今回も「やはり、あそこか」…誹謗中傷の震源地、私たちの心を踏みにじる正体(後)

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無いこと無いこと書く
私は今年の秋口、意外な場所で新たな誹謗中傷の受注側と接触することができた。
まったくの偶然、それは池袋の小さなショットバーであった。
出会った彼は40代、ITの会社をやっている、と言った。ライターであるとも。なんだか儲かっているような話をしてくるが、私もなんだかんだ出版業界に30年以上関わって飯を食っている。なんとなく、わかる。この人がいろいろ誤魔化していることを。
酒の席なのでそんなものは当たり前なのだが現在の発表先はどこか、これまでの連載は、単著は、ストレートに聞くでなくやんわりとそうした話を聞き出そうと誘導するが要領を得ない。
ペンネームすら言わない。
書き手を称してこのパターンはその名前に訴求力がないと媒体に判断されるレベルで記名原稿が書けないか、社会的にネガティブな内容ばかりなのであえて匿名のままに書くライターのどちらかだ。
私は後者とみた。それは当たっていた。
やがてこうした取材をしていることを話すと、彼は誹謗中傷系の原稿を請けたことがあると話し始めた。ある男性アイドルを「あること無いこと」ならぬ、「無いこと無いこと」書くことだった。
ライターをまとめる役
「いわゆる叩き系だね、ずいぶん前だけど。金は安かった。でも、単価に見合わないからそこはやめた」
仲介サイトで請けて書いていたと話す。クラウドワークスかどうか、どこのサイトかは話さなかったが、彼は確かに誹謗中傷系の原稿を仲介サイトで請けて、書いていた。叩き系とは文字通り、対象を叩くための原稿である。
他にもどんな著名人を書いたかを聞いたが男性アイドルが大半であった。筆者は羽生結弦の件を念頭に「(誹謗中傷依頼の対象に)アスリートはいたのか」をその名を出さずに聞いたが「いない」と答えた。本当かどうかはわからないがあまりスポーツはわからず芸能やサブカルが中心だとも。アイドル以外はVチューバーの炎上ネタを書いたとも。
「金が安いからやめる、と言ったら引き止められた。じゃあライター連中をまとめる役をやってくれないかと頼まれてしばらく請けた」
少し説明が必要だが、出版社で言うところの編集者的な役割である。そのライターたちはどういう人たちか。
「副業の会社員もいれば子持ちの主婦もいた。病気で多く働けないとか、そういう人たちもいると聞いた。1本1,000円にも満たない原稿だが、素人が書くから私が直してクライアントのチェックを経て公開する。私も出版社とかに勤めたわけじゃないので見様見真似だがね」