イオンモールしかないでしょ…醜いマウント合戦!限界東京共働きママvs自称ノビノビ幕張専業ママ”All forイオン”連載タワマン文学「TOKYO探訪」
五月病でめっきり創作意欲を失っている窓際三等兵先生が捻りだした連載タワマン文学「TOKYO探訪」第15話の舞台は千葉・幕張。超巨大モールを舞台にした女の醜いマウント合戦。東京で消耗している共働きママと、幕張在住の元駐妻ママ、勝つのはどっちだ。そして、なぜ幕張民はイオンを死ぬほど愛すのか――。
イオンは文化の中心地…イオンのために作った幕張豊砂駅
「イオンで子供たちを遊ばせてからウチでご飯食べよっか」。詩織のLINEが画面に表示された時、真っ先に浮かんだのは憐憫(れんびん)の情だった。仕事を辞めて旦那の海外駐在について行き、ようやく帰国したのに、たどり着く先はイオンなのか。幕張という、文字でしか知らなかった街のイメージが故郷の地方都市と重なった。
「あるくのつかれた」とグズる息子の手を引いて、延々と地下通路を歩いた先にある京葉線のホーム。葛西臨海公園駅で幸せそうな家族連れが、舞浜駅で浮かれたカップルが次々と降り、急にガランと空いた車内。はじめて見る、舞浜より奥の車窓から見える東京湾は濁っていて、薄汚れた壁の倉庫が並んでいた。
「次は幕張豊砂です」。到着を告げる車内アナウンス。イオンのために新しい駅を作ったという話を聞いた時は思わず笑って、そして少し悲しい気分になった。さびれた駅前のロータリーで、イオンまでの送迎バスを待っていた高校時代を思い出してしまったから。東京に出て、すっかり忘れた世界。
かつて、イオンは世界のすべてだった。シネコンがあって、本屋があって、無限に時間をつぶすことができた。イオンとは地方における文化の中心地であり、まぎれもなく青春の一部だった。大学で知り合った首都圏出身の同級生が、中学生から渋谷や新宿で遊んでいたと聞いて、急に恥ずかしくなるまでは。
個性を持ったそれぞれのイオンが集結した史上最強のイオンモール
幕張豊砂駅の質素な駅舎の前には、バスのロータリーとイオンだけがあった。情緒や無駄をすべて削ぎ落とした風景。一本前の電車で到着した、ベビーカーを押す麻里奈と合流する。「てか久々の再会なのにイオンって」。その乾いた笑いに含まれた感情を共有し、私たちは自分の人生が間違ってなかったと確認する。
でもそんな密かな勝利は、イオンモール幕張新都心の持つ圧倒的な物量の前に気圧される。ファミリーモール、ペットモール、アクティブモール、グランドモール。個性を持ったそれぞれのイオンが連結されており、巨大な小宇宙を構成していた。私たちの知っているイオンとはまるで別物で、ただ言葉を失う。