置き石、自転車盗…寿司テロ少年”微罪”を叩く大人は「もっとひどかった」卒アルを晒し家族も追い込む必要性

 回転寿司チェーン「スシロー」で醤油のボトルや湯飲みをなめまわす様子などを撮影した動画がSNSで拡散され、大問題となっている。しかし、日本がそんな監視国家になった末に待ち構えているのは、窮屈で統制の厳しい中国のような社会であると話すのは、活動家の松本哉氏だ。松本氏も子どもの頃、大バカを繰り返してきたそうで、SNSで相互監視をしている日本の現状を憂う。もちろん犯罪は犯罪であると、大人が子どもに指導することは当然だ。しかし、卒アルを晒し、家族もろとも追い詰める必要は本当にあるのか。窮屈になった日本の行く末を分析する――。

醤油差しをなめたら一夜にして1億人が敵に

 最近、飲食チェーン店で撮影された “迷惑行為” がまたもSNSで拡散され、騒ぎとなっている。「またバカな奴らが調子に乗ってふざけたことやってんのか〜、しょうもねえな〜」とは思うものの、「やっていいこと」と「やっちゃダメなこと」の中間のきわどいところ狙ってメチャクチャやる人ってのは、昔から必ずいた。

 もちろん、きわどい線をうまく突いて笑わせたり「こいつはすげえ!」と人を唸らせたりすることもあれば、アウトな一線を越えて全然笑えなかったり、昨今の騒ぎのように炎上しまくって、一億人ぐらいを敵に回してしまったりもする。いずれにせよ、今の騒ぎに関しては、ウケを読み間違って失敗したか、そもそも何も読んでないアホのどっちかなので、「悔い改めて捲土(けんど)重来を目指すべし」としか言いようがない。

 そんな感じで最近のニュースを見てて「バカだなあ」なんて他人事みたいに思っていたけど、よくよく考えて、ふと我に返って昔を思い出してみると、自分でも思い当たる節が続々と浮かんでくる。SNSやネット登場以前だったので、もっとヒドかった。

じつはもっとヒドかった80年代

 例えば、遡ること三十数年前の1980年代後半。自分が小6か中1の頃、ロクでもない大バカな仲間たちと近所の河川敷をフラフラしてて、調子に乗って川に架かる鉄橋によじ登り列車の線路を歩いてたら通りかかった電車の車掌さんに目撃され、これはやばいと線路を走って逃げ、置石して帰宅ラッシュの電車を止めてそのまま逃げた。

 鬼の形相の駅員に死ぬほど追いかけられ、仲間が鉄橋から落ちて足を複雑骨折したけど、見捨てて全員でチャリで逃げた(一応あとで救出に行った)。しかし、決死の駅員は車で追いかけてきて、しかもアクセル全開&赤信号全無視で追ってきたので最後は捕獲され「テメェら、このクソガキども~!」と半殺しにされそうになるが、急報を受けた学校の校長先生が飛んできて土下座して謝ってくれて、かろうじて許された。

 その後は学校の先生たちに、この世のこととは思えないぐらい怒られてコッテリ絞られた挙句、最後に一言「でも、お前らの先輩はもっとヒドかった」だって。いや~、今にして思えばホント最低だし、なんかもうすべてがめちゃくちゃ。

 思い出し始めたらキリがない。当時しつけと称して子どもたちを町で平気で殴る性格の悪いおばちゃんが近所にいて、あるとき、そいつを懲らしめようとチビッコたちで反乱を起こしたことがある。まずは団地のエレベーターの機械室のガラスを割って侵入して待ち構え、そのおばちゃんが1階から乗って5階ぐらいまで上がった瞬間にエレベーターの電源を落として閉じ込め、エレベーター内に繋がる非常放送だけ電源を入れ「このエレベーターは間もなく落下します。9、8、7、6…」とかウソをついてビビらせ、信じ切って「助けて〜! 死にたくない!」と叫ぶおばちゃんを置いて、そのまま逃げたりもした(その後、自力で脱出したおばちゃんの悪夢のような反撃に遭う)。

 あるいは、ヤクザの車にペンキを塗って逃げてみたり、運ちゃんがサイドブレーキを引き忘れて昼寝してるトラックを、みんなで押して全然違う場所に勝手に移動させたり、交番の警ら用自転車を盗んで交差点の真ん中に置いて逃げてみたり、思い返せば思い返すほどヒドい。もちろん自分だけじゃなく、当時は他人からも最低のことをいっぱい聞いた。いやー、ほんとSNSとかなくてよかった〜。危うく世間から永久追放されるところだった〜、と、胸を撫で下ろす日々。

常にビビりから入る無難すぎる社会が完成された

 当然、その都度鬼のように怒られて反省させられるわけで、ヒドいことをやらかしたことに関しては弁明の余地はないとして、ただ、昔と今では少し懲らしめられ方が違った。

 SNSがない頃は、しでかしたことのレベルによって怒られるレベルも変わってくる。例えば、駄菓子屋で万引きしたり下級生の額にハナクソをつけて泣かしたりしたぐらいだったら、学校のクラスや近所で問題になったり周りの大人から怒られたりするぐらいだったけど、もう少しヒドいことをした場合は近隣地域で話題になって、見知らぬ人からも「〇〇町の××は本当ダメだ!!」などと街レベルで非難され、肩身の狭い思いをする。

 金属バットで親や先生を殴るみたいな笑えない事件(80年代ぐらいはそれが社会問題になってた)になってくると、これはもうワイドショーや週刊誌なんかに出ちゃって、それこそ今のSNS炎上と同じような目に遭って、大バッシング&警察沙汰になる。

 一方で、現在の場合は動画や画像で拡散するってこともあり、目立つか目立たないかがポイントになってくる。社会的制裁っていう点で見ると、実際の罪の重さというよりも “なんか調子に乗っててムカつく” かどうかが分かれ目だ。駄菓子屋でうまい棒を万引きしただけでも、その態度と様子がなんかいけすかない感じだったら、凶悪事件と同じレベルで1億人ぐらいから罵詈(ばり)雑言を浴びてニ度と表に出られないぐらいになる。

 それもそのはず。SNSで拡散してしまうと、店や業界へのイメージも悪化して、全国的な客足減や株価ダウンなどの影響が半端ないってことで罪が重くなる。そう、小さな罪もSNSがあるおかげで悪影響も広がり、罪も大きくなるという奇妙な世界になってきている。

 そうなってくると、こっちから何かを攻めにいくどころか、何かを咎(とが)められただけでアウトってことになり、アイドリングしながら駐車してるとか、満員電車に大きい荷物で乗るなんていう小さなことでも「これ、怒られるんじゃない? ヤバくない?」と、いちいち怯えるようになってくる。そうして、常に “ビビり” から入り、すべてを未然に防止したがる謎の社会が出来上がってきた。

人に迷惑をかけてもいい

 誤解を恐れずにいえば、場合によってはルールを破ってもいいし、人に迷惑かけることだって、たまにはあったっていい。現に、法律には触れていないながらも人間として最低のことをやってる人もいるし、逆に厳密にいえば法には触れてるけど世のため人のためにしょうがないときだってある(例:電車に置石をするようなクソガキを捕まえるための赤信号無視など)。

 “迷惑行為” もそうで、昨今の回転寿司やその他飲食店などでの行為は、わかっててわざとやってるのでアウトだとしても、例えば老人たちの自然なコミュニケーション方法(声がでかい、やたらズケズケ言ってくる、他人のプライバシーに平気で入り込むなど)は、若い人たちの目には “迷惑行為” に映るし、逆に若者が公園に集まってるだけで、お年寄りや “善良な市民” たちは不安を感じて迷惑だと感じたりする。何が迷惑かって、結構難しい。

 もうひとつ例を挙げると、酔っ払って家に帰る途中に路上で吐いちゃったなんてのはかなり微妙。その行為自体はもちろん迷惑なんだけど、不可抗力ってのもあるし「そんなに飲むからいけないんだ」とも言える。自分で勝手に飲みすぎたのか無理やり飲まされたかにもよってくるし、じゃあ「酒じゃなくて病気で血を吐いた場合はどうなるんだ」とか、なんだかわからなくなってくる。っていうか、そんなの考えたってしょうがないし、どうでもいい。

 要するに、法律にもグレーゾーンや黙認するような中間点があることは忘れてはいけないし、“迷惑行為” と “迷惑でない行為” の中間には “迷惑って言えば迷惑だけど、しょうがねえなあまったく” ぐらいの中間ゾーンがあることも忘れてはいけない。実際の世の中は、そんなに白黒はっきり分けられるものではなく、すべてはグラデーションのアナログな世界だ。

 だからこそ、その空白のグレーゾーンを攻めにかかる人々が出てくる。片や失敗して大ひんしゅくを買う “迷惑者” が出る一方で、面白いことや新しいことができたりして、それがこれまでも文化を生んできた。なので、ビクビクしすぎて「迷惑をかけないためにすべてをやめる」という世の中の流れは、ちょっともったいない。

監視と統制により中国社会に波乱が起きている

 そこで気になってくるのが、今後の世界。おさらいしてみると、かつてネットやSNSのなかった時代は、それなりに最低なこともたくさん起きていたけど、気兼ねなくのびのびといろんなことができた時代でもあった。

 それがSNSなどの登場によって、いろんな情報がどんどん入るようになったり、個人でも世界中に発信できるようにもなったり、世界は広がった半面、それが逆に窮屈な社会になる原因にもなっている。すでに日本でも “SNS疲れ” なんて言われるようになって久しく、全部面倒くさくなってやめちゃう人も出始めている。

 さあ! じゃ、この先いったいどんな社会になっていくのか!? その「いい」と「ダメ」の隙間を攻めにいってた連中は滅亡して行くのか? …と、考えたときに面白いヒントになるのが、なんと中国。

 みなさんご存知の通り、中国はネットやSNSの統制が厳しいことで有名。中国国外にもアクセスしにくいし、社会批判的なことを迂闊(うかつ)に書き込むと、一瞬でコメントを削除されるかアカウント凍結なんてことになる。

 もちろん日本の場合は、通報や自主規制によって窮屈化してるところもあるので、今のところはちょっと質が違う。ただ去年ニュースが出たように、日本も政府側のネット戦略で、裏で世論操作をしようとしてたという情報(※)が明るみに出たりもしており、着々と中国のあとを追ってる。他国のことをあながちバカにもしてられない状況でもある。

 では、その窮屈なオンラインの世界で最先端を走っている中国では、みんなどうしてるのか。近年、中国に行って現地の人たちに話を聞くことが多いのだが、特に若い人たちは「ネット? SNS? そんなの何も面白くないよ」と口を揃えて言う。

 さらに「ネット上に出てる情報=どうでもいい情報、ってことだからね。見るだけ時間の無駄だよ」なんて言い出す。要は、窮屈で統制の厳しい中で許された時点で、政府の宣伝か企業の金もうけか人畜無害な無難なものって証明されたということ。なるほど、確かにそれは一理ある。

制限があるからこそ新しく生まれるものもある

 そんなことで、今、中国では若い人たちの間でZINE(個人が制作した本)などの小部数の自主制作印刷物やカセットやレコードのようなアナログな制作物などがすごく流行っている。セーフかアウトかの際どい線を狙ってる面白いものがオンラインの世界から離れ、どんどんアナログな世界で登場しまくっている。そしてそんなアナログなものたちは、小さなお店やバー、カフェや、イベントでの物販などで販売されたりしている。

 もちろん日本でもカセットやレコード、フィルムカメラなども含めアナログなものが流行ってるけど、中国の場合は「検閲や統制を潜り抜けてるもの」っていう意味もあるので、さらにプラスアルファがある。中国の若者たちもその地下文化感が面白くて、かつてのアナログ時代を知らない世代の人たちは「紙に印刷した分しかこの世に存在してないって、すごくない!? これはやばすぎる!」と、昭和の人間が聞いたら「あたりめーじゃねえか」って言いたくなるような、まったく意味不明のテンションの上がり方をしてる。

 そんなアナログの世界も規制がかかったり、取扱店に手入れが入ったりすることもあるんだけど、アナログの強みは紙とかビニールのような “物体” なので、あの手この手で規制の手を逃れるのは楽勝だ。秘密の扉を開けたらZINEショップになってたり、直接販売でやばいバンドのカセットが手に入ったり、みんなうまいことやっていて、オンラインの世界のように1秒で一括削除なんて不可能。

 そう、日本もこのまま炎上を恐れてビクビクする文化が続いたり、またはいろんな禁止事項がどんどん増えてコメントがAIによって瞬時に削除されるようになってきたり、政府批判や日本経済にマイナスなことはNGなんて流れになってきたりしないとも限らないので、世界のトップランナーの中国の、そのアンダーグラウンドシーンを参考にしてみるのは、予習としてとてもためになる。

監視と統制の社会を抜け、SNSのない世界へ

 そう考えてくると、その際どい中間点を狙ってくる面白いものっていうのは、どう考えてもアナログ世界の方にシフトしていく。もちろん、ネットやSNSという一旦できたものはなくならないので、いま頻発してるような “迷惑行為” で炎上するようなことは起こり続けるんだろう。ただ「なんだこりゃー!」と人を唸らせる気の利いた方面の作品などは、アナログ世界の方に多くなってくるのは間違いない。いずれにせよ、2つの世界でいろんなことが展開されてくる時代。そうなったら、いわば公然面のネット上の世界だけを見ているんじゃ、あまりにももったいない。

 実際、自分が住む東京・高円寺の街にも、最近になって、アメリカや中国のアンダーグラウンドシーンのZINEを扱う「Dig A Hole Zines」という店がオープンしたし、自分自身も、ここ数年は「素人の乱・残党ラジオFM88.0MHz」という独自のFM放送を始めている。

 ここ数年のステイホームのおかげで、頭やセンスが鈍ってる人もたくさんいると思う。自分もそうだった。いよいよコロナも徐々に収束に近付きつつある今、これを機にみなさんも街に繰り出し、暗黒の社会になっても滅びない “SNSのない世界” へも飛び込む準備を始めてみてはどうだろうか。そこには、すでにとんでもないものが転がっているに違いない!

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この記事の著者
松本哉

1974年東京生まれ。94年に法政大学入学後、「法政の貧乏くささを守る会」を結成し、学費値上げやキャンパス再開発への反対運動として、キャンパスの一角にコタツを出しての「鍋集会」などのパフォーマンスを展開。05年、東京・高円寺にリサイクルショップ「素人の乱」をオープン。07年、杉並区議選に出馬。ゲストハウス「マヌケ宿泊所」オーナー。近年はアジア圏を中心にアンダーグラウンドシーンとの交流を深める活動に力を入れている。著書に『貧乏人の逆襲!タダで生きる方法』(筑摩書房)、『貧乏人大反乱』(アスペクト)、『世界マヌケ反乱の手引書:ふざけた場所の作り方』(筑摩書房)など。

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