「私はヤングケアラーだった」人気エッセイスト・トイアンナの壮絶人生「あの時、私はきっとやっていた」…酒で荒れる母、頼り方を知らない子どもたち
10歳から家事に追われた”ヤングケアラー”だった30代の男が55歳の母親を暴行死させる事件が2022年7月に起き、2023年5月に懲役5年の実刑判決が言い渡された。ヤングケアラーとは家族の介護やケア、身の回りの世話を担う18歳未満の子どものことだ。この事件は他人事ではなないと語るのは人気エッセイストのトイアンナ氏だ。みんかぶプレミアム特集「逃げの介護」第5回はトイアンナ氏がヤングケアラーだったときの経験と、ヤングケアラーの助け方を語るーー。
目次
私は10歳で死ぬのか、だったらこの親を殺してからにしよう
初めて死のうと思ったのは8歳のころだった。
母は朝5時から夜1時まで働き、帰ってくるとお酒を飲んで荒れた。さらにはスピリチュアルに傾倒して「予言によると、あんたは10歳で死ぬ」と言い続けた。
私は10歳で死ぬのか、だったらこの親を殺してからにしよう。そう思ったのである。
月日は流れ、私は親を殺さず踏みとどまり、いい年こいた大人になった。そして私がかつては「ヤングケアラー」だったと気づいたのは先週のことだ。
ヤングケアラーという言葉は知っていたが、てっきりシニアを介護している子どもだけを指すのだと誤解していた。実際には、以下に当てはまる人は、ぜんぶヤングケアラーと呼ぶらしいのだ。
あなたも私もヤングケアラーだった
<ヤングケアラーの条件>
- 日本語が母語でない家族がいて、サポートをしている
- 親族に知的・身体・精神障害者がいて、ケアをしている
- 幼いきょうだいがいて、親の代わりに面倒をみている
- 家族に要介護の方がいて、子が主な世話をしている
- 家族ががんや難病など、慢性的な病気と戦っている
- 家にアルコール、薬物、ギャンブル依存の家族がいる
- 家族が貧乏なので、未成年のうちから働かなくてはいけない
これを見て「え、俺も・私もヤングケアラーだったの!?」と、驚いた人もいるだろう。小学生の15人に1人がヤングケアラーであり、その大半はきょうだいと両親をケアしている。一般的にヤングケアラーで想像される「祖父母を甲斐甲斐しく世話する子ども」は、むしろマイノリティだ。
私の母は酒乱だ。酒を飲むと絡み酒を始め、よく父の同僚や親族を泣くまで詰めていた。さらに酔っぱらって網戸を蹴破ったり、飲酒運転で車を廃車にしたこともある。母親本人も酔っ払ったときに転倒して歯を折り、前歯は全部差し歯になった。さらに泥酔して肋骨を折るなど、散々な苦労を抱えている。