なぜゲストに頼るYouTuberはつまらないのか…「引退後も1億円」元ロッテ・里崎の野球解説ハック

 登録者数58万人を超える人気YouTuberに上り詰めた元ロッテの里崎智也氏。元プロ野球選手が開設したYouTubeチャンネルの中では、元巨人の上原浩治氏に次ぐ2位の登録者数を誇っている。里崎氏のYouTubeはなぜそんなに人気なのか。YouTubeに対して、里崎氏はどのような想いを抱いているのか――。全3回中の2回目。 

※本稿は里崎智也著『YouTube『里崎チャンネル』はなぜ当たったのか 再び1億円プレイヤーになるまでにしたこと全部』(徳間書店)から抜粋、編集したものです。 

第1回:プロ野球引退後「1億円稼ぐ人」と「メンタルになる人」の決定的な違い…元ロッテ・里崎が現役時代にやらなかったこと
第3回:仕事は常に”相手の言い値で動く”が正解な理由…自分を過大評価せずに「適正価格」を見つける方法・元ロッテ里崎

YouTube『里崎チャンネル』とは 

 『里崎チャンネル』の撮影は月に2〜3回。多い時は一度に10回分以上を撮ることもあります。撮影は基本、いつも使っているスタジオで、手伝ってくれるスタッフはだいたい2人。場合によっては、アシスタントの袴田彩会さんと僕の2人だけで撮影して、撮り終えた素材をスタッフに渡して編集だけお願いすることもあります。 

 また、試合のプレビューやグラウンドで突発的に何かが起きたときなど、速報性が勝負どころとなると判断したときには、出先などで僕一人でスマホに向かって喋った動画を直接スタッフに送って、編集してもらってアップしたりもしています。 

 動画の「ネタ」は99.9%、僕の発案。ネタが降りてくるのは、仕事の移動中であったり、家でくつろいでいるときなどもありますね。色んな仕事のスタッフと打ち合わせをしているとき、野球の試合を見ているときも含め、時も場所も選びません。頭の中にパパッと浮かんだら、すぐにスマホのメモアプリに箇条書きで記しています。 

 正直、それほどネタ出しに苦労している感じはないです。スタート段階でこそ試行錯誤しながらではありましたけれど、僕自身が「これだったらいけるんちゃうか?」と思えるテーマを挙げてきたので、ネタで迷うことはほぼほぼありませんね。 

 むしろスタートするときのほうが楽で、ルーティンになってからのほうが大変です。見る人の興味をそそる企画を次から次へと考えなくちゃならないんですからね。 

 僕の強みは、キャッチャー目線での解説ができること、そして日本シリーズでの下剋上、WBC、オリンピックの大舞台などの経験という裏付けがあることだと思います。 

 「えっ、里崎はそこを見ていたの⁉」と視聴者を想定外なところで驚かせながら納得させる。それが僕の野球解説の真骨頂ですし、YouTubeでもそこを求めて皆さん、僕のチャンネルに来られているんでしょうから。 

YouTube界の「ドン・キホーテ」を目指して 

 僕がYouTubeで目指しているものは、「ドン・キホーテ」や「ビックカメラ」です。この2つに行けば、探しているものはほぼなんでも揃いますよね。探し物がなくてぶらりと立ち寄っても、なんか面白い商品があったりする。 

 『里崎チャンネル』を見れば、なんか面白いことがある、と思ってもらいたいんです。そのためには、「こういう商品もありまっせ~」と幅広い動画を用意しておく必要があります。 

 そこで気をつけておくべきことが二つあります。一つは、「里崎が言えるのはこれだけだ」と話す分野を限定しないこと。なんのテーマを投げられても返せるようにしておくということです。 

 もう一つは、「他の人と内容がかぶらないこと」。今や大勢の元プロ野球選手が動画配信をしているので、明確に違いを打ち出さなければなりません。他の人がやらない切り口、着眼点、そしてきわどいこと(ヤバいことというわけではなく)を言い切れるかですね。 

 元プロ野球選手のYouTubeはとかくゲストに頼りがちです。確かに企画を考えなくてもいいという点では、手っ取り早くできる手段ですけど、それで再生回数が稼げたとしても、あくまでもゲストの力によるものなので、チャンネルをやってる本人のブランド力にはなっていかないと思うんです。 

 トランプにたとえて言えば、ジョーカーになってはダメ。ジョーカーってババ抜きやポーカーのときには必須のカードですが、それ以外のトランプのゲームのときには最悪なくてもどうにかなるカードなんです。 

 でも、例えば「ダイヤの7」がなければ、トランプのゲームはできなくなっちゃいますよね? そうした唯一無二の存在にならなければいけない。「オンリーワンの野球解説者」であり続けること。それがYouTubeでの発信にもつながってくるのだと思います。 

野球解説の革命!?「YouTubeで副音声」 

 『里崎チャンネル』で新たな試みを行いました。「史上初のYouTubeを使った副音声での野球中継」です。個人的には「野球解説の革命」だと思っているくらい。そもそも僕は野球解説の仕事について、こう考えています。「解説は主音声、雑談は副音声」。 

 フジテレビの番組でお笑い芸人のアンタッチャブルのザキヤマさんと副音声の解説を行ったときのこと。試合の流れはそっちのけで、僕らはひたすら雑談をしまくりました。しかも、野球以外の話ばかり。トークが白熱してくると、一人称が「僕」から「俺」に変わり、さらにヒートアップしていきました。 

 「野球の解説なのに野球の話をしないって、視聴者からクレームが来ないのか?」と危惧される人もいるでしょうけど、反応はまったく違って、視聴者から大ウケ。特にあまり野球を見たことのない視聴者が結構見に来てくれたみたいでした。 

 番組ディレクターも最初から了承済みだったのですが、副音声での僕のトークが気に入らなければ、わざわざ副音声に切り替えずに、主音声のままで普通に野球の解説を聞けばいいだけの話なので、副音声はすごく自由にやれるんです。 

 ザキヤマさんとの副音声があって以降、他のテレビ局もYouTubeを使って副音声の解説を取り入れ始めました。内容も僕ほどでないものの、かなり自由度は高め。副音声はあえて野球のことを話さないほうが、新規の野球ファンを取り込むことができるのかもしれません。 

 今、テレビでのプロ野球中継の視聴率が低迷しているという見方もあるみたいですが、これって捉え方が違うんです。テレビは「ライト層」。「コア層」は専門チャンネルで見ているんで、例えば巨人戦のテレビ中継での視聴率が5〜6%だとしても過小評価する数字じゃない。 

 ライト層の拡大をもっと図る必要はありますが、そこでYouTube 副音声が寄与してくれればいいなあと思いますね。 

YouTubeは「いつか終わるもの」 

 今は多くの人がYouTubeで動画を制作していますが、ただこれが10年、20年後も続いているかと言われれば、僕は未来永劫続いていくものじゃないと思っています。 

 今でこそ僕は、「自分が喋りたいことを世の中に発信していく」ことを信条に、YouTubeの動画を上げていますが、これから先、YouTube以上に魅力的なSNSが登場してくれば廃れていくことだって十分あり得ます。 

 そのとき、どうするか? 僕は焦りもせず、悲観的になることもなく、淡々といつもの日常を過ごしているでしょう。なぜなら今のこの時点でも、「YouTubeが終わりを迎えることを覚悟している」から。心のどこかで「これがいつまでも続くわけないよなあ」と思っているんです。 

 「何か新しいビジネスになるネタはないかな」と、日頃から情報集めは怠っていません。無論、そうしたからといって新たなビジネスをすぐにスタートできるわけもありませんけど、何もしないよりはずっとマシです。 

 そもそも僕の強みは「YouTubeだけで生きていない」ということ。僕の本業はYouTubeじゃありません。野球解説を軸として、テレビやラジオのプロ野球中継の解説やスポーツ紙の評論、野球教室の講師をしたり、ビジネスパーソン向けの講演会で話をすることだってあります。 

 年商1億円を達成した稼ぎの大半はYouTube以外の活動ですからね。詳細は規約上言えませんけど、稼ぎ全体の半分以下。だから、今日でYouTubeが終わってしまっても、失職するなどの悩みは一切ないんです。 

 今、YouTubeで稼いでいる人はもちろん、これからYouTubeで稼ごうと考えている人も、これだけは肝に銘じておくべきだと思います。「YouTubeで食っていける状況は永遠には続かない」。次のビジネスに向けた弾込めは忘れずに。

里崎智也著『YouTube『里崎チャンネル』はなぜ当たったのか 再び1億円プレイヤーになるまでにしたこと全部』(徳間書店)

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この記事の著者
里崎智也

1976 年、徳島県生まれ。鳴門工業高校、帝京大学を経て、1998 年、千葉ロッテマリーンズからドラフト2 位指名を受け入団。2005 年にチームの日本一に貢献。2006 年のWBC では正捕手として日本を世界一に導き、ベストナインに選出される。2008 年、北京五輪日本代表に選出。2010 年にレギュラーシーズン3 位から日本シリーズを制覇し、「史上最大の下克上」として抜群の勝負強さを見せつけた。2014 年に現役を引退。2015 年1 月より千葉ロッテマリーンズのスペシャルアドバイザーに就任。同年、日刊スポーツ野球解説者に就任。YouTube『里崎チャンネル』はチャンネル登録者数58 万人(2023 年1月現在)。

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