羽生結弦が逃げずに向き合った3.11…避難所で震えながら見上げた震災の夜空、輝く星々満点の星空

 あの日、あなたはどこで何をしていたか。羽生結弦は避難所にいた。プロとなった今、アイスショー『羽生結弦 notte stellata』に彼は何を表現したのか。ノンフィクション作家の日野百草氏が綴るーー。

日野百草 ファンしか知らない羽生結弦

東京ドーム公演『GIFT』では20億円以上の経済効果

 プロフィギュアスケーター、羽生結弦の経済効果は絶大だ。たとえば五輪の凱旋パレードでは18億円以上、先日の東京ドーム公演『GIFT』では売り上げだけで20億円以上の試算が報じられている。東北全体では100億円とも、200億円とも。

 3月10日からの宮城県「セキスイハイムスーパーアリーナ」でのアイスショー『羽生結弦 notte stellata』会場に足を運ぶと、会場周辺には東北各地の物産店が軒を連ねていた。ファンの多くもその「美味いもの」欲しさと同時に「少しでも協力できるなら」と列を作る。アイスショーというだけではなく、多くの人々の「想い」が集うイベントでもあった。

 羽生結弦は、常にその自分の「経済効果」を、震災のため、多くの人々のために使ってきた。羽生結弦は被災者として震災後すぐにチャリティショーに出演、自伝『蒼い炎』シリーズの印税はすべて寄付している。先に莫大な経済効果の金額を書いたが、羽生結弦も2010年前後、震災直後は活動費、競技費用が決して潤沢だったわけではない。いくらでもお金が欲しい時期にもかかわらず、羽生結弦は震災に寄り添い、惜しげもなく寄付し続けた。

競技生活の中で出来うる限りの復興支援

 2018年4月、羽生結弦の五輪連覇の後に催された『羽生結弦選手「2連覇おめでとう」パレード』の余剰金、約2200万円(収支決算見込より)も宮城県スケート連盟に寄付した。もちろん、金額だけでなく、競技生活の中で出来うる限りの「復興支援」を身をもって実行してきた。

 羽生結弦は事あるごとに「震災を忘れてほしくない」「あの震災を伝え続けたい」と言ってきた。2014年ソチ、2018年平昌と五輪2大会連続の金メダルを成し遂げ、男子シングル初のスーパースラム(五輪、世界選手権、グランプリファイナル、四大陸、世界ジュニア、ジュニアグランプリファイナル)の達成者となった彼は間違いなく不世出のアスリートであり、歴史上の人物になることを約束されている、といっても過言ではない。だからこそ、エンタメに徹して震災のようなセンシティブな問題を避けることだって可能だったはずだ。

 しかし羽生結弦は真正面から「震災」と向き合ってきた。震災という記憶を、あのとき生きたかったはずの人々、そしてその家族や友人、自分の葛藤と戸惑いとを愚直なまでに。すべての震災という、時代を共有した人々すべての記憶を永遠にしたいと。

 ときに心ない言葉を浴びることもある。会場を「満員にした事実が欲しいだけ」「本当にファンを思ってやっているのか」とメディアを通して言われたりもする。それでも羽生結弦は「羽生結弦」という媒体をぜひ使って欲しい、僕はかまわない、だから少しでもいいから、震災とそこに生きた人々、そこに生きる人々を忘れないで欲しいと滑り続けてきた。

自慢するでもなく、贅沢をするでもなく、ひたすら羽生結弦として正直に

 実のところ、この詳細な事実がとくに大きく報じられるようになったのはここ数年の話である。それでも羽生結弦は続けてきた。何を自慢するでもなく、何を贅沢をするでもなく、ただひたすらに羽生結弦として、正直に。

 羽生結弦の経済効果とそれを役立てた慈善活動、今回の『notte stellata』にも羽生結弦の想いに賛同するたくさんの仲間、そしてファンが集った。被災して、独り震えながら見上げた震災の夜空、輝く星々に希望をみた羽生結弦青年は、その才能と努力でたくさんの富と名声を得たはずなのに変わることなく、あの青年の心のままに震災、そしてたくさんの星々とに寄り添い続ける。

この記事の著者
日野百草

1972年、千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経てフリーランス。国内外における社会問題、社会倫理のノンフィクションを中心に執筆。ロジスティクスや食料安全保障に関するルポルタージュ、コラムも手掛ける。2018年、評論「『砲車』は戦争を賛美したか 長谷川素逝と戦争俳句」で日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞を受賞。

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