「先見の明」経営で増収増益! アンモニア&DX改革でさらなる成長へ【東洋エンジニアリング】(6330)
独自の観点で注目企業の価値を分析するMINKABUマトリクス企業分析。今回はアンモニアやメタノールなど脱炭素化につながる技術に強みを持つ、プラントエンジニアリング大手「東洋エンジニアリング」<6330>をピックアップします。
Key Point
- 脱炭素銘柄として注目
- DXで2025年までに生産性6倍へ
- 業績好調を背景に配当復活
- インドネシア政府の地熱マスタープラン計画策定に協力へ
- インドネシアでの船舶燃料用のグリーンメタノール商業規模生産への取り組み実施へ
目次
どんな会社?
1961年設立の東洋エンジニアリングは、「総合エンジニアリング事業」を推進する三井系のプラントエンジニアリング大手です。
気候変動をはじめとする環境問題を意識したプラント(メタノール、アンモニア、バイオマス発電所など)を世界中に建設しており、カーボンニュートラル(温暖化ガスの排出量実質ゼロ)を推進しています。
同社は、クリーンエネルギーとして注目される「アンモニア」に強みがあります。アンモニア・尿素という肥料分野で独自技術(世界の3大尿素ライセンサーの1社)を磨き、世界中で80件以上のアンモニアプラントを手掛けてきました。
DX(デジタルトランスフォーメーション)を強く推し進めている点も特徴です。DXを掲げる企業は少なくないですが、2025年までに生産性を6倍(2019年度比)にするとの数値目標を掲げ、競争力向上を目指しています。
プロジェクトに関するリスク情報を効率よく入手したり、ベテランの暗黙知をAIで見える化したりすることで、「品質関連損失コスト50%削減」「工事費15%削減」などを見込んでいます。
同社は過去に大きな赤字を経験していますが、細井栄治社長はその原因を「市況が悪い時、あるいは事業拡大を目標として掲げていた時に、厳しい契約条件、無理なプロジェクト実行体制、楽観的観測によるリスクの過小評価といった形で受注した結果、プロジェクト実行段階でそのひずみが現れ、負のスパイラルに陥った」と振り返っています(2023年統合報告書より)。
しかし、現在ではDXを活用するなどしてプロジェクトリスクマネジメントを強化しており、その結果、財務基盤が安定して着実に利益を生む会社になってきたとしています。
株式市場での評価
東洋エンジニアリングの2024年3月期決算を見ていきましょう。
こちらの動画では、東洋エンジニアリングの企業価値を、評判(価値)、実利(業績)、共感(志向)、姿勢(ESG)の4つの独自視点でマトリクス分析しています。
以下では、その内容をピックアップして解説していきます。まずは、各分析の結果を見てみましょう。
1.評判価値:Neutral
2024年8月2日現在の時価総額は、418億8千6百万円(A種優先株含む)と200億~500億円の間で、個人および中小型株ファンドがターゲットとする時価総額レベルに。配当は、無配から12円へと復配しています。
2.実績価値:Very Good
2024年3月期業績は前年同期比「増収増益」。BSも改善傾向がみられ、自己資本比率は3.3ポイントUPの22.4%へと推移しています。
3.共感価値:Excellent
「エンジニアリングで地球と社会のサステナビリティに貢献する」を企業理念に掲げています。エネルギー需要の増加等、市場動向も回復基調にあります。
4.姿勢価値:Good
サステナブル経営に不可欠なESGを意識した経営を行っており、気候変動に対するTCFD提言への賛同を表明するなど、環境面における削減数値もしっかりと開示しています。
それでは各項目を詳しく解説していきます。
決算にみる成長力
時価総額は418億8千6百万円(2024年8月2日時点、A種優先株含む)で、個人および中小型株ファンドがターゲットとする時価総額レベルです。
PER(株価収益率)は4.24倍、PBR(株価純資産倍率)は0.42倍です。配当は過去6期にわたり無配が続いていましたが、12円へと復配し、今後の配当性向は25%方針、今期は25円の見込みです。
売上高は2,608億2千5百万円で前年同期比で35.2%増です。
国内向けバイオマス発電所と石油化学プラント、中国向け化学プラント、インド向け石油精製プラントなど、複数のプロジェクトが進捗しています。8月21日には、インドネシア政府が進める地熱エネルギー計画に協力するための覚書を締結したと発表しました。また翌日の8月22日には、同じくインドネシアにおいて船舶燃料用のグリーンアンモニアを商業規模で製造する取り組みをインドネシア肥料公社、伊藤忠商事と実施することも公表しました。この取り組みにより、2027年頃を目途にグリーンアンモニアの生産開始を目指します。
なお、2025年3月期の当期純利益は60億円を予想しています。
財務状況は改善傾向が見られます。自己資本比率は財務の健全性レベルを考慮してもう少し比率を高めて欲しいところですが、プラス3.3ポイントの22.4%へと推移しています。ROE(自己資本利益率)は13.9ポイント増の17.4%です。ただし、不動産売却による特別利益を除く本業による利益ベースでは9.3%となります。
ROEは「企業がどれぐらい効率良くお金を稼いでいるか」を示す財務指標。8~10%といわれる国内平均レベルを大きく超えており、グローバルでも高いレベルにあります。
市場環境と企業戦略
人の生活を便利にする製品を製造するプラント建設市場において、時代ニーズを先読みした技術力とグローバルオペレーション力を持つ同社は、高い競争力を感じさせます。
中期経営計画においても、明確なKGI(最重要目標達成指標)とKPI(KGIを細分化した数値目標)を設定できています。市場動向も回復基調にあり順調に推移しそうです。
一方でグローバルに石油関連も扱っていることから、一部市場動向は不透明な部分もあり、慎重に見極めないといけません。
サステナビリティ
サステナブル経営に不可欠なESG(環境・社会・ガバナンス)を意識した取り組みができています。
気候変動に対するTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言への賛同を表明しており、環境面における削減数値を開示しているのは好感が持てます。
管理職における女性比率は5.4%にとどまっています。女性エンジニアが少ないという業界特性も関係しますが、今後に期待したいところです。しかし「人権尊重」という面ではサプライチェーンも含めてビジネス全体で捉えています。
社外役員*は13人中6人の46.2%、また女性役員*は2人で12.5%の状況。グローバルでビジネス展開する企業としてはもう少し改善したいところです。
*社外取締役+社外監査役
MINKABUマトリクスとは?
みんかぶ編集室が
株式市場での数値を評価する「評判価値(株式)」
決算を元に成長力を評価する「実績価値(業績)」
未来に向けた企業戦略を評価する「共感価値(志向)」
サステナブルな取り組みを評価する「姿勢価値(ESG)」
の4つの視点で深掘り。
「Excellent」…最も高い評価。完璧に近い状態や成果を示している。
「Very Good」…非常に良い成果。いくつかの小さな改善点はあるかもしれないが、全体的には優れている。
「Good」…良い成果。期待を満たしているが、いくつかの明確な改善の余地がある。
「Neutral」…まずまず。改善が求められるものの、基本的な期待は満たしており「中立」。
「Be careful」…評価できない。期待を満たしておらず改善が求められるため「注意」が必要。
の5段階でジャッジする企業分析コンテンツです。