ここまできたZ世代親の過干渉「エントリーシート代筆」「大学の履修登録」…人生を狂わせられる子と”混乱する”高学歴親

少子化に歯止めがかからない中、親と子の向き合い方にも変化が生じている。「子どものために」と過剰なまでに手間とお金をかける親も少なくない。精神科医で「子育て科学アクシス」代表の成田奈緒子氏によると、特に高学歴の親においてそのような傾向が見られる一方で、そこには子どもの人生を狂わしかねないリスクが潜んでいるという――。全5回中の1回目。
※本稿は成田奈緒子著『高学歴親という病』(講談社)から抜粋、編集したものです。
高学歴親の抱える三大リスク「干渉」「矛盾」「溺愛」
「うわっ、やっぱり見事にへこんでるね~」
そのグラフを見た私は、思わず声をあげました。私が勤務する文教大学教育学部の学生2人が、親の養育態度を「親自身の自己評価」と「子どもから見た親の客観的評価」という2つの角度からあぶりだす調査を開始。5つの領域で10項目に分かれた心理検査(TK式診断的新親子関係検査)の第1回目の結果に、目を見張りました。
- 親が子を拒否する態度である「不満」「非難」
- 親が子に対し支配的になる「厳格」「期待」
- 親が過度に世話を焼き、過保護といわれる状態になる「干渉」「心配」
- 親が子に服従するような態度になる「溺愛」「随順」
- 親が子に伝えたことと、実際の行いが異なる「矛盾」「不一致」
検査の平均値を、100パーセンタイルの十角形のグラフで表しました。得点が低いほど子育てに問題があることを示します。50パーセンタイル(統計の代表値)より上は安全域とされ、その方の子育てはOKです。20〜50パーセンタイルは中間域。20パーセンタイルより下は危険域なので、子育ての見直しが必要です。
グラフをよく見ると「干渉・矛盾・溺愛」の3つがぺこんと落ち込んでいることがわかりました。協力してもらった親子は6組と数は少ないものの、この3つがとくに低く、危険領域に近くなっています。
「干渉」は口出ししすぎる、世話を焼きすぎること。「矛盾」は、親の言動が子どもから見ると矛盾に感じてしまうこと。最後の「溺愛」は字の通り、猫かわいがりして過度に甘やかすことです。
これらが子育ての三大問題であるというひとつの結果は、私自身がずっと感じてきたことと一致しました。この調査に協力してくれた親子を含む、私が代表を務める「子育て科学アクシス」(千葉県流山市)の会員さんにも、病院の外来で出会う親子にも散見される要素でした。
親子イベントで木工工作の体験コーナーを提供している女性によると、親が「ほら、その出っ張った角に」などと指示して作品を作らせてしまうケースが、10年ほど前から見られるようになったと言います。
自由に遊ばせ見守るのが目的のイベントに参加しているにもかかわらず、干渉しまくるという矛盾がうかがえます。親御さんたちはわが子への愛は非常に深い。ただ、少しだけ愛情の方向性や表現方法が間違っているのです。
エントリーシートを子どもの代わりに書く親
病院の外来で親子を診察するとき、子どもへの質問に親のほうが先に飛びつく場面は少なくありません。私が「夜は何時に寝てるの?」と尋ねれば、親のほうが先に「夜中の0時を回るんです」と答えます。そこで「私はこの子に聞いています」と訴えても、「いえいえ、私のほうがわかってますから」と聞き入れてくれません。
わが家の話で恐縮ですが、娘をひとり育てました。私は基本的に勉強は本人が楽しむためにするものと考えるため、家庭生活の中に含んでいません。もちろん、子どもがどうしても助けが欲しいというときはサポートしますが、自分でやれる範囲のことは自分でやるよう伝えてきました。受験料は支払いますが、願書などは自分で取り寄せ、自分で書き、何かの推薦書をとるといった手続きなども全部自分でやるように言いました。
凄まじい混乱ぶりでした。娘が願書を出したすべての大学から「不備があります」と電話がかかってくるのです。写真の貼り忘れ、誤字脱字。書いた願書はことごとく戻ってきました。娘は必死に対応して書き換え、3回ぐらい送り直していました。とはいえ、とても勉強になっただろうなと思います。浪人して2回目の願書提出の際はひとつも戻ってきませんでした。
他方、大学受験をする際に提出する入学願書をすべて母親が書いているという人の話を聞きました。就活の際に企業に送るエントリーシートを、子どもの代わりに書く親もたくさんいます。なぜ断言できるかというと、私の勤めている大学で経験しているからです。たとえば、大学の履修登録を子どもに代わって全部やってしまう親がいます。
ほかにも、「うちの子の精神保健福祉士の試験の願書をこちらで書いてあげました。ちゃんと封をして持たせたのですが、本当にポストに投函したかどうか見てやってください」などと電話をかけてくる親もいました。
このように過干渉、過保護な親は、子どもの自立を阻みます。その結果、子どもは親の管理、コントロールができないところで他人に迷惑をかけたり、問題を起こしたりするのです。
「自分の思うように育たない」苛立ちが消えない親
たとえば、こんな親子がいました。フルタイムで銀行員として働くマスミさんは、小学3年生の息子が持ち帰る宿題が気になって仕方がありません。

声掛けをしないと、ぼうっとしていていつまでたっても宿題に手を付けないのです。宿題は? と言うと机には座るのですが、またぼうっとしている。だから私も仕事から帰って疲れているけど息子の横に座って一つ一つ問題を解かせています。
やればできない子ではないけど、とにかくやらないので、次第に声を荒らげてしまいます。朝も、こちらも出勤前で急いでいるのにランドセルの前でぼうっとしているので結局怒りながら私がその日必要な教科書やノートを入れて、鉛筆を削って……。私、本当に疲れてるんです!」
アクシスにご相談にいらしたので、「いやいや、宿題も学校への持ち物も、子ども自身が困らない限り自分でやらないから、お母さんはほうっておいていいよ。それよりご自身の疲れをできる限り癒やしてください」とアドバイスしました。
「そうですよね!」とその時は納得して帰られるのですが、その後3ヵ月に1回くらいずつ、まったく同じご相談を繰り返しています。