「大豆などの農産物の大量購入」という約束を取り付けた。アメリカの農家、すなわちトランプの大事な支持基盤が潤う。この具体的な利益の前では、台湾海峡の緊張や、日本の安全保障上の懸念など、交渉のカードの一枚に過ぎないのだ。
ここで、日本の言論空間にはびこる「楽観的な見方」を、冷酷に粉砕しておかなければならない。
未だに多くの保守系論客やコメンテーターたちが、「日米は価値観を共有する無二の親友だ」「中国は悪だから、正義のアメリカは必ず日本を助ける」といった、幼稚な物語を垂れ流している。彼らは、トランプが安倍元首相とゴルフをしたという過去の映像にすがりつき、現在のトランプを見ようとしない。
彼らの思考は、あまりにもおめでたい。トランプが「同盟国は友達ではない」と明言したにもかかわらず、「それは他の国のことで、日本は特別だ」などと根拠のない幻想に浸っている。
高市はトランプに見捨てられたのか
このような思考停止こそが、日本を危機の淵へと追いやる元凶である。彼らが信じる「正義の味方アメリカ」は、ハリウッド映画の中にしか存在しない。現実のホワイトハウスにいるのは、損得勘定で動く、不動産王なのだ。
では、高市首相は完全にトランプに見捨てられたのか。
トランプ政権にとって高市政権は、防衛費の増額や安保三文書の改定といった、アメリカの「国家防衛戦略」に資する政策を推し進めている政権だ。トランプは、同盟国が自らの財布で武器を買い、自らの足で立つことを強く求めている。その点において、高市首相は「良い顧客」であり、アメリカの負担を減らす「優良なパートナー」として機能している。
つまり、トランプが高市を容認しているのは、そこに「友情」があるからではない。彼女が、アメリカの国益という巨大な集金システムの中に、文句も言わずに多額のチップを払い続けているからに他ならない。
しかし、中国が日本の出すチップより多額のものになった時、事態は急変する。米中のディールの中で、高市外交は、進むことも引くこともできない迷路の中にいる。
「俺の商談の邪魔をするな」
まず、「引く」ことはできない。もし今、中国の圧力に屈して「存立危機事態」の発言を撤回すれば、彼女を支えてきた国内の保守層からの支持は瞬時に消滅するだろう。「愛国者」としての看板を下ろした瞬間、彼女の政権は求心力を失い、崩壊へと向かう。自らの信念と支持基盤の手前、謝罪や撤回という選択肢は最初から封じられているのだ。
では、「前に進む」ことはできるか。それも極めて困難だ。トランプは習近平との間で「手打ち」を行い、米中関係の安定化(という名のビジネス)を進めている。このタイミングで、日本が過度に中国を刺激し、軍事的な緊張を高めることは、トランプのビジネスの邪魔をすることになる。「俺の商談の邪魔をするな」と、ホワイトハウスから無言の圧力がかかることは想像に難くない。
撤回もできず、かといって独自の対中強硬路線を突っ走ることもできない。この状況下で、彼女が生き残るために残された唯一の道は何か。
それは、トランプに対して「私はあなたの役に立つ」という証拠を、札束(防衛費や米国製兵器の購入)として積み上げ続けることである。これは、友情に基づいた対等な同盟ではない。
高額な会費を払い続ける会員制クラブのようなもの
高額な会費を払い続けることでしか席を確保できない、会員制クラブのようなものだ。支払いが滞れば、即座に席を失う。トランプがホワイトハウスの改修で示した「完璧な施工」へのこだわりは、同盟国に対しても同様に向けられる。「半端な貢献は認めない。完璧に、こちらの要求通りに仕上げろ」というわけだ。
高市首相は、この冷酷なゲームのルールを受け入れざるを得ない場所に立っている。高市首相の愛国心や理想がどうであれ、トランプという巨大な重力圏の中で生き延びるためには、トランプのルールに従って「課金」し続けるしかない。それが、現在の高市首相における「現状維持」の正体であり、八方塞がりの迷路の中で唯一開いている道なのである。
トランプがホワイトハウスのオーバル・オフィスで見せた、真鍮の看板へのこだわり。それは「品質」と「対価」への執着である。日本外交に求められているのも、もはや甘えや情緒ではない。冷徹なまでの計算と、国益という対価の交換である。
この「冷たい取引」の先に、高市首相の描く「美しい国」の未来はあるのだろうか。日本の外交が、トランプ大統領の気まぐれな評価と、アメリカへの貢物によってのみ成立している現状は、主権国家としてあまりにも危うい。真の国益とは何か、国民はこの「高額な会費」を支払い続けることに同意できるのか、今こそ問い直す必要がある。