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すぐに「発達障害だ」と決めつける大人たち、悩む「発達障害もどき」の子どもたち …親との夜型生活を直しただけで劇的変化

 「小中学生の8.8%に発達障害の可能性がある」。文部科学省は2022年12月、このような調査結果を発表した。一方、小児科医であり「子育て科学アクシス」の主宰者でもある成田奈緒子氏は、「学校や幼稚園・保育園で悩みを抱える子どもの多くは『発達障害』ではなく『発達障害もどき』かもしれない」と指摘する。「発達障害もどき」の定義と、子どもの言動に苦悩する親がすべきこととは――。 

※本稿は成田奈緒子著『「発達障害」と間違われる子どもたち』(青春出版社)から抜粋、編集したものです。 

 学校などから「発達障害では?」と指摘されて、私のところに相談にくる事例の中には、医学的には発達診断の診断がつかない例が多く含まれています。私はそのような例を「発達障害もどき」と呼んでいます。 

 周囲から見ると言動に発達障害と同様の症候があり、教育現場で発達障害を疑われる。その言動のために子どもたち自身もとても困っている。もちろん、親御さんも悩み苦しんでいる。だが、実際は発達障害ではないというケースがあるのです。この発達障害もどきは、次の3つのカテゴリーに分けられます。 

1.診断はつけられないが、発達障害の症候を見せるもの 

 落ち着きがない、集団生活に適応できない、衝動性が高いなど、発達障害と類似した症候があり、相談に来られる親子は多くいますが、必ずしも全員に発達障害の診断をつけられるわけではありません。 

 発達障害は「先天的な脳の機能障害」と定義されるため、診断のためには「生まれたときからの生育歴」を聞き、それを診断基準に照らし合わせる必要があるのですが、生育歴にまったく問題はなくてもあたかも「発達障害のような」行動が見られる子どもがいます。 

 これこそまさに、発達障害もどきといえます。特に小学校入学前までの幼児期に多く見られます。 

 このような子どもたちによく見られるのが、生活リズムの乱れと、テレビやスマホ、タブレットなどの電子機器の多用です。 

 脳の発達においては、生まれてから5年間は「動物として生きていくためのスキルの獲得」が優先されます。 

 生活の中で五感にくり返し刺激を入れて脳を発達させ、自然界で生き延びる力を獲得するのが大切で、この原始的な脳が発達していないと言語も感情制御も社会性も獲得できないのです。生活リズムが乱れ電子機器を多用すると、この原始的な脳の発達が遅れ、脳機能のバランスが崩れるため、発達障害と同じような行動を見せるのだと私は思っています。 

事例1.生活を変えただけで、言動が変わったAちゃん 

 Aちゃんは当時4歳の女の子でした。偏食がひどく、お友だちを叩いたり暴言を吐いたりするなど、発達障害でみられる問題行動が幼稚園で観察されていました。園の先生から、専門機関に行くことを勧められ、私の主宰する子育て科学アクシスに相談にきたのです。 

 Aちゃんのご家庭では、お父さんが帰ってくるのがいつも23時頃だったそうです。Aちゃんのお母さん自身が、自分の父親とあまり関わりがない育ち方をしていて寂しかったという記憶があり、家族一緒の時間をとても大切にしていました。なので、なんとAちゃんとお母さんはお父さんが帰る夜中まで起きて帰りを待っていたのです。 

 お父さんは料理が得意で、帰宅後に晩御飯をつくります。それをみんなで食べてから寝るので、就寝は夜中の2時くらい。当然、Aちゃんは朝、スムーズに起きられません。ひどいときには9時半起床、通っている幼稚園には10時の登園時間ギリギリに滑り込む生活を続けていました。 

 私は、そういった生活の話を聞いた上で、Aちゃんのお母さんに「Aちゃんの脳の発達のバランスが崩れかけているので、脳を育て直しましょう」と、お伝えしました。Aちゃんの脳をしっかり育て直すためには、父親の帰りを待っていないで早く寝て、Aちゃんを朝7時には起こすことが大切だと話したところ、お母さんも納得して、生活の立て直しを実践してくれたのです。 

 生活を変えてからというもの、Aちゃんにはさまざまな変化が起きました。朝7時に起こすことを毎日くり返していると、夜8時には眠くなって寝つくようになったのです。さらに、朝ご飯もきちんと食べるようになり、幼稚園でもそれまでは自分から友だちの輪に加わることがなかったのが、自分から仲間に入り、コミュニケーションを楽しめるようになったそうです。 

 友だちとのトラブルもなくなり、落ち着いて字まで書けるようになり、何をするにも集中できるようになったとのこと。生活リズムを立て直すだけで、Aちゃんの気になる言動がみるみる消えていったのです。特別な療育も薬もAちゃんには必要ありませんでした。 

2.医師以外から「プレ診断」を受けるもの 

 本来、発達障害と診断できるのは、免許を持った医師だけです。しかし最近は普段、子どもを見てくれている保育士さんや幼稚園の先生、学校の先生から「発達障害では」と、「プレ診断」を受けるケースが多くあります。 

 特別支援教育の必要性が世の中に広まり、特に保育園や幼稚園、学校現場では発達障害に関する研修も充実し、多くの方が発達障害の知識を持つようになりました。その結果、このケースは増えているように感じます。 

 ただ親御さんに「発達障害かもしれません」と伝えることについては、先生たちも悩み考えての結果です。子どもにむやみやたらに悪いレッテルをはりたいわけでなく、「可能性がある」と伝えることで、子どもの暮らしをよいものにしたい、必要であれば医師のもとにつなげたいと思ってのことです。 

 しかし、その言葉を真に受けて、ストレートに行動することは危険です。プレ診断しか受けていないのに、「この子は発達障害だから」「グレーゾーンだから」と決めつけるのはやめましょう。 

 まずは、「今の生活の中で改善できることはないか」を模索してみること。その上で、信頼できる医療機関に相談するのをおすすめします。

3.発達障害の診断をしたものの症候が薄くなるもの 

 最後、3つ目の発達障害もどきは、「発達障害の診断がついていたにもかかわらず、その後、症候が薄くなったケース」です。これは私の診た子どもたちの中で実際に起きているのですが、生育歴などを確認し診断をつけた子であっても、その後の生活・環境改善により、症候が目立たなくなることがあるのです。 

事例2.中学生で症候が薄まったS君 

 中学生の男子、S君の例です。S君がはじめてアクシスに来たのは小学生のときのこと。行動面でも生育歴を見ても、発達障害の診断がつく男の子でした。 

 幼少期の様子を伺うと集団の中で人に合わせることが難しい、言葉の出が遅い、歩くようになったのは早いけれど「ハイハイ」する時期がまったくなかった、かかとをつけずにいつもつま先立ちで歩いている、物の置き方や朝の行動の順番にこだわりがあるなどの症候があったとのことでした。  

 S君は、小学生になっても言葉がスムーズに出ませんでした。そのため、コミュニケーションがうまくいかないストレスから、周囲に暴言や暴力が出てしまっていたのです。話をよく聞くと、S君もS君の親御さんも生活リズムが乱れていて、家族そろって夜型の生活だということがわかりました。 

 アクシスでの生活改善指導を受け、S君一家は、家族一丸となって生活を変えてくださいました。その成果といってよいでしょう。6か月後にはS君の問題行動は徐々に消えていったのです。中学生になった今では、症候はほとんど見受けられず、S君は朝5時に起床し、短い散歩をしてから朝ご飯をもりもり食べ、朝早くから学校に行き、自主的に勉強をしているそうです。 

 今のS君なら、学校等で「発達障害かも」と疑われることがないので、一生医師に相談することもなく過ごしてしまえたかもしれません。 

 これが、私のいうところの「発達障害だけど発達障害を表にしなくていい」発達障害もどきのタイプです。

 私が「発達障害もどき」と名づけるような症候を持つ子は、広い意味で環境が整っていないケースが多いのです。その結果、小学校入学前にしっかりと育っているはずの脳の大事な部分が育っていないことがあり、学校で問題を起こしてしまいます。 

成田奈緒子著『「発達障害」と間違われる子どもたち』(青春出版社)

 この発達障害もどきの増加は、文科省の「発達障害の可能性がある子が8.8%いる」という調査結果にも、少なからず関係しているように思います。 

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この記事の著者
成田奈緒子

1963年、仙台市生まれ。神戸大学医学部卒業、医学博士。神戸大学医学部で山中伸弥氏と机を並べた同級生。米国セントルイスワシントン大学医学部、独協医科大学、筑波大学基礎医学系を経て2005年より文教大学教育学部特別支援教育専修准教授、2009年より同教授。2014年より子育て支援事業「子育て科学アクシス」代表。主な著書に『山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る』(講談社)、『高学歴親という病』(同)など多数

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