青山繁晴「日本は隠れた資源大国」「レアアースは中国産より純度20倍」…誇張気味?商業化はいつ?確認作業へ!日本の現在地を探る

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 青山繁晴参院議員が客員教授を務める近畿大学で講演を行い、南鳥島近海で確認されているレアアース泥の高い純度について語った。産経新聞が報じた。青山氏は南鳥島のレアアース泥については、「中国の陸上産レアアースの純度のおよそ20倍である」と述べ、日本の海域に眠る資源の潜在力を強調したという。また青山氏は「日本は隠れた資源大国だ」とも強調した。しかし、本当に採掘できるのだろうか。ここに日本の未来はあるのだろうか。コラムニストの村上ゆかり氏は「科学的な文脈と政治的なメッセージが混ざって語られてきた」と指摘する。村上氏が詳しく解説していく――。

目次

「日本は資源大国になれる」「いや誇張だ」

 海面から6000m下、太陽の光が届かない深海では、まったく別の時間が流れている。人の足跡も歴史も国境もない場所。そこには何千万年という時間をかけて降り積もった微細な泥が横たわり、その中にレアアースと呼ばれる元素群が眠っている。肉眼ではただの灰色の泥にすぎないが、その粒子一つ一つには、スマートフォンや電気自動車、風力発電など、現代文明を支える要素が詰め込まれている。南鳥島沖の深海底という、日本最東端の小さな島の周囲に広がる、あまりにも深く遠い海――科学者たちは、海底から引き上げた泥の成分を分析し、その中に秩序をもって集積したレアアースの存在に気づいた。深海は語らないが、数字は語る。数百万年、数千万年という時間の重みがそこにはある。もし深海の底に眠るものが、将来の技術や産業を支える力になるとしたら。他国に依存してきた資源を、自分たちの足元で見つけることができたとしたら――。人類はこれまで不可能に見えた場所に何度も手を伸ばしてきた。南鳥島沖のレアアースも、いまはまだ物語の中にある。

 南鳥島沖のレアアースをめぐっては、「日本は資源大国になれる」「いや誇張だ」といった主張が様々に交錯する中、「中国の20倍」という強い数値表現がたびたび用いられ、科学的な文脈と政治的なメッセージが混ざって語られてきた。

 2025年12月の国会において、南鳥島や深海資源は具体的な議論の対象となった。単なる一般論ではなく、「どの海域で」「どの水深で」「どのような技術検証を行うのか」といった点が答弁の中で言及され、12月5日の担当大臣会見では、レアアースを含む深海資源が「経済安全保障上重要」であることが明確に位置づけられた。

「語る段階」から「確かめる段階」に踏み出した

 また閣僚会見の要旨において、南鳥島沖の水深約6000mでレアアース泥を引き上げる「技術的な実証試験」を2026年1月に予定している旨が明記された。さらに、JAMSTECが21月に、同じく水深6000mからレアアース泥を引き上げる実証試験を計画していることも明らかになった。

 ここで言う実証試験とは、簡単に言えば「深海に機械を下ろし、泥を回収し、海面まで安定して引き上げられるか」を確かめる試みだ。水深6000mは、富士山の高さを上下逆さにしたよりも深い。そこでは水圧は地上の数百倍に達し、通常の機械はそのままでは壊れてしまう。遠隔操作で泥を吸い上げ、パイプや容器を通じて船上まで運び、途中で詰まらず、装置が故障せずに動き続けるかどうか――実証試験とは、こうした基本的な工程が成立するかを確認することである。

 実証実験は、レアアースをめぐる議論が「期待や不安の応酬」から、「冷静な工程管理と技術検証」へと移り始めたことを示している。つまり、政府がようやく「語る段階」から「確かめる段階」に踏み出したのだ。

「実証試験でできる」ことと「実用的に採掘できる」ことは同じではない

 ただし、「実証試験でできる」ことと「実用的に採掘できる」ことは同じではない。12月に進捗したのは、あくまで深海で泥を回収し、海面まで引き上げることが可能かどうかを確かめる技術的実証であり、長い工程の最初の一歩にすぎない。

 例えるなら、山奥に鉱脈があると分かった段階で、まずは現地に道を通し、試しに岩を持ち帰ってみる作業に近い。岩が取れたからといって、すぐに鉱山が稼働するわけではない。重機を常時動かせるか、天候や地形に耐えられるか、運び出した鉱石を安定して処理できるかといった別の課題が次々に現れる。

 南鳥島沖のレアアースも同様である。技術的なボトルネックは、単に「泥を掘る」ことではない。まず回収した泥を、1回限りではなく連続して引き上げることができるのかが問われる。装置が何度も故障せず、海底と船上を往復できるか。引き上げた泥の量と質が毎回安定するかという問題もある。深海底の泥は均一ではなく、場所や深さによってその性質が変わる。回収量が日によって大きく左右されれば、産業としては成り立ちにくい。

 さらに重要なのが分離回収と精製である。

まだ「スタートラインに立てるかどうか」の段階

 深海泥に含まれるレアアースは、陸上鉱石とは全く異なる形で存在している。粒子は極めて細かく、不要な成分と絡み合っている。これを分け、必要な元素だけを取り出し、一定の品質にそろえる工程には時間とコストがかかる。「掘る」よりも「使える形にする」までの道のりの方が長い、という指摘が専門家の間で繰り返されてきた理由はここにある。

 国会でよく語られる「中国の20倍」といった象徴的な数字は、こうした実務工程とは性質が全く異なる。政治の場では分かりやすさが重視されるため、濃度や潜在量といった単一の指標が強調されやすい傾向がある。一方、実務の現場で重視されるのは、回収量、稼働率、コスト、精製歩留まりといった実務上で関連する様々な数字すべてである。新しく手に入りそうな食材が「とても栄養価が高い」ことと、「毎日安定して食卓に出せる」ことは全くの別問題であるのと同じだ。

 現時点で言えるのは、政府が挑もうとしているのは「採掘できるかどうか」の最終判断ではなく、「採掘実現への道のりのスタートラインに立てるかどうか」を確かめる段階だということである。12月の議論は、この距離感を冷静に捉える必要性を、あらためて浮かび上がらせたと言えるだろう。

南鳥島レアアースが持つ可能性とは

 南鳥島レアアースにどのような可能性が残されているのか。前提として、深海底泥にレアアースが「相当量」存在すること自体は、学術的にはほぼ疑いのない事実だ。南鳥島沖は太平洋プレート上に位置し、長期間にわたり海水中の微量元素が沈降・濃集しやすい地質環境にあり、世界的に見ても珍しい条件が重なった場所である。日本が自国の排他的経済水域内に、将来の資源候補となり得るエリアを保有していることは、長期的な選択肢として無視できない。

 技術面でも、過去と比べれば状況は確実に前進している。深海探査機、遠隔操作ロボット、耐圧素材、海底ケーブル制御などの分野はここ10年で大きく進歩した。かつては「理論上は可能」とされていた水深6000m級での作業が、現在では「実験として成立する」段階に入りつつある。

 レアアースの価値は単純な価格競争だけで測られるものではない。経済安全保障の観点では、「いざという時に選択肢を持っている」こと自体が価値を持つ。

商業的に成り立つかが見えるのは、早くても2035年以降

 仮に南鳥島レアアースが、平時において中国産や他国産より高コストであったとしても、供給途絶リスクが高まった局面で補完的に使えるなら、その存在意義は大きい。これは保険に近い発想であり、必ずしも常時フル稼働する資源である必要はない。

 さて、深海レアアース開発は単独で完結する話ではない。採掘技術、分離技術、精製技術、リサイクル技術が連動することで、初めて全体の効率が上がる。例えば、深海泥から回収したレアアースを、国内のリサイクル工程や代替材料研究と組み合わせることで、全体としての依存度を下げることができる可能性もあるかもしれない。

 もっとも重要なのは時間軸である。現在政府が進めている「技術的実証」が順調に進めば、2026〜2029年頃にかけて、深海での回収が技術的に成立するかどうかの見通しが立つとしよう。その後、連続運用の可否、回収量の安定性、分離・精製工程まで含めた検証が進み、2030年前後に「採掘に進めるかどうか」の判断材料がそろうとすれば、コスト、精製歩留まり、民間参入の可否、国際ルールとの整合性まで含めて商業的に成り立つかが見えるのは、早くても2035年以降になると見るのが妥当である。南鳥島レアアースは、短期的な解決策ではなく、10年単位で将来の選択肢を残すための取り組みとして位置づけるべき対象だと言える。

レアアースを「万能の解決策」と誤認してはいけない

 本質的な論点はレアアースを「万能の解決策」と誤認しないことである。深海資源があるから中国依存は終わる、という単線的な発想は、かえって判断を誤らせる。一方で、技術的に難しいから意味がないと切り捨ててしまえば、将来の交渉力や選択肢を自ら狭めることになってしまう。国際環境が変わり、資源を巡る条件が厳しくなった時に、「検証してきた経験」があるかどうかは決定的な差になる。持っているかどうかより、“それ”を正しく理解しているかどうかが重要だ。

 政治の役割は、夢を語ることではなく、夢と現実の距離を測り続けることにある。強い言葉や象徴的な数字で期待を煽るよりも、どこまで分かっていて、どこからが未確定なのかを丁寧に示す方が、国民にとっては誠実ではないか。

 南鳥島の深海に眠る泥は、今日の日本を救う資源ではない。しかし、将来の日本が選択肢を失わないための長期的な可能性を秘めている。その可能性をどう守り、どう現実として育てていくか、その冷静な姿勢と現実的な行動こそが、いま日本に求められている。

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